原油・貴金属はロックダウン緩和で実需回復か?未曾有の災厄で燻る懸念 <GW特集>

特集
2020年5月5日 10時00分

貴金属の現物相場では4月に金(ゴールド)が堅調に推移し、2012年11月以来の高値1746.69ドルをつけた。他の貴金属は金堅調につれ高する場面も見られたが、各国のロックダウン(都市封鎖)による工業用需要の減少に上値を抑えられ、戻りは限られた。 パラジウムは経済が停滞するなか、手仕舞い売りが出て再び2000ドルを割り込んだ。

金は米連邦準備理事会(FRB)が無制限の量的緩和(QE)を発表したことをきっかけに急伸した。労働市場が大幅に悪化するなか、米FRBが相次いで追加策を発表したことが金価格を押し上げる要因になった。米FRBのバランスシートは無制限QEを背景に4月22日時点で過去最高の6兆6200億ドルに膨れ上がり、3月第1週の4兆2900億ドルから1.5倍に拡大した。新型コロナウイルス対策法で米FRBのバランスシートは2倍まで拡大させることが可能で、まだ余力を残している。

一方、米国では第4弾となる4840億ドル規模の新型コロナウイルス対策法が24日に成立した。対策の合計額は約3兆ドルと、国内総生産(GDP)比で14%、年間歳出の6割という巨額の臨時支出となる。米議会では第5弾の対策も協議しており、経済活動の正常化を目指して巨額の資金が投入されると、金は引き続き上値を試すとみられる。

●各国のロックダウン緩和で需要増の見通しも

また、欧州など各国のロックダウン(都市封鎖)が来月に段階的に緩和される見通しとなった。経済活動が再開すれば寸断されたサプライチェーンが回復し、貴金属の現物も動き出す。プラチナ、パラジウムの取引はロックダウンによる経済停滞で縮小傾向にあったが、経済が動き出すと実需筋の取引が再開し、投資資金も活発に動くと予想される。QE相場のなか実需が回復すれば、急落したまま出遅れていたプラチナが上値を試す可能性が出てくる。

新型コロナウイルスの感染者は28日時点で世界全体で310万人、死者は21万8000人を超えた。最も被害が大きい米国では感染者が100万人、死者は5万8400人を超えた。米国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長は当初、米国での死者は最大20万人になる恐れがあると警鐘を鳴らしたが、感染対策の効果が認められたことで予想を下方修正した。

感染拡大にピークアウトの兆しが見られると、トランプ米大統領は経済活動再開に向けた指針として正常化へ3段階のプロセスを開始すると発表した。米南部ジョージア州は24日にロックダウンを緩和、一部の店舗での営業が再開された。ミネソタ、ミシシッピ、コロラド、モンタナ、テネシーの各州もロックダウン緩和に向けた用意を進めており、経済活動再開に対する期待感が高まっている。米国の次に被害が大きいイタリア、スペイン、フランス、英国も来月からロックダウンを段階的に緩和する見通しである。

ドイツでは20日、試験的なロックダウン緩和で一部店舗の営業を再開した。独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は27日、同国の同社最大の工場で操業を再開したことを発表した。稼働率は10~15%から始め、1週間後には約40%に上げていく予定だという。VWグループは各国での業務も再開する見通しであり、他社もロックダウン緩和で操業を再開すればプラチナ系貴金属(PGM)の自動車触媒需要が回復し、支援要因となる。

貴金属の大手生産国である南アフリカでは5月1日にロックダウンを緩和し、制限措置の段階を最も厳しいレベル5から4に引き下げる。鉱山会社はロックダウンによる操業縮小でPGM供給に対する不可抗力条項を宣言していたが、操業が再開されれば供給逼迫が解消されることになりそうだ。金は精錬所の閉鎖や航空便の減少を受けて供給が追いつかずニューヨーク市場でプレミアムがついているが、ロックダウン緩和で徐々に解消されるとみられる。

一方、金の大手消費国であるインドでは感染拡大が止まらず、ロックダウン緩和は厳しい状況となっている。同国では4月のフェスティバルが金の需要期だが、宝飾需要の急減で今年の需要は350~400トンと1991年以来の低水準になるとみられている。前年は690.4トン。ロックダウン緩和後に時期を遅らせて購入するかどうかも焦点である。

●コロナ禍に乗じる中国と米国の対立を警戒

南シナ海で米中の対立が表面化しつつある。中国政府は18日、南シナ海で行政区の「西沙区」と「南沙区」を新設すると発表した。中国は2012年に南シナ海の諸島を管轄する自治体として海南省三沙市を一方的に設定していた。中国は新型コロナウイルスのロックダウンを解除しており、南シナ海での軍事拠点化を進めている。ベトナムやフィリピンが中国に抗議し、米海軍第7艦隊は米豪両海軍が南シナ海で合同演習を実施したと発表した。

3月に米空母の乗員から新型コロナウイルスの感染者が出て米軍が疲弊するなかでの中国の攻勢であり、海洋覇権を巡って対立が激化するようなら金市場で材料視される可能性も出てくる。また、日本では尖閣諸島近海への中国公船の侵入が目立っている。日米は日本海や沖縄周辺の上空で訓練を実施し、中国をけん制している。

もう一つ留意したいのは、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の重体説が伝えられ、北朝鮮情勢を巡って先行き懸念が出ていることだ。中国が医師団を派遣したと伝えられたが詳細は分かっていない。ただ、トランプ米大統領は「知っているが、今はそれについて話せない」と述べており、状況を把握しているもようである。

●原油は経済活動再開で需給均衡に向かうかが焦点

原油は4月、各国のロックダウンを受けて需要が急減するなか、貯蔵施設が満杯になるとの見方から暴落し、ニューヨーク5月限が初のマイナス価格をつけた。

石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の主要産油国で構成する「OPECプラス」が5月から日量970万バレルの減産を実施することが下支え要因だが、需給が均衡するにはさらなる減産が必要とみられている。米国のリグ稼働数が大幅に減少し生産減少を強いられているが、貯蔵施設に対する懸念は残っている。ただ、各国がロックダウンを段階的に緩和する見通しであり、需要は回復に向かっている。ニューヨーク6月限の納会(5月20日)に向けた動きが当面の焦点である。

米国の大手石油ETF(上場投信)であるUSOはニューヨーク原油にポジションをつないでいるが、5月限のように暴落する事態を避けるため、6月限は早めに手仕舞い、期先にポジションを移している。一方、USOの残高は年初の9160万株から4月28日時点で14億8290万株に急増し、原油価格の暴落を受けて大量の資金が流入している。また、米エネルギー省が戦略石油備蓄の貯蔵施設の余力分7700万バレルの一部を貸すための手続きを進めており、6月限が平穏納会を迎えれば、原油の大底を確認することになるとみられる。[2020年4月30日 記]

(MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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