米大統領選に向け石油需要は視界不良、マイナス価格は混乱の幕開けを告げたのか <コモディティ特集>

特集
2020年5月27日 13時30分

原油相場が一段と回復するかどうかは世界経済の行方次第である。ニューヨーク市場で史上初のマイナス価格まで大暴落したウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)は1バレル=35ドル付近まで上昇し、未曾有の荒れ相場は終わったようにみえるが、石油の需要見通しは曇ったままだ。

新型コロナウイルスの流行を抑制するための都市封鎖などの制限を経て、各国は経済活動を再開しつつある。先週、国際エネルギー機関(IEA)が発表した月報では、直近のピークで約40億人が移動を規制されていたが、5月末時点で約28億人まで制限を受ける人々が減少すると予測している。ただ、景気のV字回復を期待するのは楽観的である。短期間で世界全体の石油需要が従来の日量1億バレル規模を回復することはないだろう。

各国の雇用統計で一目瞭然だが、雇用は崩壊している。特に飲食やレジャー産業の壊滅ぶりは凄まじく、人々が密集することで成り立っている業種は先が見えない。社会的距離(ソーシャルディスタンス)を意識し、飛沫感染の抑制に努めるならば、こうした産業が以前ほどの売り上げを確保するのは困難であり、失業率は十分に改善しない可能性が高い。有効なワクチンが開発されて流通するようになればコロナショック前のような社会に戻ることができるかもしれないが、歴史に名を刻んだ「COVID-19」の記憶は生活様式にその片鱗を残すだろう。人々が以前の距離感を取り戻す日は来るのだろうか。

●コロナショックを機に変貌するサプライチェーン

雇用市場が壊滅しているとはいえ、生活様式の変化による石油需要の押し上げを想定することは可能である。旅客機やバス、電車など集団での移動を極力避け、自動車で移動することが中心となるならば、需要は上向く余地がある。石油製品のなかで最も大きな割合を占めるのはガソリンである。ただ、オフィスなどへの通勤が問い直されているなかで、ガソリン需要の拡大が石油市場を救うとは思えない。雇用環境が悪化していることから、自動車販売台数の急拡大は期待できない。

新型コロナウイルスが世界経済のあり方を変えようとしていることも、石油の需要見通しを不透明にしている。医療品など戦略物資だけでなく、ありとあらゆる生産を人件費の安かった中国に依存してきたツケは大きく、中国を介したサプライチェーンは急激に変化していくに違いない。生産拠点の本国回帰である。経済のグローバル化がある程度揺り戻されるのか、本格的なブロック化に向かうのか見通す糸口さえつかめず、経済構造の変化を前提とした石油需要の変動など想像すらできない。重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、COVID-19の次を警戒しながら新たな体制が構築されていくだろう。

●米大統領選に向けて先鋭化する米中対立

石油市場を展望するうえで最も不透明なのは、反中感情の高まりである。いまさら繰り返すことではないが、新型肺炎は多くの命を奪いすぎた。戦時並みである。ジョンズ・ホプキンス大学の調査によると、世界全体の感染者数は550万人規模まで拡大しているが、日々の新規感染者数は10万人前後と未だに鈍化する兆候はみられない。世界の死者数は35万人近くまで増加した。死者数は米国で約10万人と最も多く、英国、イタリア、スペイン、フランス、ブラジルが続く。

トランプ米政権は新型肺炎を流行させたとして、中国への口撃を続けている。11月の米大統領選に向けて中国批判はさらに高まっていくだろう。米国の自由だけでなく、仕事も家族も奪われた市民の怒りは米大統領選の最大の焦点である。就任した当時から様々な批判を浴びてきたトランプ米大統領が政治的な演出の一環として反中感情を煽っているわけではない。トランプ米大統領の就任後、地域や人種、世代などによる米国の分断を嘆く声が多かったが、幸か不幸かコロナショックが米国を団結に向かわせるのではないか。香港だけでなく、新疆ウイグル自治区の人権問題も米中対立を先鋭化する。先月、史上初のマイナス価格となったWTIは混乱の始まりを告げただけかもしれない。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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