山岡和雅が読む米大統領選、マーケットを待つのは混乱か福音か?! <緊急特集>
山岡和雅(MINKABU PRESS 外国為替担当編集長)
◆世論調査ではバイデン氏のリードは大きいが…
11月3日に行われる米国大統領選挙。選挙前の世論調査の動向では民主党のバイデン前副大統領が、共和党の現職トランプ大統領をリードしています。
前回2016年の大統領選でもトランプ氏は民主党のクリントン候補に世論調査でリードされていたため、今回も逆転を意識する動きがありますが、10月に入ってもその差がかなり大きいこともあり、さすがに厳しいという見方が広がっていました。ただ、一時に比べてリードが縮まってきてはいます。
まずは現在の状況を確認してみます。直近の動向ですが、各種世論調査をまとめた著名な選挙関連サイト「リアル・クリア・ポリティクス(RCP)」によると27日時点で、バイデン候補が7.4ポイントのリードとなっています。
ほとんどのメディアや調査会社が前回の選挙で民主党候補であったクリントン氏の勝利を予想する中で、共和党候補のトランプ氏の勝利を的中させた保守系調査会社ラスムッセンレポートですら、今回は僅差ながらバイデン氏のリードを予想しています。その他も軒並みバイデン氏の優勢を示しており、CNBCなど大手メディアの中には10ポイント以上のリードとしているところもあります。
2016年の選挙では、クリントン氏が優勢といわれながらトランプ氏が逆転勝利しました。このため、今回もバイデン氏がリードしているとはいえ、先行きは不透明との見方があります。ただ、前回はクリントン氏が優勢とは言っても、10月時点でのリードは最大値で7ポイント。実際はもう少し小さいリードでの状況が続き、大統領選直前では2.9ポイントまで縮んでいました。
実際の選挙結果ではクリントン氏がトランプ氏を2.1ポイント得票率で上回りました(選挙方式の関係で、得票数の差が勝敗とイコールにはなりません)。この結果を見る限り、全米規模では世論調査と選挙結果の乖離はそれほど大きくないといえます(さすがに0.8ポイントは誤差です)。
そう考えると、現時点での7.4ポイントのリードはかなり大きいといえます。
もう少し詳細にみていきましょう。米国の大統領選は、全国区ではなく、州ごとに割り当てられた選挙人の数の獲得数で争います。選挙区ごとの世論調査状況から選挙人の動向をみると、両者の支持率の差が比較的小さく、どちらにもチャンスがある州の選挙人が181人、バイデン氏でほぼ確定的な選挙人が232人、トランプ氏が125人となっています。こちらでもバイデン氏がかなりの優勢です。270人を確保すると勝利ですから、中立の中から38人を確保すればよいだけになります。
◆状況は一気に混沌、バイデン氏勝利の2つのシナリオ
こうした状況を受けて10月半ばごろから、市場はバイデン氏の勝利を織り込みつつあるように見えました。ただ、ここにきてトランプ大統領が支持率を盛り返してきたこと、郵便投票の取り扱いを含め、開票後もごたごたが続く可能性が出てきたことなどで、状況が一気に混沌としてきました。シナリオをいくつかに分けて相場への影響を考えてみましょう。
まずはバイデン氏が下馬評通りに勝利した場合。
バイデン氏はトランプ減税と呼ばれた企業減税の廃止、富裕層に対する増税などを公約としており、従来は当選した場合に米国株安を招くという懸念がありました。しかし、ここにきて状況に変化が見られます。民主党が打ち出している大型の追加経済対策案の実現可能性が高まり、 米国株式が支えられるとの見方が広がったことによるものです。
そのため、バイデン氏勝利の場合は、さらに2つのパターンに分けて考えた方がいいでしょう。
1つは、いわゆる「トリプルブルー」となった場合。これは大統領選に加え、同時に行われる上院選(全体の3分の1)、下院選(全議席)の3つとも民主党陣営(イメージカラーが青)が勝利した場合です。
現状でも民主党が多数派を占めている下院での民主党の勝利はほぼ確定的な情勢です。焦点となるのは、現在100議席中53議席を共和党が占め、共和党が多数派である上院です。なお、2年ごとに全議席が改選となる下院と違い、上院は任期が6年。2年ごとに約3分の1ずつ改選となります。今回は健康上の理由での退任分などを含め35議席を争います。このうち現在、共和党が占めているのが23議席、民主党が12議席となっており、非改選議席数は共和党が30議席、民主党が35議席となります。民主党としては現在の議席を維持して、共和党の23議席のうち3議席を奪えば50議席に乗ります(過半数は51議席ですが、50対50になった場合、副大統領採決となり、与党側が賛成多数となりますから50議席でOK)。そのため、かなり有利といえます。
トリプルブルーとなった場合、バイデン大統領および民主党の主張は議会でかなり通りやすくなります(法案によっては上院で少数党の議事妨害権があるため、何でも通るわけではありません)。
追加経済対策に関しても、民主党が主張する大規模な案の実現に向けて大きな前進となるため、こちらは米国株式にとっても安心材料になるでしょう。
リスク選好での円売りドル売りで ドル円はやや動きにくくなる可能性があり、すべてのパターンの中で最も落ち着いた相場展開が見込まれるシナリオです。
続いて、上院は共和党が制した場合。こちらは新大統領による医療制度の改革、富裕層への増税、さらには民主党が主導する大規模な追加経済対策などの進行に際して、議会での上院共和党との調整が必要になります。2018年の中間選挙で民主党が下院で多数派を奪い返してから、トランプ大統領の動きがかなり抑えられたように、上院と下院とで多数派政党が違う状況は政策運営に大きく影響します。大統領を擁している以上、民主党主導での追加経済対策案への期待が高まるものの、トリプルブルーのようなスピーディーな対応は難しいと考えられます。ドル円にとっては若干のドル売り材料として意識されそうです。
◆トランプ大統領再選のシナリオともう1つの可能性
一方、大逆転でトランプ大統領が再選を果たした場合はどうなるでしょうか。ここにきて支持率の差が縮まってきましたが、10月に入っても最大で10.2ポイントの差があっただけに、市場はバイデン氏の勝利をすでにかなり織り込んでいます。
トランプ氏再選ならば、サプライズ感が強まるだけに、市場も大きく反応しそうです。企業減税の継続などを通じて米国株にはかなりの好材料となります。株高からのリスク選好の動きが一気に広がると見込まれます。ドル売り円売りの動きが期待されますが、円売りの動きが勝りそうで、大きなドル円の上昇が期待されます。
そして、ここにきてもう1つの可能性が浮上してきています。新大統領が決まらない可能性です。
新型コロナウイルスの感染第3波の動きが強まる中、今回の大統領選は郵便投票が記録的な数に増加しています。しかし、郵便投票に関しては開票に手間がかかることから、確定までかなりの時間を要します。投票用紙一枚一枚に本人や承認の署名が正しく行われている有効票かどうかをチェックする作業が発生するからです。また、消印は期限内でも、期限後に選挙管理委員会に届いた票の扱いも問題となります。米国の郵便状況は決して良いものではなく、期日内に郵便投票が届かずに無効票が大量に発生するといった事態が起きる可能性まで指摘されています。
こうした状況が発生すると、不利を受けた陣営から司法への提訴が行われると見られます。こうした中、選挙人を確定できない選挙区が増え、両陣営ともに1月6日の期限までに過半数270人の選挙人を確保できない可能性があるのです。
1月6日までに過半数を得た候補者がいない場合は、上院で副大統領が、下院で大統領が決められます。現在下院では民主党が多数派を占めており、選挙後も多数派を維持することがほぼ確定的な状況です。しかし、大統領選出の場合のシステムは通常とは違い、各州1人の下院議員が代表となり、50州の投票で26州以上を抑えた方が勝ちとなります。下院議員数1人のワイオミング州でも1票、53人の下院議員を有するカリフォルニア州でも1票です。この区分わけをした場合、現有議席では共和党が26州を押さえる格好となります。なお、民主党が今の党勢を生かして議席を増やし25州対25州になると、上院で選出された副大統領が大統領代行になり、さらにややこしいことになります。新大統領決定まで相当な混乱が生じると予想されます。
こうした状況は市場にとっては大きなリスク要因。リスク回避の円買いが一気に広がる格好でドル売り円買いが強まる可能性があります。
(2020年10月30日 記)
株探ニュース