武者陵司「2021年の景気拡大前に、投機化する米国金融」<後編>

市況
2020年11月18日 10時00分

武者陵司 「2021年の景気拡大前に、投機化する米国金融」<前編>から続く

(3)2021年に予想される金融市場の趨勢

●FRBの超々金融緩和は終盤である可能性

鍵となる米国長期金利は8月0.5%でボトムを打ち長期上昇トレンドに入ったとみられる。米金融緩和は弾力的でありプラグマティックである。景気とワクチン及び財政による経済支援策次第であるが、これ以上の緩和はない可能性がある。とすれば、ドル安も終焉するのではないか。

2021年の後半までには2011年を起点とした長期ドル高基調に戻っていくと思われる。年後半に期待される米国景気の本格回復、長期金利の趨勢変化のもとで、株式物色は景気敏感のいわゆるバリュー株にシフトしていくだろう。グロース株の一定の調整が予想される。

●2021年は米国は投機の年に、日本が安全地帯に

2021年の金融市場の最も大きな特徴は高まる投機性、高止まるボラティリティであろう。ボラティリティ=投機性の強さは、基本的には、株式の超過リターンの大きさによって決定されると考えられる。金利が低く株式の超過リターンが大きいとなれば、投資家はレバレッジを高めてより大きな投資成果を追求する。その高レバレッジポートフォリオの高リターンは時折到来する市場の大波によって逸失する。このボラティリティコストを通して、株式に存在する超過リターンは様々な市場参加者、金融機関、投資家に再配分される、というメカニズムが存在している。2010年代を通しての日本株式の荒い値動きの原因は、著しい低金利の下で、株式益回りとの差=超過リターンが著しく高かったからといえる。投機ポジションの妙味がとても大きかったのである。

しかし、コロナショック以降、米国の長期金利が急低下し、株式益回りとの差である超過リターンは米国が日本以上に大きくなった。この大幅な超過リターンに引きずられて、世界の投機プレイヤーは米国株式市場に吸い寄せられていると考えられる。

●経済回復、潤沢な投資資金と投機性という金融環境は、適切な投資対象を探しにくくする

景気回復、インフレの高まりと長期金利の上昇により、国債・現金などのリスクフリーアセットがむしろ危険になるのではないか。他方、株式はボラティリティが高まり、投機化し(バブル化とは言えない)投資対象としては扱いが難しい。コロナの影響が小さく経済回復が顕著なアジア株が注目されるが、アントフィナンシャルの挫折に見られるように、中国投資にもリスクがある。

●消去法的に見ても、日本株が有望な選択肢になるだろう

この中で、 日本株式の安定性が注目を集めている。米国株式とは対照的に、日本株のボラティリティが相対的に大きく低下し、日本は低リスクの市場になった。2020年9~10月の米国株の10%の変動に対して日本株式は3%にとどまっている。いわば日本株は、世界有数の危険地帯から安全地帯へと移行したのである。2010年代を通して日本株式市場は著しく投機的でボラが高く、個人などの投資家は近づき難かった。日本株式取引の7割を占める外国人投資家は、投機(トレード)目的主体のプレイヤーであったためである。

しかし、そうした小鬼(投機プレイヤー)たちがNY市場に移動したことによって、日本市場に落ち着きが戻ってきたようである。

1.コロナ感染少なく、経済正常化加速が見込まれること、

2.世界的景気拡大の中で、景気敏感セクターの日本株へ

⇒中国回復の恩恵を受けたグローバル企業の企業業績好転、

3.菅改革政権登場に対する評価、

4.ウォーレン・バフェットの商社株投資に触発される、

5.日本株式の需給は極めて良好、海外投資家日本株アンダー

6.バリュエーションは先進国最低、

など、探せば日本株式投資を大きく積み増す要因が山積している。

●日銀のクレバーな新金融政策

日銀による新たなオペレーションが注目される。QEを抑制し長期金利の上昇を容認、他方で経営改革を打ち出す地銀に対して当座預金に0.1%の付利をつけ、事実上の補助金を与えるという経営支援である。加えて、イールドカーブのスティープ化で金融機関の収益は改善される。こうした条件の下では 円高が進行すれば直ちにマイナス金利の深堀りが可能となる。改革を促進し、返す刀で円高投機を抑えるという妙手となる。1ドル100円以上の円高の心配は消えた、と言っていいのではないか。外国人が一番評価するものはこの新政策かもしれない。

(2020年11月17日記  武者リサーチ「ストラテジーブレティン266号」を転載)

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