ゼロから始める「株探」の歩き方　― (32)総悲観の時も、熱狂に包まれた時も、株価は本来の企業価値を基準に動いている【市場マップ】

「ターゲットプライス」をトレードに活かそう

横山利香（ファイナンシャルプランナー、テクニカルアナリスト）

◆配当利回り分布マップ、株主還元に着目するバリュー分析

バリュー分布の最後の項目である「配当利回り」をみていきましょう。配当利回り（％）は「1株当たり配当金÷株価×100」で計算することができます。配当利回りの数値が高い方が投資効率は高くなりますので、数値が高いほど一般に市場では評価されます。

企業は一般的に利益の一部を株主に還元するために配当金を支払います。ところが、業績不振や経営方針の変更などにより配当金を減らしたり（減配）、支払わない企業（無配）もあります。特に新型コロナウイルス感染症の影響で需要が低迷している業種では、減配や無配、または未定とする企業が増えていることもあって、配当金の多い企業、いわゆる高配当銘柄に人気が集まりやすくなっています。ただし、配当金は業績に応じて変動しますので、現在の高配当銘柄が将来もそうであり続けるとは限りませんので注意が必要です。

配当利回りの分布マップでは、配当利回りの「5％以上」から「1％未満」まで緑から白へ濃淡をつけて6段階に色分けしています（図7）。配当利回りが高いほど濃い緑で表示されます。マップ内の赤い「×」は無配予想を、グレーは配当予想が未定であることを表しています。

図7　6段階に色分けされた「市場マップ」の配当利回り分布マップ（東証1部）

配当利回りの分布マップ内の小さな四角形の上にマウスのポインタを移動すると、業種と市場、コード番号、銘柄名、株価、上昇・下落率、配当利回りの値をポップアップウインドウで確認できます。この四角形のマス目をそのままクリックすると、個別銘柄の「基本情報」ページに移動できます。

「配当利回り」の分布を「東証1部」で表示させると、全体的に緑色で表示されていますが、「新興市場」では無配を表す×印が多くなっています（図8）。東証1部の企業はすでに成熟した企業が多く、株主への利益還元を重視して配当を行いますが、新興市場の場合は上場から間もなく、利益を成長投資に重点的に振り向けるために無配を選択している企業も多いためです。どちらがよいかは投資家個々人のスタンスにもよりますので、一概に無配だからダメ、高配当だからよいというものでもありません。

図8　「新興市場」の配当利回り分布マップ

このように「バリュー分布」では、個人投資家であれば最低限知っておきたい3大指標（PER、PBR、配当利回り）を用いて市場やセクターの地合いを視覚的に把握することができます。

投資環境は絶えず変化し続けていて、その時々で物色される銘柄も入れ替わっていきます。地合いが良い時には、株はどんどん買われて時には熱狂的に値上がりしますが、いったん逆回転すると、瀕死の状況まで徹底的に叩き売られることもあります。

熱狂の中で買われると、適正価格以上に株価がつり上げられる一方、市場をパニックが覆う時には、その企業が持つ本来の力を無視した水準まで売り込まれることも少なくありません。しかし、PERやPBR、配当利回りといった投資尺度を活用して、企業の真の力に対して現在の株価が適正なものであるのかを判断できるのであれば、株価が叩き売られた時には値上がりを狙って買い、熱狂的に買い上げられた時には行き過ぎを逆手に取って売ることもできるのです。これを私は、「ターゲットプライス・トレードテクニック」と名づけて普段の売買に活用しています。

どんな時にでも株価を冷静に判断するための、タフな精神力とテクニックを身につけることができれば、いつ株を買い、そして売らなければならないのかを、自らの計算で計ることができるようになります。周りに流されることなく、冷静に売買を行っていきたいものですね。

次回は、「市場マップ」の「業績・財務分析」を中心に解説する予定です。

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