2021年コモディティ市場を展望する <新春特別企画>

特集
2021年1月3日 17時00分

2020年のコモディティ市場は、新型コロナウイルスに振り回される1年となった。中国政府が1月20日にウイルスの感染拡大を公式に発表した当初は軽視されたが、欧米で感染が確認されはじめると株価は急落。コモディティ市場でも換金売りが出てつれ安となった。

その後、米連邦準備制度理事会(FRB)が無制限の量的緩和を発表したことを受けて、貴金属は金主導で地合いを引き締める一方、 原油は欧米のロックダウン(都市封鎖)による需要減少を背景に史上初のマイナス価格をつけた。ニューヨーク原油の納会でタンクを持たない投資家は代金を支払ってでも買いポジションを引き取ってもらうことになったのである。

ロックダウン緩和後は景気回復期待が高まったが、新型コロナウイルスは夏場にかけても収束の兆しが見られず、先行き懸念が残った。その後、北半球の気温が低下すると、欧米で感染者が急増し懸念は次第に高まっていった。しかし11月に入ると、製薬会社のワクチン開発が進み、中長期の景気回復期待からリスク選好の動きとなり、コモディティの支援要因となった。

12月には欧米でワクチンの緊急使用が承認されたが、英国で感染力の強い変異種が確認されるなど、なお先行き不透明感は拭えない。変異種にもワクチンは有効とみられているが、広く行き渡るまでは時間がかかり、短期的には景気の下振れリスクが残っている。

●2021年はコモディティの割安銘柄に注目

2021年はワクチンの接種拡大を受けて収束の兆しがみられるかどうかが焦点となる。集団免疫を獲得し、夏場にかけて感染拡大が落ち着けば、需要減少で割安となっていた原油やプラチナの工業用需要が回復し、上値を伸ばすとみられる。

ただ、原油は需要が回復すれば、石油輸出国機構(OPEC)にロシアなど非加盟産油国を加えた「OPECプラス」で減産が解除され、上値を抑える要因になる。OPECプラスは1月から減産規模を日量50万バレル縮小するとしており、ロシアは2月からさらに50万バレル縮小することを支持している。1月4日に行われるOPECプラスのオンライン会議の結果を確認したい。

米国でリグ稼働数が増加していることも供給増加の一因になっている。原油は需給を確認し、もみ合いながら、ゆっくりとレンジを切り上げる展開になるとみられる。ニューヨーク証券取引所で取引されている原油ETF(上場投信)をみると、4月の急落時にまとまった投資資金が流入したが、その後の価格上昇を受けて資金は徐々に減少している。景気が本格的に回復し、需給が引き締まれば投資資金が戻るとみられ、そうした動きも確認したい。

プラチナは鉱山会社の設備投資の減少などで供給に制限がある。2019年以降、3年連続の供給不足が見込まれており、景気回復期待により投資需要が増加すれば、価格を押し上げる要因になろう。

●新型コロナ治療薬の開発状況も注視

景気回復見通しは強いが、ワクチンの効かない変異種が現れた場合は見通しが一変するとみられ、コモディティに戻り売り圧力が強まる可能性が出てくる。

新型コロナウイルスの治療薬では、米ギリアドの抗ウイルス薬「レムデシビル」や、ステロイド薬「デキサメタゾン」が承認された。ただ、レムデシビルは世界保健機関(WHO)の臨床試験の中間結果で効果がみられず、使用は奨励しないとのガイドラインが発表されている。一方、デキサメタゾンは酸素投与の必要がない患者で効果がなく、人工呼吸器や酸素投与を必要とする患者への治療薬として推奨されている。ほかには北里大学が抗寄生虫薬「イベルメクチン」の臨床試験を3月に終了し、製造元の米MSDに試験結果を提供する見通しである。製薬各社は他の治療薬の試験も進めており、効果のある治療薬がみつかるかどうかも確認したい。

●金はドル安・インフレ見通しが支援も投資資金の動向を確認

2021年のはドル安・インフレ見通しが支援要因になるとみられている。海外のアナリストらは史上最高値2072.90ドルを突破し、2500~3000ドルを目指すとの強気の見方が多い。

ただ、2020年に1500ドル前後から2000ドル台に金価格を押し上げた際はETF残高が約360トン増加した。残高は9月に押し目を買われて1603.86トンまで増加したが、その後はワクチン開発進展とともに減少し、12月28日時点では130.17トン減の1473.69トンとなった。

一部の投資資金がビットコインに流出したことも指摘されており、2021年に金が見直されて投資資金が戻らなければ最高値更新は難しくなるとみられる。ただ、各国中銀の量的緩和と景気刺激策が継続され、大量の資金が投入される見通しであることは金のみならず、他のコモディティの下支え要因になる。

●バイデン米政権誕生で対中政策も焦点

米大統領選で民主党のバイデン元副大統領が勝利し、1月にバイデン政権が誕生する。トランプ政権は中国に対し強硬姿勢を取り続けたが、政権移行で対中政策が変化するかどうかも2021年の焦点である。

中国は南シナ海の軍事拠点化を進めたことに加え、2020年6月に香港国家安全維持法を可決し、一国二制度を無効化した。米国防総省は人民解放軍に所有・管理されている企業をリスト化し、トランプ政権は投資禁止の大統領令を発表した。また、米国では12月18日、外国企業説明責任法が成立した。米国で上場する外国企業に対し、3年連続で会計監査基準を満たさない場合は上場廃止とすることが可能になった。中国企業は米国の検査を受け入れない姿勢をとっており、実質的に中国企業を標的とし、米国から締め出す法律となっている。

中国の知的財産権侵害や南シナ海の軍事拠点化、ウイグルでの人権侵害などを受け、バイデン政権は同盟国と協調して対応に当たるとしており、中国にとってトランプ政権よりも厳しい相手になるかもしれない。トランプ政権は中国だけではなく同盟国にも強硬姿勢を採り、軍隊の駐留費の増額を要求し、関税を課した。バイデン政権は同盟国と連携し、中国に貿易ルールの順守を迫る方針を示している。これにより欧米の中国包囲網は強化されることになる。

一方、中国では12月26日、国防法の改正案を可決した。宇宙やサイバー空間を重大な安全領域と位置付け、強硬路線を継続する。対立激化が金市場で材料視されると、金の支援要因になる可能性がある。ただ、気候変動や新型コロナウイルスなど両国が協調しなければならない問題もある。どう折り合いをつけていくかも確認したい。

(MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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