S&P500 月例レポート ― インフレ懸念が空前の上昇相場の脅威に浮上 (3) ―

市況
2021年12月17日 13時31分

●新型コロナウイルス関連

○新たに確認された変異株(南アフリカで最初に感染者が報告された)を世界保健機関(WHO)はオミクロン株と命名しました。米国のブラックフライデー当日の株式市場は大きく値を下げて、市場は「レッドフライデー」となりました。休暇期間中で短縮取引となる中、株価は2.27%下落しました(2021年2月25日の2.45%の下落に次ぐ下落率。1928年以降では646番目に悪いパフォーマンス)。複数の国では渡航制限が、また一部では隔離措置が導入されました。

○米国疾病対策センター(CDC)は、製薬大手のファイザー<PFE>製ワクチンの5-11歳を対象とした接種推奨を承認し、ワクチン投与が開始されました。また、ファイザーは同社の新型コロナ経口薬が入院・死亡リスクを89%軽減するとして、米食品医薬品局(FDA)に対して治療薬としての承認申請を行うことを明らかにしました。

⇒ファイザーは、すでに接種しているワクチンの種類に関係なく同社ワクチンをブースター接種に使用できるとする拡大使用の申請を行いました。

○気温が下がってきた(屋内で過ごす人が増加する)ことから、米国では新規感染者数の増加が続いています。35の州で過去1週間で感染者数が増加したと報告されています。

○欧州でも新たな感染拡大の波が押し寄せており、英国のボリス・ジョンソン首相はロックダウン措置の可能性を警告しています。ドイツでも感染者数の増加が続いており、12月には新たな行動制限措置が導入されることになりそうです。オーストリアは11月22日に全土でロックダウンを開始しました。

○米国は全ての成人(18歳以上)を対象にファイザーとモデルナ<MRNA>のワクチンの追加接種を推奨する方針を発表しました。ジョンソン・エンド・ジョンソン<JNJ>のワクチンもすでに使用が認められています。

○ワクチン接種状況:

⇒世界全体でのワクチン接種回数は80億1000万回となりました(10月末時点では69億6000万人が少なくとも1回のワクチン接種を受けました)。米国は現時点で、

→ワクチン接種回数が4億6100万回(10月末時点では4億1800万回)に達しました(このうち1240万回はブースター接種分)。

→人口の70.2%(同66.7%)が少なくとも1回は接種したことになり、人口の59.4%(同57.6%)が2回の接種を終えました。

→米国の1日当たりの感染者数の7日間平均は8万3120人に増加しました(同7万2569人)。また、入院者数の7日間平均は5万4906人に増加しました(同5万1596人)。

●各国中央銀行の動き(および関連ニュース)

○11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、予想通り金利は据え置かれましたが、テーパリングの開始が発表されました。FRBは国債800億ドル、住宅ローン担保証券400億ドルの合計1200億ドルとしていた毎月の資産購入額を11月と12月に150億ドルずつ減らし、2022年1月にも購入額を減少させ、2022年6月に資産購入を終了することを目指す方針を示しました。FRBは経済状況の変化に応じて減額ペースを変更する用意があること、また今回のテーパリング開始と政策金利の変更には直接的な関連性はないことも述べました。

○イングランド銀行は利上げに動くと予想されていましたが、金融政策委員会は7対2で政策金利を据え置くハト派的決定を下しました。

○FRBのクオールズ副議長は年末に退任することを明らかにしました。この結果、バイデン大統領は空席となっている4つのポストの人選を行うことになりました。

○バイデン大統領はパウエルFRB議長を任期4年で再任すると発表しました。同氏の再任については、上院では円滑な承認が見込まれますが、進歩派の反対が予想されます。大統領はまた、リチャード・クラリダ副議長の後任として、進歩派がパウエル議長の代わりにFRB議長候補として推していたラエル・ブレイナードFRB理事を指名しました。大統領が指名するFRB高官のポストはまだ空席が3つ残っており、FRBのハト派姿勢が維持される見通しとなっています。

○FOMC議事録(2021年11月3日開催分)では、インフレとそれが続く期間について議論がなされたことが示されました。

○議会証言でパウエル議長は、オミクロン株が経済を減速させる可能性があることを指摘しました。また、FRBは景気刺激策の縮小を前倒しする準備ができていることと、インフレが予想よりも強いことにも言及しました。

●IPOおよび「空箱」SPAC

○電気自動車のスタートアップ企業リビアン・オートモーティブ<RIVN>のIPO価格は、アマゾン・ドット・コム<AMZN>の出資を受けて78ドル(過去数週間で52~57ドルの水準から上昇)となりました。初値は107ドルで、一時147.47ドルを付け、119.76ドルで週末を迎えました。リビアンの時価総額はボーイング<BA>やゼネラル・エレクトリック<GE>を上回る1060億ドル(これまでに同社は156台のリビアンR1T電気トラックを販売しています)となりました。

○破産法適用から最近脱却したレンタカー企業のハーツ・グローバル・ホールディングス<HTZ>が29ドルで(ナスダック市場に)上場しました。月末の株価は24.16ドル、時価総額は110億ドルとなりました。

○レストラン企業のスイートグリーン<SG>はIPO価格28ドルで上場し(当初想定価格は23~25ドル)、初値は52ドル、一時56.20ドルを付け、38.18ドルで月を終えました。時価総額は40億ドルです。

○ソーシャルネットワーク企業のネクストドア ホールディングス <KIND>は特別買収目的会社(SPAC)のKhosla Venturesを介して公開し、初値は11.74ドル、一時18.59ドルを付け、月末には11.35ドル、時価総額は40億ドルとなりました。

○今後も活発なIPOが見込まれます。

⇒デジタル貯蓄・投資アプリを運営するエイコーンズはSPAC経由での上場を計画しており、企業評価額を22億ドルと見込んでいます。

⇒イスラエルのデジタル取引プラットフォームのイートロはSPAC(FinTech)経由で上場すると発表しました。時価総額100億ドルを見込んでいます。

⇒東南アジアでライドシェア、フードデリバリー、送金のアプリを運営しているグラブ・ホールディングスはSPAC経由で上場することを発表し、企業評価額を400億ドルと予想しています。

※グラブ・ホールディングス<GRAB>は12月2日にナスダックに上場。

●企業業績

○2021年第3四半期の利益と売上高は予想を大幅に上回り、過去最高を更新しました。発表を終えた489銘柄中 392銘柄(80.2%)で営業利益が予想を上回り、82銘柄で予想を下回り、15銘柄で予想通りとなりました。また、売上高では488銘柄中371銘柄(76.0%)で予想を上回りました。

⇒2021年第3四半期は、利益、売上高ともに過去最高を更新する見通しです。

⇒2021年第3四半期の利益は、過去最高を記録した2021年第2四半期から0.2%の増益が予想されています。

⇒2021年通年については過去最高益を更新する見通しで、前年比で65.2%の増益が見込まれ、2021年予想PERは22.6倍となっています(2020年の利益は同22.1%減)。

⇒2022年の利益は2021年予想からさらに8.7%増と、過去最高益の再度の更新が見込まれ、2022年予想PERは20.8倍となっています。

⇒2021年第3四半期中に株式数の減少によってEPSが大きく押し上げられた発表済みの銘柄の割合は7.4%でした(第2四半期は5.4%、2020年第3四半期は9.6%、2019年第3四半期は22.8%)。

⇒2021年第3四半期の営業利益率は13.20%となり、過去最高となった第2四半期の13.54%からは低下しましたが、依然として高水準を維持しています(1993年以降の平均は8.12%)。

●個別銘柄

○ソーシャルメディア企業のフェイスブック<FB>は社名をメタ・プラットフォームズ<FB>に変更し、「Facebook(フェイスブック)」の名称は製品名で引き続き使用することを発表しました。同社のティッカーは2021年12月1日にMVRSに変更されます。

ティッカーの変更は来年の第1四半期(2022年1-3月期)に延期されました。

○娯楽大手ウォルト・ディズニー<DIS>は、同社の動画ストリーミング配信サービス・ディズニープラスの加入者数の伸びが(一部のライバル企業と同様に)減速したことを明らかにしました。一方、ネットフリックス<NFLX>はこの傾向とは逆に、新規加入者数を伸ばしました。

○ITシステム大手のIBM<IBM>はマネージドインフラサービス部門のキンドリル・ホールディングス<KD>の80.1%をスピンオフ(分社化)し、IBM株の保有者はIBM株5株ごとにKD株1株を受け取りました。

○小売大手メーシーズ<M>は、電子商取引事業のスピンオフを評価するためにアドバイザーと契約したことを明らかにしました。

○ソフトウエア企業マイクロソフト<MSFT>のサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)は、「個人的な資産計画と多様化を図る目的」から、同氏が保有する自社株式の半分を2億8500万ドルで売却しました(残りは約86万株)。来年からワシントン州のキャピタルゲイン税率が7%になることを理由とみる向きもあります。

○ソーシャルメディアツイッター<TWTR>の共同創業者でCEOを兼ねるジャック・ドーシー氏は自身の退任を発表し、CTO(最高技術責任者)のパラグ・アグラワル氏が後任となることを明らかにしました。

※「インフレ懸念が空前の上昇相場の脅威に浮上 (4)」へ続く

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