賢明なる勝負師、「王道&投機心」で資産テンバガーの80代現役投資家
すご腕投資家さんに聞く「銘柄選び」の技 レウィシアさんの場合-第1回
1959年に給与の150万円を元手に投資を開始。以降、会社員時代は毎年150万円ずつの追加資金を行いつつ、資金を10倍に増やす。退職後も順調に資産を拡大させ、最高時の運用資金は5億円。現在はそのうち5000万円相当を趣味の絵画や骨董品に代えている。投資手法は「高配当バリュー投資」を主軸とし、アメ株のみならず欧州、豪州株、新興国株など多様な外国株投資のほか、金&白金の先物取引もサテライトとして手掛ける。昭和のバブル経済、2021年のバリュー株好調の大波が資産拡大に大きく貢献した。趣味も多岐にわたり、小学校から続けた将棋はアマチュア一流レベルまで到達。その他、山登り、洋らんの育成ほか、現在は地域の「7カ国語を話そう」サークルに所属し外国語も学ぶ。投資の心構えは将棋や山登りの影響が大きい。ハンドルネームは好きな花の名前(写真)。
「私は好奇心の塊。投資を続けているのは、やりたいことが自由にできるお金を得たいから」
そうにっこりするのは、今回登場のレウィシアさん(ハンドルネーム)。投資歴は半世紀を超え、85歳にして今なお現役の大ベテラン投資家だ。
投資を始めたのは1959年(昭和34年)、かつての東京のシンボル・東京タワーが開業した翌年のことだ。投資の成果は着実に積み上がり、会社員時代には資産を10倍に増やすことに成功する。さらに退職後にも拡大させて、元手150万円に毎年の追加資金を入れた運用資金を最高5億円までに到達させた。
こうして株で築いた資産のうち、5000万円相当は、趣味の1つである美術品収集にまわしていることで、現在保有する資産は株式などの有価証券にとどまらず絵画や骨董品が加わっている。
そんなレウィシアさんは、有名進学校で中学、高校と成績トップの座をひた走り、東京大学に進学、そして日本を代表する製鉄会社に就職した経歴を持つピカピカのエリートさんだ。こんな経歴を聞くと、机にかじりついていたガリ勉と思いきや、好奇心旺盛で将棋に山登り、ボートetc.と、様々なことにのめり込んできた。将棋はアマチュアでは一流の腕前を持つという。
■趣味の園芸で育てているレウィシア
投資で成功を掴んだのも、この旺盛な好奇心が原動力。その手法は「高配当バリュー投資」という"優等生スタイル"を軸に置きつつも、日本株に限らずアメ株や欧州、豪州そしてアシア株にも手を広げ、さらに株式のほかにCB(転換社債)や商品先物にも投資してきた経験を持つ。
王道の投資手法を中核にしながら、一方で人々が足を踏み入れていない「未開の分野」を開拓する投機心を持ち合わせていたことが、大きな果実をもたらした。
この「王道投資」と「投機」の真髄を2回に分けて紹介する。初回は日本株から海外株などで成功した例について触れていこう。
21年は「商社」株の好調に乗る一方、「海運」株は原則スルー
「実力のある銘柄を安い時期に買う」というバリュー投資のスタイルを、60年以上もの長きにわたり続けてきたレウィシアさんは、昨年2021年にも好調のビッグウェーブに乗り、1500万円ほどの実現益を手にした。主に貢献したのは、いくつも買い集めていた商社株だ。
日本の商社株と言えば、コロナ禍で世界の株式相場が冷え込む20年の夏、米国の著名投資家、ウォーレン・バフェット氏がやはりその割安性に着目し、19年から購入を続けていたことを公表。以降、注目を集め上昇トレンドにあるセクターだ。
だが、レウィシアさんが商社株の仕込みを始めたのはバフェット氏よりも前の16年頃。株価が大きく谷をつくった直近の底値圏で拾い、その後の長いリバウンドに乗った。対象としたのは、伊藤忠<8001>や丸紅<8002>、三菱商事<8058>などの大手商社に加え、染料や化学製品に特化する専門商社の長瀬産業<8012>など複数銘柄だ。
その先回りの判断が実を結び、例えば、伊藤忠では5年のうちに株価が3倍へと膨らんでいく。レウィシアさんは見事、この大きなうねりに乗った。
■伊藤忠商事の月足チャート(14年6月~)
注:出来高・売買代金の棒グラフの色は当該株価が前期間の株価に比べプラスの時は「赤」、マイナスは「青」、同値は「グレー」。以下同
■『株探』プレミアムで確認できる伊藤忠商事の通期業績の成長性推移
業績の伸びと、配当、割安指標のバランスで選別
また、商社ほど大規模ではないが、三井住友フィナンシャルグループ<8316>、みずほフィナンシャルグループ<8411>などのメガバンク株も株価低迷時に仕込んでおり、これらも21年の資産拡大の一助となっている。
商社株の成功に代表されるように、レウィシアさんが着目するのは、業績の伸びが期待できるバリュー銘柄だ。この点は先のバフェット氏と考え方は似ている。
候補銘柄の選別には
・PER(株価収益率)
・PBR(株価純資産倍率)
・配当利回り
・純利益の成長率
――の4項目を原則チェックする。絞り込みの基準は明確には設けてはいないが、
「配当利回りが良く、高い成長率が見込めるのに、PERとPBRが低くて割安」
――という銘柄を優先的に探し、過去の株価と比べて低水準にあると思った時期に買いを入れる。その後は、よほど業績の腰折れが見られない限りは、気長に保有し上昇を待つ手法だ。
こうした「高配当バリュー株」を選考しつつ、現在、レウィシアさんは日本株200銘柄、外国株100銘柄程度を保有。購入後、株価が下がる場面があっても含み損益率が▲10~▲30%であれば許容する。高配当の銘柄であれば、インカムゲイン期待で株価が見直される時期があると考えるからだ。
同様の考えで、配当に加えて便利でお気に入りの株主優待がある銘柄もいくつか長期保有の対象に。06年から保有中で大きな含み益を持つ正栄食品工業<8079>は、食品専門商社。自社で扱う菓子類が優待品になっているのが魅力で、今後も長く保有を続けるつもりでいる。
■正栄食品工業の月足チャート(05年5月~)
高配当でも安定成長見込めなければスルー
上の4項目の中でも、特にこだわるのはしっかりとした業績の裏付けがあるかどうか。例えば日本郵船<9101>などの海運株も高配当なのに低PREであることで注目を浴びているが、レウィシアさんは、21年、短期的に触りはしたが、あくまでも一時的な株価上昇の波をさらうだけのつきあいとした。
海運業は市況に降らされやすく業績の先行きが不安定だと考えるため、商社のように長期保有する主力の対象には不適切と判断したからだ。
高配当株では日本たばこ産業<2914>も注目されるが、たばこ産業は世界的に重視されつつあるESG(環境・社会・企業統治)の方向性にそぐわず、長期的な成長は見込めないと見る。したがって現在の配当利回りも6%台と高水準ではあるが、レウィシアさんは投資対象と位置づけないようだ。
ベンジャミン・グレアムの賢明さと、ジョン・テンプルトンの視野の広さ
こうしたバリュー投資の考え方は、バフェット氏が師と仰いだ著名投資家のベンジャミン・グレアムの名著『賢明なる投資家』(パンローリング)に影響を受けている。学業優秀で賢明なレウィシアさんのイメージにぴったりの本を参考にしている。
ただ、レウィシアさんのユニークさは、投資の王道を歩む賢明な出立とともに、海外のバリュー株やCB、金や白金などの先物取引に手を広げる勝負師の姿も兼ね備えていること。
勝負師というのは、いまでこそポピュラーになっている海外株が、まだ海のモノか山のモノともつかぬような昭和の高度成長期に、いまこそチャンスといちはやく乗り出していったことだ。世界中の市場に目を広げるさまは、グレアムと同じく著名な米国生まれのバリュー投資家、ジョン・テンプルトンを彷彿させる。
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