明日の株式相場に向けて=波乱相場でも亜空間を奔るメタバース関連
きょう(30日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比411円安の2万6393円と大幅続落。相変わらず目まぐるしい相場である。前週後半から今週前半にかけて戻り相場を堪能したが、前日は2万6000円台に再び押し戻され、きょうは更に大きく下値を模索する展開を強いられた。今月27日に開けたマドを大陰線で埋める形となり、同時に5日移動平均線も大きく下抜けた。
前日は欧州株市場がほぼ全面安に売られたものの、米国株市場はNYダウがプラス圏で着地するなど何とか踏みとどまった。ECB主催の金融シンポジウムの討論に参加したパウエルFRB議長は、経済を冷やすことを承知のうえでインフレ抑制のために金融引き締めが必要であるとの認識を示した。FRBにとって景気の維持とインフレ抑制という2つの命題を同時にクリアすることは困難だ。これは素人でも分かるが、これまでFRBはインフレを沈静化させつつ経済のソフトランディングは可能という主張を続けてきた。しかし今回のパネル討論で、パウエル氏は「この期に及んでそんな綺麗ごとは言っていられない。経済を失速させても構わないからインフレを利上げで抑え込む」という本音をしれっと言ってのけたに等しい。一段のタカ派傾斜というわけではないが、これによって7月のFOMCでは6月に続いて0.75%の利上げがかなり濃厚ということをマーケットに悟らせる狙いもあったと思われる。ところが、米国株市場は頑強な値動きを示した。28日付の当欄でも触れたが、6月期末で年金系ファンドなどの長期投資家が、落ち込んだ株式のウエートを引き上げるためのリバランスの買いを入れたもようで、これが下値を支えた。
そして東京市場にバトンが回ってきた。取引開始前は、欧州株安の流れを堰き止めた米国株市場に敬意を表して、大きく買い優勢に傾くことはなくても下値抵抗力は発揮しそうというムードが市場には漂っていた。米国同様に機関投資家の月末リバランスの買いがきょうも入るだろうとの思惑もあったと思う。しかし、この期待は大きく裏切られる格好となった。朝方取引開始前に発表された5月の鉱工業生産指数が前月比7.2%減と急低下したことが判明。市場関係者は「コンセンサスがマイナス0.3%程度であったから、一瞬目を疑った。これでは円安が進んでいても自動車株やハイテク株などに食指が動くはずもない」(中堅証券ストラテジスト)と嘆息する。それでも前場は、前日大引けの下落幅と同水準の240円あまりの下げでとどまっていた。しかし、後場に入ると堤防が決壊したように売りが溢れ出て日経平均は一段安、一時480円安まで下げ幅を広げる場面があった。
7.2%減は上海市の都市封鎖という特殊事情が絡んだとはいえショックは拭えない。新型コロナが世界に蔓延して生産ラインに多大なダメージを与えた時以来の大幅な落ち込みであり、米国のリセッション懸念が対岸の火事といえない状況を目の当たりにしている。
あすから、名実ともに7月相場入りとなる。2022年相場の後編が始まるわけだが、冷静にある程度距離を保ちながらマーケットと付き合っていかなければならない。世界株市場がここから暴落へと向かう可能性は大きくないかもしれないが、手を離れた紙飛行機が弧を描いて徐々に高度を下げていく、そういうイメージの下げトレンドは、やはり念頭に置いておく必要がありそうだ。もちろん相場の過剰流動性が瞬間蒸発することはなく、個別株ベースではいくらでも出世株は輩出されるであろうし、過度に弱気に傾く必要もない。
きょうの乱調相場で強さを発揮したのは、28日付でも触れたメタバース関連である。独シーメンスが米エヌビディア<NVDA>と提携してメタバースの法人向けサービスに参入すると発表、この巨大資本の連携は怒涛のインパクトがある。値動きは荒いもののクシム<2345>の上げ足が強烈なほか、東京通信<7359>も凄い足。gumi<3903>にも勢いがある。また、同関連の隠れた大御所はサンリオ<8136>であろう。このほか、Birdman<7063>、ユークス<4334>、クリーク・アンド・リバー社<4763>などもマーク。更に、この流れはAiming<3911>、AppBank<6177>、JNSホールディングス<3627>といったゲームアプリ周辺株への物色人気にも波及していく可能性がある。
あすのスケジュールでは、5月の失業率、5月の有効求人倍率、6月の日銀短観など。海外では6月の中国製造業PMI(財新)、6月のユーロ圏消費者物価指数(HICP)、6月の米ISM製造業景況感指数などの発表が予定される。なお、香港市場は休場となる。(銀)