猛暑列島ニッポン、電力需給逼迫で救世主「蓄電池」に活躍の舞台 <株探トップ特集>

特集
2022年7月4日 19時30分

―夏本番はこれから、調整電源+再生可能エネバックアップで飛躍の時迎える―

日本列島が記録的な 猛暑に見舞われている。日本各地において、異例の早さで梅雨明け宣言が出され、最高気温が40度を超える地域も続出している。厳しい電力需給状況を踏まえ、経済産業省は東京電力管内に「電力需給逼迫注意報」を発令するなど警戒を強めている。電力供給が厳しい状況にあるなか、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの更なる普及拡大に注目が集まるが、ウイークポイントとして天候などに発電量が左右されやすい点が挙げられる。こうした状況で関心が高まっているのが再生可能エネ電力の需給調整で力を発揮する「蓄電池」だ。また、消費電力のピーク対策としても熱い視線が向けられている。活躍期待が高まる蓄電池関連株の動向を追った。

●カーボンニュートラルがあだに

猛烈な暑さが日本列島を包むなか、電力需給が逼迫している。今週はいったん暑さも和らぎそうな気配だが、考えてみればまだ7月初旬で、夏本番をこれから迎えると思うとぞっとする。電力危機の背景には、記録的な猛暑に加え、カーボンニュートラルへの取り組みにより、多くの火力発電所が廃止され供給能力が低下していることも背景にある。更に、“サハリン・ショック”も追い打ちをかけそうだ。仮にサハリン2からのLNGの供給がストップすれば、現在でも値上がり顕著な電気やガス料金の更なる上昇につながる可能性がある。こうしたなか原発再稼働待望論が急浮上し、株式市場でも思惑を呼ぶが、そうはたやすく再稼働が進むとも考えにくい。

頼りになるのが拡大一途の再生可能エネだが、こちらは天候の影響を受けやすく電力供給が不安定な点が大きな課題となっている。現状は、早々の梅雨明けによる晴天が太陽光発電などにとって強い味方になるという皮肉な形となっているが、気まぐれともいえる自然が相手なだけに不安は募る。

●電力需給コントロールで出番

こうしたなか、電力需給をコントロールできる「蓄電池」に関心が高まっている。電力が余った時に蓄電し、電力が逼迫した際には放電することで、供給が不安定な再生可能エネの課題をカバーできるからだ。更に、ピーク時の調整電力としても活用が期待されており、まさに電力需給が逼迫するなかでの救世主といえるわけだ。蓄電池への関心は、異常気象を背景にここ数年で一気に高まった。特に、最近の冬季においては異例の寒波で電力需給が逼迫、これを受けて蓄電池関連株に物色の矛先が向かったことは記憶に新しい。

蓄電池を手掛けるある大手では「(蓄電設備については)需要が拡大しているのは事実だが、大規模なものについては急激な電力不足だからといって、一気に受注が増えるというものではない」と話す。ただ、再生可能エネの拡大に加え、異常な寒波や猛暑が常態化し電力不足が表面化するなか「蓄電設備への需要は今後いっそう高まる」(同)とみている。

●大御所ガイシは伸びしろ大

NAS電池を手掛ける日本ガイシ <5333> [東証P]は、蓄電池関連の中核的存在として長らく投資家の視線を集め続けてきたが、時代の要請を背景にここからが本領発揮の場面となりそうだ。同社は直近の決算短信のなかで、「再生可能エネ導入に向けた検討が進むなか蓄電池の重要性が高まっている」とし、「NAS電池の本格的な需要拡大には暫く時間を要するものの、大容量、長時間放電の特性を生かしたビジネスモデルの構築に取り組む」としている。これは、蓄電池のリーディングカンパニーである同社が成長途上であると同時に、むしろ伸びしろが大きいことを表しているともいえそうだ。加えて、もはや待ったなしの電力状況が、需要拡大を力強く後押しする可能性もある。23年3月期は、売上高5800億円(前期比13.6%増)、営業利益900億円(同7.7%増)を計画。株価は、6月8日に2015円まで買われ年初来高値に迫ったものの、その後は上昇一服で1800円近辺に位置するが、蓄電池関連に視線が向かうなか注視が必要だ。

●住友電、「レドックスフロー電池」で攻勢

住友電気工業 <5802> [東証P]も蓄電池関連の一角として投資家の注目度が極めて高い。同社の手掛ける「レドックスフロー電池」は、電極や電解液の劣化がほとんどなく長寿命であり、発火性の材料を用いていないことや常温運転が可能なことから安全性が高いなど、電力系統用蓄電池に適した特性を持っている。同社では「レドックスフロー電池は、国内外から多くの引き合いが続いているが、今後も再生可能エネ拡大とともに順調に伸びていくとみている。また、ピーク時の調整電源としても活用が見込まれておりニーズの拡大に期待している」(広報)と話す。4月1日には、設備容量が同電池として世界最大級の規模となる北海道電力ネットワーク向けレドックスフロー電池設備が運転を開始するなど実績も豊富だ。株価はここ上値の重い展開が続くが、テーマ性を内包しており注目は怠れない。

●ニチコン、NECST事業に注力

更に、電力危機の際に動意習性を持つのがアルミ電解コンデンサーの大手ニチコン <6996> [東証P]だ。同社は家庭用をはじめさまざまな蓄電システムも手掛けており、これを思惑材料に株価が上昇する場面が時折見られてきた。経営の新たな柱であるNECST(Nichicon Energy Control System Technology)事業では、蓄電システムに加え電気自動車(EV)用急速充電器に注力している点もポイント。23年3月期通期の連結営業利益は前期比21.4%増の78億円となる見通しで、コンデンサー事業とNECST事業の売り上げ増を予想している。株価は下値模索の展開が続くが、6月にはEV用充放電器と直流(DC)でつながるDCリンク型産業用蓄電システムを発売するなど攻勢を強めている点は見逃せない。

●古河池は値上げ効果も

古河電池 <6937> [東証P]は古河電気工業 <5801> [東証P]直系の蓄電池メーカーだが、今月1日出荷分から産業用鉛蓄電池及び産業用電源システムについて、ともに10%以上値上げした。原材料価格高騰などの影響を受け自社努力では吸収できない段階に至ったとするが、値上げ効果による業績への寄与も期待されそうだ。また、3月には佐賀県小城市庁舎のオフグリッド電力供給システムへ鉛蓄電池を納入したことを発表。同社の電力貯蔵用鉛蓄電池FCP-1000が採用され、鉛蓄電池を使用した蓄電システムとしては国内最大級になる。同システムにより、通常時使用量を超えて発電された電力は蓄電池に貯蔵され、天候不順や災害発生時に非常用として72時間供給することができ、防災活動拠点としての機能が維持されるという。

●活躍領域を広げる東光高岳

東光高岳 <6617> [東証P]は東電系で送配電機器を手掛けるが、蓄電池分野でも活躍領域を広げている。6月15日には、経産省が環境共創イニシアチブを通じて公募する実証事業「令和4年度 蓄電池等の分散型エネルギーリソースを活用した次世代技術構築実証事業」に採択されたと発表。同日には、分散型エネルギーリソース活用実証を開始している。将来的には、同リソースの活用・拡大と再生可能エネ有効活用の環境を整備することで、2021年度から開設されている需給調整市場、24年度開設予定の容量市場などへの参入を目指すという。また、10月から中容量EV用急速充電器「HFR1-15B11」シリーズを順次発売する点にも注目したい。リーズナブルな価格帯で2~3時間でフル充電が可能なうえ、業界最薄サイズの薄型壁掛けタイプで省スペースを実現したという。事業所、工場、ビルなど幅広い充電ニーズを捉える構えだ。

●ダイヤHD、「おうち給電」に乗る

蓄電システムは大規模なものに注目が集まりやすいが、身近な住宅用システムに関連する製品にも危機的な電力需給の状況下においては目を向けておきたい。ダイヤモンドエレクトリックホールディングス <6699> [東証P]は6月2日、トヨタ自動車 <7203> [東証P]が8月から販売を開始する「おうち給電システム」に、子会社のダイヤゼブラ電機が太陽光発電、蓄電池を制御するハイブリッドパワーコンディショナなどの供給を開始すると発表。これをキッカケに、1100円近辺だった株価は上昇加速し6月28日には1789円まで買われ年初来高値を更新した。さすがにここにきては上昇一服、現在は1500円台に位置するものの、話題性もありここからの動きに注目しておきたい。また、デンソー <6902> [東証P]もおうち給電システムに住宅用蓄電池システム向けの製品を開発し採用されたことを発表している。

●日工営は蓄電プロジェクトでグローバル展開

建設コンサルタント大手の日本工営 <1954> [東証P]も蓄電池関連の一角として注目してみたい。同社は世界規模で事業を展開するが、昨年12月には英最大級の「100メガワットの大規模蓄電プロジェクト建設に日系企業4社とともに着手」したと発表。英国は、カーボンニュートラル実現へ向け、蓄電池活用政策を続々と打ち出している欧州一の「蓄電池先進国」。同年11月には、ベルギーでの系統用蓄電事業の建設開始も発表している。こうした実績が、同社のグローバルな企業活動を強力に後押しする。業績も好調だ。5月13日には22年6月期の業績予想について、営業利益を77億円から90億円(前の期比26.3%増)へ上方修正しており、過去最高益を更新する見通しだ。

今回取り上げた電力の需給逼迫時に動意習性を持ち感応度の高い蓄電池関連の株価は、全体相場の悪地合いも重なり冴えないものが少なくない。ただ、夏本番はこれからという状況にあるだけに、タイミング待ちも含めここからの株価の動向には目を配っておく必要がありそうだ。

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