デリバティブを奏でる男たち【31】 D1キャピタルのサンドハイム(後編)

特集
2022年7月18日 13時30分

◆D1とは「毎日が始まりの日」

オーレ・アンドレアス・ハルボーセン率いるバイキング・グローバル・インベスターズで最高投資責任者(CIO)を務め、運用資産の半分近くを任されていたダニエル・S・サンドハイムですが、2017年にバイキングCIOの地位を捨て、自分のファンドであるD1キャピタル・パートナーズを立ち上げることにしました。その背景について、前々回に「報酬に不満」があったことを指摘しましたが、別の目的として、もっと未上場株へ投資をしたかったようです。

彼は自らのファンドに5億ドルを投資したほか、他の投資家からも資金を集め、40億ドルで運用を開始しました。もっとも、サンドハイムが抜けたことでバイキングは80億ドルを投資家に返還したほか、運用成績が良かった他のタイガー・カブ(第2回で取り上げたジュリアン・ロバートソン率いるタイガー・マネジメントの出身者、通称子トラ)が率いるファンドも新規資金の導入を閉ざしていたために資金が集まりやすく、運用資金の導入は40億ドルに制限した、というのが実情のようです。

それでも40億ドルという金額が世間の目を引き、D1キャピタルは2018年に立ち上げられた4大ヘッジファンドのひとつに数えられるほどでした。この4大ヘッジファンドとは、D1キャピタルのほか、80億ドル以上の資金を集めたミレニアム・マネジメントの元債券トレーダーであり、リーマン・ブラザーズの元幹部であったマイケル・ゲルバンドが率いるエクソダスポイント・キャピタル、20億ドルを集めたムーア・キャピタルの元共同CIOであったグレッグ・コフィーが率いるカーコスワルド・キャピタル、そして第7回で取り上げたスティーブン・A・コーエンが率いるポイント72アセットです(ポイント72アセットはファミリー・オフィスからヘッジファンド運営会社に返り咲いた際、30億ドルの資金を集めました)。

▼ポイント72アセットのスティーブン・A・コーエン(前編)―デリバティブを奏でる男たち【7】

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▼ポイント72アセットのスティーブン・A・コーエン(後編)―デリバティブを奏でる男たち【7】

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さて、サンドハイムが運営するD1キャピタルのD1とは「毎日が始まりの日」を意味する「Day 1(デイ・ワン)」という言葉に由来しています。これはアマゾン・ドット・コム<AMZN>の創業者であるジェフ・ベゾスが提唱した概念であり、同社の使命である「地球上で最もお客様を大切にする企業になること」を実現するために大切にしている姿勢とのこと。ちなみに、ベゾスは1990年から1994年の間、第22回で取り上げたデービッド・エリオット・ショーが率いるD.E.ショーで働いていました。

▼クォンツ投資の先駆者D.E.ショー(前編)―デリバティブを奏でる男たち【22】

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▼クォンツ投資の先駆者D.E.ショー(後編)―デリバティブを奏でる男たち【22】

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◆積極的な未上場株投資

D1キャピタルの投資スタイルは古巣であるバイキングを踏襲しており、上場株投資と未上場株の組み合わせです。上場株においては、個別株の先物やオプションなどのデリバティブに加え、転換社債型新株予約権付社債(CB、いわゆる転換社債)にも投資するロング・ショート戦略を採用していました。投資地域は米国に限らずグローバルとしており、投資セクターは消費者、ビジネスサービス、金融サービス、ヘルスケア、不動産、テクノロジー、メディア、通信セクターなどが中心のようです。

ただ、2021年1月に、オンライン掲示板「レディット」に群がる個人投資家が、ゲームストップ<GME>などヘッジファンドが空売りしているような銘柄を標的にして買いを仕掛けた、いわゆる「ゲームストップ株騒動」が起き、D1キャピタルもこれに巻き込まれました。このときは運用成績がマイナス20%まで落ち込みましたが、同年4月までに損失の約90%を取り戻しています。

その巻き返しの背景が、バイキング時代よりも力を入れていた未上場企業への投資だったと言われています。代表的な投資対象としては、2020年9月に上場した米ビデオゲームソフトウェア開発会社、ユニティ・ソフトウェア<U>。同社の魅力のひとつは、技術的な知識に乏しい人々がゲームをゼロからプログラミングして、ゲームやその他のシミュレーションを作成できること。ソフトウェア開発のナイアンティックは同社のゲームエンジンを使用して一時は社会現象にもなった『ポケモンGO』を構築したと言われています。

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◆若桑カズヲ (わかくわ・かずを):

証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。

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