デリバティブを奏でる男たち【32】 オクジフ改めスカルプター・キャピタル(前編)
◆利益ランキングの控えめな常連
今回はオクジフ・キャピタル・マネジメントを取り上げます。同社は2019年に創設者のダニエル・オクが退社した際、社名をスカルプター・キャピタル・マネージメント<SCU>に変更しました。この会社は最近のヘッジファンド利益ランキングにおいて、2018年に11位、2019年に14位、そして2020年と2021年はともに13位でした。ランキング上位の常連というわけではありませんが、常に安定した地位を確保している「控えめな常連」といったところでしょうか。
2018~2021年利益トップ15のヘッジファンド(単位は10億ドル) | ||||||||
2018年の利益 | 2019年の利益 | 2020年の利益 | 2021年の利益 | |||||
1 | ブリッジ ウォーター | 8.1 | TCI | 8.4 | タイガー・ グローバル | 10.4 | TCI | 9.5 |
2 | ルネサンス | 4.7 | ローン・ パイン | 7.3 | ミレニアム | 10.2 | シタデル | 8.2 |
3 | ツーシグマ | 3.2 | ルネサンス | 5.6 | ローン・ パイン | 9.1 | DEショー | 6.4 |
4 | シタデル | 2.1 | エガートン | 5.0 | バイキング | 7.0 | ミレニアム | 6.4 |
5 | DEショー | 2.0 | シタデル | 4.9 | シタデル | 6.2 | エリオット | 6.0 |
6 | ミレニアム | 1.8 | バイキング | 4.3 | DEショー | 5.4 | ブリッジ ウォーター | 5.7 |
7 | ファラロン | 1.3 | ファラロン | 3.7 | エリオット | 5.0 | バウポスト | 3.4 |
8 | ブレバン・ ハワード | 0.9 | ミレニアム | 3.4 | TCI | 4.2 | ファラロン | 3.3 |
9 | エリオット | 0.8 | エリオット | 3.2 | エガートン | 3.7 | サード・ ポイント | 3.3 |
10 | バウポスト | 0.4 | DEショー | 2.8 | ブレバン・ ハワード | 3.0 | エガートン | 3.1 |
11 | オクジフ/ スカルプター | 0.2 | バウポスト | 2.4 | ファラロン | 2.9 | デービッド・ ケンプナー | 2.4 |
12 | キャクストン | 0.2 | SAC/ ポイント72 | 2.3 | SAC/ ポイント72 | 2.5 | アパルーサ | 2.1 |
13 | SAC/ ポイント72 | 0.0 | アパルーサ | 1.5 | オクジフ/ スカルプター | 2.3 | オクジフ/ スカルプター | 1.9 |
14 | ムーアキャピタル | -0.1 | オクジフ/ スカルプター | 1.3 | アパルーサ | 1.9 | キングストリート | 1.8 |
15 | キングストリート | -0.1 | ポールソン | 1.1 | キングストリート | 1.6 | SAC/ ポイント72 | 1.7 |
全社 | -41.0 | 全社 | 178.0 | 全社 | 127.0 | 全社 | 176.0 |
出所:各種報道(再掲)
ユダヤ人の創設者オクは1961年に生まれました。米ニュージャージー州メープルウッドで育ち、両親が設立したデイスクール(寮制ではない私立学校)、ソロモン・シェクター・デイスクール・オブ・エセックス・アンド・ユニオン(後に彼の母親の名にちなんでゴルダ・オク・アカデミーと改名)に通いました。卒業後はペンシルベニア大学に進学し、化学を専攻していましたが、入学1年後にウォートン・スクールへ移り、金融学を専攻します。
ということは、第7回で取り上げたポイント72アセットを率いるスティーブン・A・コーエンや第10回で取り上げたオークツリー・キャピタルを率いるハワード・マークスの後輩であり、第31回で取り上げたD1キャピタルパートナーズを率いるダニエル・S・サンドハイムの先輩ということになります。
オクは大学を卒業後、金融業界でのキャリアを名門投資銀行のゴールドマン・サックス・グループ<GS>でスタートしました。そこでは後にゴールドマンの共同会長となり、米財務長官も務めたロバート・ルービンが率いるリスクアービトラージ(上場企業間のM&Aに伴う裁定取引)部門を担当します。リスクアービトラージに関しましては、第26回ファラロン・キャピタルのトム・ステイヤー(前編)のところで簡単に説明しましたので、ご参照ください。ちなみに、ステイヤーも同じ頃にゴールドマンのリスクアービトラージ部門で働いていました。
▼ファラロン・キャピタルのトム・ステイヤー(前編)―デリバティブを奏でる男たち【26】
https://fu.minkabu.jp/column/1408
◆自らのファンドを立ち上げる
オクはリスクアービトラージ部門から株式部門へ異動となった後、自己勘定取引の責任者、米国株式取引の共同責任者へと出世していきます。同社ではある程度キャリアが進むとプレイヤーからマネージャーへ昇格することになりますが、彼はプレイヤーとして投資業務を続けていたかったようです。
そこで11年間働いたゴールドマンを離れ、1994年に自らのファンドを立ち上げることにしました。ちょうど第14回で取り上げたアパルーサ・マネジメント率いるデビッド・テッパーも1992年にゴールドマンを離れ、自らのファンドを立ち上げていましたので、もしかしたらオクは、そんなテッパーや以前に同じ部門で働いていたステイヤーに感化されたのかもしれません。
▼アパルーサ・マネジメントのデビッド・テッパー(前編)―デリバティブを奏でる男たち【14】
https://fu.minkabu.jp/column/1179
ファンド立ち上げの際は、米技術メディア誌のパイオニアとして知られ、出版王ともいわれたジフ・デイビス<ZD>のウィリアム・バーナード・ジフ・ジュニア(1930-2006)の息子たちが運用するジフ・ブラザーズ・インベストメントと提携。1997年末まで他の資金運用をしないとの約束で1億ドルの初期投資を得て、オクジフ・キャピタル・マネジメントを創設しました。
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証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。
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