デリバティブを奏でる男たち【32】 オクジフ改めスカルプター・キャピタル(後編)
◆上場後の低迷
無理をせずに着実に利益を積み上げていく投資スタイルを貫くダニエル・オクのオクジフ・キャピタル・マネジメント(現在のスカルプター・キャピタル・マネジメント<SCU>)は、年金や大学基金などの"お堅い"運用機関から高い支持を得て、2007年にはヘッジファンドとしては珍しく上場も果たしています。
スカルプターが上場した2007年には、リーマン・ショックの発端となったサブプライム住宅ローン問題が取り沙汰されていましたが、何とかタイミングよく上場することができたようです。それだけ高い評価を得ていた証とも言えますが、その後の株価を見る限り、上場時ほどには評価されていないのが現実です。特に2015年前後からの低迷は厳しく、それはある問題を境に運用成績や同社に対する支持が大きく低下したためと考えられます。
その問題とは、贈収賄事件でした。2014年に同社は、贈収賄に関して複数年にわたり捜査当局の調査の対象となっていることを明らかにします。そしてリビア、コンゴ民主共和国、チャド、ニジェールなど、少なくともアフリカの5カ国で鉱業権などに投資する際、政府関係者に賄賂を支払ったとして、2016年9月に同社は米国証券取引委員会(SEC、Securities and Exchange Commission)および米司法省(DOJ、Department of Justice)から海外腐敗行為防止法違反の罪に問われます。
同社の子会社は罪を認め、同社はSECに1億9900万ドル、米司法省に2億1300万ドルもの罰金を払うことになりました。また、オク自身は贈賄の事実を知らなかったとしたものの、220万ドルの和解金を支払うことになります。この問題により同社は顧客の信頼を失い、2015年には450億ドルにまで膨らんだ運用資産も次々と流出していきました。急増する解約に対応して、止むを得ず投資対象を処分することになりますが、それらは流動性の低い資産だったため運用成績の悪化を招き、さらに資金流出が加速するといった悪循環に見舞われました。
◆創業者の退任
こうした事態を解決するためオクは最高経営責任者(CEO)を辞任し、共同最高投資責任者(CIO)であるジェームス・レビンにその座を譲ろうとしました。レビンは2006年に入社し、2012年には約20億ドルも稼いだクレジット部門のスター・プレイヤーです。しかし、オクは心変わりし、2017年末にリリースした投資家向けの書簡では「現在はジミーへの移行にふさわしい時期ではない」と述べています。
結局、オクはCEOの座を、外部から招へいしたロバート・シャフィールに譲って会長職に退きます。シャフィールは2016年まで名門投資銀行であるクレディ・スイス・グループ<CS>米国法人の最高経営責任者(CEO)、かつ同行のプライベート・バンキングおよびウェルス・マネジメント部門の共同責任者でした。ところが、こうした社内の内紛めいた状況も重なったためでしょうか、同社の株価は2018年に上場廃止基準となる1ドルを割り込んでしまいます。このときは10株を1株に併合するなどして、どうにか難を逃れました。
その後、オクは2019年に引退し、同社は社名をスカルプターに変更。イメージの刷新を図ります。スカルプターとは彫刻家を意味する言葉であり、同社がスチュワード(資本の管理運用受託人)として「日々努力していることを具現化する献身、粘り強さ、ビジョン」を投資家に想起してもらうことを目指しました。このように新体制でスカルプターは再スタートを切ったわけですが、シャフィールCEO時代は長続きせず、遂に2021年にはレビンが同社のCEOに就任します。
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証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。
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