“空の脱炭素化”待ったなし、持続可能な航空燃料「SAF」関連株を狙え <株探トップ特集>

特集
2022年11月9日 19時30分

―ICAOの50年CO2実質ゼロ目標で脚光、国産化に向けた取り組み相次ぐ―

国土交通省と経済産業省は7日、持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進に向けた官民協議会の第2回会合を開いた。これまで国交省は2030年時点のSAF使用量について、国内空港でのジェット燃料利用予測の約1400万キロリットルの10%に相当する約140万キロリットルを見込むとしていたが、新たな資料では171万キロリットルになると試算している。国際民間航空機関(ICAO)が9月27日~10月7日に開催した総会で、国際線の航空機が排出する二酸化炭素(CO2)を50年に実質ゼロとする目標が採択されたこともあり、空の 脱炭素化は待ったなしの状況だ。

●航空業界で切り替えの動き

SAFとは「Sustainable Aviation Fuel」の略で、原料となるバイオマスや廃食用油、都市ごみなどの生産・収集から、製造、燃焼までのライフサイクルで、従来の航空燃料に比べてCO2排出量の大幅な削減が期待できるとともに、既存のインフラを活用できる航空燃料のこと。航空輸送のカーボンニュートラルを実現するうえで不可欠な代替燃料で、政府は国際競争力のある国産SAFの開発・製造を推進するため供給側の石油元売り事業者などと利用側の航空会社との連携を後押ししている。

こうしたなか、日本航空 <9201> [東証P]は21~25年度の中期経営計画で掲げるSAFの利用目標(25年度に全燃料搭載量の1%、30年度に10%)の達成に向けた取り組みを進めており、このほど世界最大級の再生可能燃料製造会社であるフィンランドのネステ及びネステの日本地区総代理店となっている伊藤忠商事 <8001> [東証P]とSAFの調達に関する契約を締結。まずは18日に運航を予定している東京(羽田)-沖縄(那覇)線のサステナブルチャーターフライトに搭載する予定だという。

ANAホールディングス <9202> [東証P]は、航空機の運航で発生するCO2排出量を50年度までに実質ゼロとする目標に向け、「SAFの活用」「航空機の技術革新」「オペレーション上の改善」「排出権取引制度の活用」を推進。ホンダ <7267> [東証P]とゼネラル・エレクトリック<GE>との折半出資会社であるGE Honda エアロ エンジンズは10月、SAFを100%使用した航空エンジンの試験に成功したことを明らかにしている。

●サプライチェーン構築へ本腰

現状ではSAFの供給量は世界的に少なく、製造コストなどの課題もあるが、国内では化石燃料に依存しない国産SAFのサプライチェーン(供給網)を構築しようとする動きが出てきている。今年3月には日揮ホールディングス <1963> [東証P]、出光興産 <5019> [東証P]、ENEOSホールディングス <5020> [東証P]傘下のENEOS、コスモエネルギーホールディングス <5021> [東証P]傘下のコスモ石油、東洋エンジニアリング <6330> [東証P]、三菱重工業 <7011> [東証P]、IHI <7013> [東証P]、丸紅 <8002> [東証P]、三井物産 <8031> [東証P]などで構成される有志団体「ACT FOR SKY(アクト・フォー・スカイ)」が設立されるなど、企業も本腰を入れ始めた。

9月にはニチレイ <2871> [東証P]、東芝 <6502> [東証P]傘下の東芝エネルギーシステムズ、Jパワー <9513> [東証P]などが新たに加盟し、ニチレイは食品工場から出た廃食用油の提供を通じて航空分野での脱炭素化と循環型社会の実現につなげる考え。東芝エネルギーシステムズは、環境省の委託事業である「人工光合成技術を用いた電解による地域のCO2資源化検討事業」に参画しており、SAF製造に必要なCO2を一酸化炭素(CO)に転換するCO2電解技術の開発に取り組んでいる。

また、Jパワーは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から「バイオジェット燃料生産技術開発事業/微細藻類基盤技術開発」事業を受託し、SAFの原料となる微細藻類を安定的に大量培養できる技術の開発を推進。このNEDO事業の成果によって培養される微細藻類は、SAFの原料としてSAF製造事業者に供給されてニートSAF(従来の化石由来の航空燃料と混合する前の代替航空燃料。混合後の航空燃料がSAFとされており、区別されている)が製造され、最終的に化石由来の航空燃料と混合されてSAFとして使用されるという。

なお、日揮HDとコスモ石油、レボインターナショナル(京都市伏見区)の3社は11月1日付で、廃食用油を原料とした国産SAFの大規模生産を目指す新会社「SAFFAIRE SKY ENERGY(サファイア・スカイ・エナジー)」を設立した。

●ユーグレナ、GEIなど注目

これ以外の関連銘柄では、Green Earth Institute <9212> [東証G]に注目したい。同社は環境省が公募した「脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業(廃棄物等バイオマスを用いた省CO2型ジェット燃料又はジェット燃料原料製造・社会実装化実証事業)」の実施者として採択されている。これは木質バイオマス由来のエタノールからバイオジェット燃料を生産するもの。事業の期間は24年3月までで、事業規模は約2億400万円となっている。

シナネンホールディングス <8132> [東証P]子会社のシナネンファシリティーズは9月、滋賀県が実施する琵琶湖の「水草等対策技術開発支援事業」に亜臨界水処理技術による実証実験が採択されたことを明らかにした。この実証実験では、琵琶湖から刈り取られた水草を亜臨界水で処理することにより、セルロース分を抽出。セルロース分をパルプとして使用することで、プラスチック製の梱包材・緩衝材などに取って代わるモウルド材(紙製の梱包材)の原料として活用するほか、GEIの協力のもと微生物などの働きを利用するバイオリファイナリー技術などによって、糖化したセルロース分からバイオエタノールなどを生成し、SAFへの活用も目指すとしている。

ユーグレナ <2931> [東証P]は9月、成田国際空港(千葉県成田市)の給油ハイドラントシステム(航空機で使用するジェット燃料を安全・安定的に輸送するために設置・運用される給油システム)に、自社が製造・販売するSAF「サステオ」が導入されたと発表した。国内空港のハイドラント施設に国産のSAFが導入されるのは今回が初の取り組み。同月には双日 <2768> [東証P]のグループ会社が運航するビジネスジェットに「サステオ」を給油し、国産SAFを搭載した初の国際線フライトが実施された。

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