田部井美彦(内藤証券)が斬る ―どうなる?半年後の株価と為替―

特集
2022年12月3日 11時00分

世界的な物価高や金利の先高観、地政学的リスクの高まりなどを背景に、世界の資本・金融市場の先行きに不透明感が増している。10月の米消費者物価指数(CPI)は市場予想を下回ったものの、インフレ懸念はなお払しょくされていない。ロシアによるウクライナ侵攻の終息もなお見通せず、米国の今後の景気後退を予測する声も根強い。

厳しい政治経済の環境の中、アナリストやエコノミストなどの専門家は、「半年後の株価」や「半年後の為替」をどう見ているのか。インタビューを通じて、著名アナリストに予測してもらい、その背景を詳報する。第8回は内藤証券の田部井美彦・チーフアナリスト兼投資調査部長に話を聞いた。

●田部井美彦(たべい・よしひこ)

内藤証券株式会社 投資調査部長 リサーチ・ヘッド&チーフストラテジスト

経済専門チャンネルの「日経CNBC」、テレビ東京系列の経済情報番組「ワールドビジネスサテライト」に出演。TOKYO MXテレビで放送されるストックボイスの番組で、毎週金曜日の「マーケットワイド」(13:45~)に2006年から出演。このほか、ミンカブや東洋経済オンライン、QUICKニュースなどに寄稿、コメントを寄せている。

田部井美彦氏の予測 4つのポイント
(1)半年後の日経平均株価は2万6000~2万8000円程度
(2)半年後のダウ工業株30種平均は2万8000~3万ドル程度
(3)日本では信越化学やソニーGなど、米国ではエヌビディアなど半導体関連に注目
(4)円相場は1ドル=150円が当面の底。今後半年では120円台の円高の可能性も

――米インフレ動向や米連邦準備理事会(FRB)高官の発言などを巡って、市場関係者の利上げ観測も揺れ動いているようです。半年後(2023年5月末)の日経平均株価の日経平均株価と米ダウ工業株30種平均の予測を教えてください。

田部井:半年後の日経平均株価は2万6000~2万8000円程度、米ダウ工業株30種平均は2万8000~3万ドル程度だと予測しています。通常シナリオでは、FRBが一定の幅の利上げを継続し、日米の株式相場も上値を追いづらい展開になると見ています。

日本の場合は円安基調になって1年程度が経過し、企業業績への円安メリットがどんどん薄れてきます。このため、来年5月に発表される3月期決算企業の業績予想は低迷するでしょう。ただ、日経平均株価のPER(株価収益率)は、足元でも米国株に比べて低いため、売り込まれることもないと考えています。

――11月前半の株式市場では、10月の米消費者物価指数(CPI)の伸びが市場予想を下回ったために「逆CPIショック」ともいうべき現象が起きました。「インフレの鈍化がFRBの利上げペースの減速などにつながる」という見方から投資家心理が改善する場面がありました。

田部井:確かに10月の米CPI発表時に市場はポジティブな反応を示しましたが、私は米国のインフレはそう簡単には収まらないと考えています。今回の米国は賃金インフレの色彩が濃いからです。特にサービス産業は人手不足から賃金を上げざるを得ない状況が続いています。システムエンジニア関連や飲食店などサービス業の労働需給が改善しなければ、FRBは利上げペースをなかなか減速させられません。これに加えて、FRBはこれまでの超金融緩和で膨らんだ自らの金融資産を圧縮する必要があります。米経済指標が多少弱くてもすぐに利上げを停止できず、今後半年間での大きな株高は望めないでしょう。

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――大幅な利上げを背景に米国では住宅価格が前月比で下落し始めていますが、インフレ抑制にはつながらないのでしょうか。

田部井:住宅価格は低迷し始めていますが、CPIに大きな影響を与える賃貸物件の家賃は下がるとは限りません。家賃はすでにある部屋を借りるための対価ですから、金利ではなく、その住宅の賃貸の需給に左右されます。日本のバブル崩壊時も住宅価格は下がりましたが、家賃はほとんど下がりませんでした。「住宅を買えないから賃貸の需要が増えて家賃が下がらない」という現象も考えられます。住宅価格の低迷は、物価全体の動向には必ずしも大きな影響を与えないと思います。

――利上げが続けば、米国企業の業績にも悪影響を及ぼしそうですね。

田部井:米景気の減速は、まだ企業業績には織り込まれていません。米企業の2023年1~3月期決算の発表前後で業績予想が下方修正されるなどして、株価全体に悪影響を及ぼすリスクがあります。早ければ今年の年末商戦が予想を下回ったり、2022年度の決算発表時に米企業の業績予想の低迷が明らかになったりする可能性もあります。もちろん、米国がリセッション入りすれば、米ダウ工業株30種平均が2万8000ドルを割り込むこともあり得ます。

――外国為替市場では円相場が一時1ドル=150円を割り込むなど大幅な円安・ドル高が進みました。半年後の見通しは。

田部井:今年10月に付けた1ドル=151円台は、当面の円相場の底だと見ています。今後は米国の景気減速または後退を見越したドル売りが出てくる可能性があります。来年4月には超金融緩和を推進してきた日銀の黒田東彦総裁の任期が終了するため、「日本も大幅な金融緩和は続かない」との思惑から円買いが入りやすくなるでしょう。とはいえ、FRBは利上げを続ける見通しですので、円高・ドル安になったとしても、1ドル=120円程度にとどまると予測しています。

――日米の株式で期待できる業種、個別銘柄について教えてください。

田部井:注目している業種は、日米ともに半導体関連です。FRBによる大幅な利上げを背景に日米の景気は今後、減速する可能性がありますが、半導体関連の企業はシリコンサイクルからより強い影響を受けます。シリコンサイクルは景気動向より先に悪化していましたので、関連銘柄の株価の調整も早めに進んでいました。関係者に聞き取りをしたところ、シリコンサイクルはすでに改善し始めています。半導体はスマートフォンやパソコンだけでなく、多くの電化製品で不可欠な存在になりつつあります。デジタルトランスフォーメーション(DX)などが進む中、さらに重要性を増していくでしょう。

日本の個別株では、半導体の基板となるシリコンウエハーを製造する信越化学工業 <4063> [東証P]や、CMOSセンサーと呼ばれ、カメラの網膜の役割を果たす画像半導体を製造するソニーグループ <6758> [東証P]をあげたいと思います。このほか、イビデン <4062> [東証P]や新光電気工業 <6967> [東証P]、村田製作所 <6981> [東証P]、ローム <6963> [東証P]などの半導体関連銘柄にも注目しています。米国株では、半導体の設計を手掛けるエヌビディア<NVDA>のほか、半導体メーカーのマイクロン・テクノロジー<MU>、アドバンスト・マイクロ・デバイシズ<AMD>などに期待しています。

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(※聞き手は日高広太郎)

◆日高広太郎(ジャーナリスト、広報コンサルティング会社代表)

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1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。小売店など企業ニュースの担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなどでは日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年8月に東証一部上場(現プライム市場)のB to B企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。ジャーナリストとしても記事を複数連載中。5月に著書「BtoB広報 最強の攻略術」(すばる舎)を出版。

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