明日の株式相場に向けて=米国の「楽観」とグロース株シフト
きょう(9日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比479円高の3万2646円と急反発。朝方は買い優勢でも上値はそれほど伸びないという見立てがあったが、ハイボラティリティ相場は健在だった。日経平均が逡巡したのは取引開始後10分程度。いったん値を消したもののそこからは先物主導で一貫した上昇トレンドを形成し、後場に入ると例のごとくショートポジション解消を強制する“踏み上げ相場”の様相を強めた。
ここ最近は米長期金利の低下基調が鮮明となっており、足もとで10年債利回りは4.5%を下回ってきた。米国ではFRBによる金融引き締めが既に終了した段階にあるとの見方が強まっている。FFレートのターミナルレートは5.25~5.5%というラインがにわかに“鉄板化”し、これが米株市場にとっても上昇相場に向けた強靱な足場となった形だ。とりわけグロース系セクターには有利な地合いとなり、ハイテク株比率の高いナスダック総合株価指数は前日まで9営業日続伸と2年ぶりの連騰記録を達成している。
米長期金利はついこの間まで5%台は通過点というようなタカ派的見解が大手を振っていたが、前週1日のFOMCの声明文とパウエルFRB議長の記者会見を契機に眼前の景色は一変した。FOMC結果発表と同日に開示されたISM製造業景況感指数が弱かったことが、マーケットの解釈に影響を与えた部分があったかもしれない。また、その2日後の週末3日に発表された10月の米雇用統計も同じベクトルだった。非農業部門の雇用者数だけでなく平均時給の伸びが市場コンセンサスを下回り、失業率も上昇するという結果で、利上げ打ち止めムードを強く増幅させる形となった。ナスダック指数は前日まで9連騰だが、それとは対照的に恐怖指数と呼ばれるVIX指数は前日まで8日続落、終値で1カ月半ぶりの水準となる14.45まで低下した。市場はオプティミストでひしめいている。
そして、東京市場にも米国の「楽観」が伝播している。銘柄入れ替えによって日経平均は一段とハイテク株の占有率が高まっているが、それだけナスダック指数との連動性が高くなっているとの指摘もある。ナスダック指数は直近9営業日で8.4%の上昇、対して同期間のNYダウは5.3%上昇にとどまり3%あまりの差がついたが、今の日経平均はどちらかといえば前者の値動きに刺激されやすいというのが通説だ。一方で、NYダウへの日経平均のキャッチアップが市場関係者の間で話題となっていて、NYダウが前日終値で3万4112ドル、日経平均の今日の終値が3万2646円とその差は1500弱である。これが近いうち逆転するのではないかという話だが、仮に実現すれば2016年3月以来という。その前提としてダウ対比で優位性を発揮しているナスダック指数に追随する日経平均の上昇イメージがあることは言うまでもない。そして、これはバリュー株からグロース株へのセクターローテーションの流れとも合致する。
個別で言えば相変わらず群を抜く売買代金をこなすレーザーテック<6920>の存在が象徴的だ。足もと活況商いで新値圏を快走するレーザーテクだが、「グロース株復権を暗示するとともに、売り方にとってこれ以上半導体関連株 のショートポジションを維持することにリスクが大きい印象を与えている」(中堅証券ストラテジスト)と指摘する。目先、空気を読まない投資判断の引き下げで同社株は水を差される可能性があるものの、全体観として出遅れる中小型半導体関連に目を向ける時かもしれない。
あすのオプションSQ算出を境に日経平均はもみ合いを上下どちらかに放れる公算が大きいという見方がある。前週まで200日移動平均線と75日線の狭間でボックス圏往来を繰り返していた日経平均だが、直近は75日線を上抜けている。ここを踊り場に再上昇というのが理想だが、日本時間あす午前4時に予定されるパウエルFRB議長の講演が一つの関門となる。ここで波高が高まらなければもう一段の上値が視野に入りそうだ。
あすは株価指数オプション11月物の特別清算指数(SQ)算出日にあたる。また、10月のマネーストック、9月の特定サービス産業動態統計が開示される。このほか、3カ月物国庫短期証券の入札が午前中に行われる。海外では豪中銀の四半期金融政策報告書、7~9月期英GDP(速報値)、10月米財政収支、11月の米消費者態度指数(ミシガン大学調査・速報値)など。国内主要企業の決算では東京エレクトロン<8035>、ニトリホールディングス<9843>、資生堂<4911>、ブリヂストン<5108>などが予定。(銀)