米石油需要の減退は米景気悪化を示唆、スタグフレーションは時間の問題か <コモディティ特集>
●リセッションの入口に立つ米国
5月の米ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値は48.2まで低下し、統計開始以来の最低水準を更新した。コロナショック当時の2022年6月に記録した50.0を下回っており、消費者心理の悪化は明らかである。内訳の期待指数は48.5までやや回復した反面、現況指数は47.8まで低下し、指数全体を押し下げた。ホルムズ海峡の封鎖を背景としたエネルギー高が家計を直撃している。
米エネルギー情報局(EIA)によると、米ガソリン小売価格は1ガロン=4.581ドルまで上昇し、2022年以来の高値を更新した。ウクライナ戦争が始まった2022年は1ガロン=5ドルの節目を一時突破したが、現在のホルムズ海峡封鎖のほうが供給不足は深刻であり、更なるガソリン高を覚悟すべきかもしれない。米国とイランの本格的な停戦協議は依然として始まらず、あまり選択肢のないトランプ米大統領が新たな軍事行動を起こす可能性もある。
EIA週報におけるガソリン需要は4週間移動平均で日量901万5000バレルまで増加し、昨年8月以来の高水準となった。ガソリン高が家計を圧迫しているとはいえ、夏場の需要期に向けてガソリン消費がすでに拡大している。消費者はガソリン高による痛みを感じつつも、株高の継続による資産効果もあってガソリンの消費減退は今のところ発生していないが、家計が株高頼みであるとするならば、米景気見通しは不安定だ。
●エネルギー価格の高止まりが需要減退を招く
一方、米国の石油製品需要の4週間移動平均は日量2027万バレルまで減少した。イラン戦争開始前のピークは日量2139万1000バレルと、需要減退は明らかである。ディーゼル燃料など、留出油に含まれる燃料需要の落ち込みが鮮明で、エネルギー負担の増加は経済を圧迫している可能性が高い。
また、EIA週報の需要項目のなかで、ガソリンに次ぐ大きな割合を占める「その他の石油」は4週間移動平均で日量4337万バレルまで減少し、年初来の最低水準を更新した。ナフサも含まれる「その他の石油」は、大雑把に言えば燃料以外の石油で、プラスチックや合成繊維、医薬品や化粧品など、生活に欠かせない膨大な種類の化学製品の大もとの材料である。
ガソリン高が家計を直撃していることや、全体として米石油製品需要が減退しつつあることは、米経済の悪化を示唆する。石油製品の価格は高騰しているものの、製油所稼働率は90.1%と目立って上昇しておらず、石油企業が増産をためらっているとすると、需要減退が深刻である可能性がある。世界最大の石油消費国である米国にとって現状の石油価格はおそらく耐えることができず、エネルギー価格の高止まりが続くなら米経済指標に悪影響が広がっていくだろう。米ミシガン大学消費者信頼感指数が過去最低水準を更新したことは景気後退(リセッション)の入口かもしれない。
物価高による景気悪化を回避したいならば、米国はホルムズ海峡の封鎖を解除しなければならない。世界の石油在庫の減少に伴って、来月半ば頃には石油システム(パイプライン、貯蔵タンク、輸出ターミナル、精製所など)で運用に支障が発生する可能性が指摘されるなど、トランプ米大統領にはあまり時間はない。戦略石油備蓄(SPR)の放出で相場が落ち着いている今のうちにイランと落とし所を見つける必要がある。ただ、世界的なスタグフレーションの回避を期待させる手掛かりはあまりない。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
株探ニュース