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黎明期から普及期へ 国策の追い風吹く「医療AI」関連に上昇機運 <株探トップ特集>

特集
2024年8月29日 19時30分

―市場の急成長にらみ新規参入企業も増加、中・小型銘柄のビジネスチャンスも拡大―

医療分野でのAI活用が黎明期から普及期に向かい始めた。医療現場におけるAIは、画像診断時における病変や病変が疑われる箇所の見逃し防止や、放射線撮影におけるポジショニングのナビゲーションといったものから、文章の自動生成によるレポートの作成支援など幅広いシーンで活用されており、参入企業も増えつつある。また、2024年4月からの医師の働き方改革で、時間外・休日労働時間の上限が原則年960時間となったことも、人手不足に対応するAIの普及に弾みをつけているともいわれている。社会のデジタル化も追い風となり、医療AIは更に普及が進むとみられ、関連企業のビジネスチャンスは拡大しそうだ。

●診療報酬改定など国が医療AI普及を後押し

厚生労働省は17年に設置した「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」で、「AI開発を進めるべき重点6領域」を選定した。6領域とは「ゲノム医療」「画像診断支援」「診断・治療支援」「医薬品開発」「介護・認知症」「手術支援」で、その後を受け継いだ「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」で更に「PHR(予防)」「人工知能開発基盤」「審査支払業務の効率化」「AIホスピタル」の4領域が加えられ、それぞれについての工程表がまとめられた。

政府は医療AIシステムの開発推進・普及のため、医療データベースの構築や活用、AI導入へのインセンティブの設定などにも取り組んでおり、生成AIに関しても国産LLM(大規模言語モデル)開発の支援やガイドラインの策定が進められている。特にインセンティブの設定では、22年度の診療報酬の改定でAIの利用と適切な管理が、「画像診断管理加算3」の施設要件として加えられ、大病院のAI画像診断の普及に大きく貢献した。

●市場規模は5年で3.6倍へ急成長見込む

矢野経済研究所(東京都中野区)が5月に発表した「診断・診療支援AIシステム市場に関する調査を実施(2024年)」によると、22年度の診断・診療支援AIシステムの市場規模(事業者売上高ベース)は38億円で、23年度は73億円だったと推計している。

同社では、足もとで診断に対するAIの役割が評価され始めていることに加えて、医療機関や医師のAIに対する関心が高まり、診断支援AIシステムの導入が広がりをみせているとし、市場は普及期にシフトしたとしている。更に将来的には電子カルテデータや臨床検査、放射線画像、心電図などのさまざまなデータをマルチモーダルに解析することで、患者の状態予測及び治療後の予後予測をする診療支援AIシステムの開発などが進み市場は多様化するとみており、28年度には264億円に拡大すると予測している。

●SBGやNTTが医療AI関連事業を強化

医療AIは成長が見込まれる分野だけに、企業の取り組みもここにきて活発化している。最近では、ソフトバンクグループ <9984> [東証P]が6月27日、AIを実践的に応用した個別化医療を推進する米スタートアップ企業のテンパスAI<TEM>と合弁会社SB TEMPUSを設立すると発表した。新会社はテンパス社が米国での事業を通じて蓄積した知見や技術を応用し、遺伝子検査、医療データの収集・解析、AIによる治療提案といった個別化医療を支援するサービスを日本国内で順次提供するという。

また、日本電信電話 <9432> [東証P]は7月1日に新会社NTTプレシジョンメディシンを発足させた。医療機関との連携を通じて電子カルテなどのメディカルデータを収集し、製薬企業や研究機関などへデータ流通を加速させることで、次世代の予防や治療法の研究開発を支援する。また、AIなどの最新技術を活用した業務DXにより、データを活用した医薬品の開発支援や先進技術の研究推進などに寄与するとしている。

●中・小型の関連銘柄にも注目

このほかにも医療AIに関連した銘柄は多い。代表的なところでは、AIによる画像診断支援システムを手掛ける富士フイルムホールディングス <4901> [東証P]やコニカミノルタ <4902> [東証P]、オリンパス <7733> [東証P]、キヤノン <7751> [東証P]といったところだろうが、これら大型株ばかりではなく、中・小型の銘柄にも注目したい。

FRONTEO <2158> [東証G]は、自社開発のAIによるビジネスソリューションを展開しており、医療分野ではAIによる創薬支援サービス「Drug Discovery AI Factory」を展開する。論文探索AIシステムにより創薬研究の大幅な効率化・加速化・成功確率向上を支援するほか、電子カルテや看護記録などの患者情報をAIで解析し、入院患者の転倒・転落のリスクを可視化する転倒転落予測AIシステムなどを提供。また、会話型認知症診断支援AIプログラムや認知症・うつ病の診断支援AIプログラムなどの社会実装にも取り組んでいる。

フォーサイド <2330> [東証S]は、今年2月に子会社AI Tech Solutionsを設立しAI関連事業に参入した。7月18日には川崎幸病院(川崎市幸区)から生成AIを活用した「退院サマリーシステム」の開発を受託したと発表した。医師や看護師が作成した経過記録などを生成AIが自動で要約し退院サマリーを作成するというもので、医師や看護師が担う退院サマリー作成業務による事務負担を軽減する。

テクマトリックス <3762> [東証P]は子会社PSPが今年4月、キヤノンメディカルシステムズ(栃木県大田原市)及びエムスリーAI(東京都港区)と、医療AI推進のための業務提携を締結した。PSPとエムスリーAIが共同で推進しているAIプラットフォーム「NOBORI PAL AI」をキヤノンメディカルと販売連携することで、画像診断における読影品質の更なる向上を図るほか、医療AIを活用できる環境の拡大を目指すようだ。

エクサウィザーズ <4259> [東証G]は、19年から第一三共 <4568> [東証P]と創薬研究におけるAIの利活用を通じた「データ駆動型創薬」の実現に向けた共同開発プロジェクトに取り組んでいる。その一環として23年から取り組んでいるヒット化合物の創出プロジェクトでは今年3月、病気の原因となる標的タンパク質の中でも難易度の高いターゲットに関して、良質なヒット化合物を取得し成果を上げている。また、今年6月には健康・医療分野のAIサービスを開発する子会社ExaMDが第一三共とウェアラブルデバイスを用いた乳がん観察研究を開始しており、AIを利用した新しいサービスの創出が期待されている。

フォーカスシステムズ <4662> [東証P]は24年3月期から3カ年の中期経営計画の重点戦略のなかで、医療系大学など外部研究機関とのヘルステック分野のAIの研究開発を掲げている。その一環として鳥取大学と共同で褥瘡(じょくそう)の進行度判断AIの開発に取り組むほか、聖マリアンナ医科大学とはAI画像認識技術を活用した自動気管挿管装置の開発に向けた研究を行っている。

レナサイエンス <4889> [東証G]は、東北大学やNEC <6701> [東証P]グループと糖尿病患者のインスリン投与量を予測するAIの開発に取り組んでおり、8月19日には東北大学など国内5医療機関で薬事承認のための臨床性能試験を開始すると発表した。同試験は医薬品における検証試験(第3相試験)と同様の性格を有する臨床研究で、25年3月までの実施を予定している。このほか、AIソリューションを活用したSaMD(プログラム医療機器)のパイプラインとして、京都大学などとの共同研究である「呼吸機能検査診断」やニプロ <8086> [東証P]などと共同研究契約を締結した「維持血液透析医療支援」、東北大学などとの共同研究による「嚥下機能低下診断」に関する研究開発や実装を進めている。

エコナビスタ <5585> [東証G]は、睡眠解析技術をベースにしたSaaS型高齢者施設見守りシステム「ライフリズムナビ+Dr.」を展開している。入院患者の睡眠やバイタルデータなどのビッグデータを、自社が開発したAIを活用し解析し、クラウドを通じリアルタイムで見える化するサービスで、7月22日には青洲会神立病院の20床に、医療機関の病床利用での導入としては初めて納入したと発表した。また、7月24日にはエーザイ <4523> [東証P]と認知症領域でのエコシステムの構築を目指した業務提携契約を締結し、協業を開始している。

フクダ電子 <6960> [東証S]は8月23日、独自のAIによって、発作のない状態から「隠れ心房細動」のリスクを検知する心電計を開発したと発表した。診断のついていない患者の洞調律心電図から、過去に発作性心房細動(PAF)を発症していた可能性をAIにより推定する「隠れ心房細動リスク推定機能」を搭載。心房細動(AF)はこれまで、発作時のデータがないと診断は難しかったが、同機能を活用することでリスクを推定でき、ホルター心電図(長時間心電図)検査などの確定診断につなげるという。

このほか、千葉大学などと内視鏡検査における大腸がんの深達度AI診断の共同研究を行った実績のあるモルフォ <3653> [東証G]、M&A戦略の一環としてAIでがんを診断する技術なども視野に入れるヤマシタヘルスケアホールディングス <9265> [東証S]などにも注目したい。

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