タイムリミット迫るイラン核合意修復、実現すれば原油相場を圧迫へ<コモディティ特集>
バイデン米政権の発足後、欧州などを仲介役としてイラン核合意の修復作業が急ピッチで行われている。保守穏健派のロウハニ・イラン大統領が任期満了を迎える前に協議をまとめる必要がある。イラン核合意の参加国は来月18日のイラン大統領選で、反米強硬派の新大統領が誕生することを警戒している。
●米・イランの核合意修復は交渉大詰へ
イランが核合意をあらためて遵守するならば、米国は対イラン制裁を解除し、イラン産の 原油が従来のように取引可能となる。トランプ前政権が制裁を実施する前、イランの原油生産量は日量で約380万バレルだったが、一時は同200万バレル程度まで落ち込んだ。
最近の報道を見る限り、イラン国内の穏健派と反米派の対立が強まっている。エリート部隊であるイラン革命防衛隊はホルムズ海峡で米艦艇を挑発するなど、米国とイランの両政府が合意を急いでいることにおそらく不満である。一方、合意に向けた草案作成が始まっていると伝わっており、イランのアラグチ外務次官によれば原油制裁の解除を巡って認識は一致している。先月、ロウハニ大統領が核合意の修復を目指した協議は60~70%が完了していると述べていたことからすれば、今月に入って交渉は大詰めを迎えているのではないか。
●大統領選まで1カ月、イラン生産回復の道開けるか
関係各国を一切無視してイラン核合意から離脱したトランプ前政権の行為をバイデン政権は正す必要がある。イランと米国の距離が縮まっているとみられることは、サウジアラビアとイランの外交的な溝を修正する原動力になっていることから、部分的な中東和平も実現に向かっている。サウジアラビアとイランの外交が復活すると、イエメン紛争の終結が視野に入るだろう。イランが支援するフーシ派によるサウジ攻撃はおそらく下火になる。中東プレミアムの縮小は原油高を抑制し、コロナ後の世界的な景気回復の一助となりそうだ。
ただ、トランプ前政権と蜜月関係にあったイスラエルの心中は穏やかではない。米ファイザーが開発した新型コロナウイルスのワクチンをイスラエルはいち早く入手し、経済活動の正常化が可能になったとはいえ、イラン核合意の再成立や、米国の対イラン制裁解除は受け入れがたいのではないか。米国とイランの協議次第では、イスラエルにとってのイラン脅威レベルは低下するかもしれないが、米国が割って入っているにしても、敵国同士であるイスラエルとイランの関係性が改善するとは思えない。
イラン大統領選まで約1カ月である。イラン核合意が復活すれば、イランの生産量が回復するうえ、中東の緊迫感が低減することから原油相場の足を引っ張りそうだ。ただ、超短期間の協議で実現するのか確信はない。予断を持たず、日々の報道を見守りたい。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
株探ニュース