中村潤一の相場スクランブル 「乱気流相場で勝利する“テーマ株攻略”作戦」
minkabu PRESS編集部 株式情報担当編集長 中村潤一
●ワルツのリズムでデジャブ相場
ようやく底を入れたかと思えば売り直され、逆に底が抜けたかと思えば今度はヒラリと体をかわすように切り返す。東京株式市場は、経験値の高い市場関係者でもなかなか先が読めない流れとなっています。
日経平均株価は乱気流に揉まれて、日足ベースでは全体像を把握しにくい状況にありますが、少し離れて週足で眺めると2月初旬以降は奇妙な規則性があることに気付かされます。2月第1週(5~9日)の大陰線形成後、翌週にそれより短い陽線を示現し、さらにその次の週にマドを開けて上に放れるも小陰線で終わり、また大陰線を引くというパターン、まるでワルツのリズムでこれを2回繰り返しており、今はその3サイクル目に入っています。底がようやく入ってリバウンド気配を見せるものの、そこで飛びつくと倍返しで裏切られるというデジャブ相場。その間にも下値は徐々に切り下がっています。
●サウジ政府系ファンドの実需売り一巡を待つ
来週以降に3度目の正直で上昇転換となるかは神のみぞ知るですが、4月に入れば株式需給面で流れが変わるのではないかと考えるのが、自然な読みともいえます。
外国人投資家は3月第2週までの10週間で現物と先物合わせ実に8兆1000億円強売り越していますが、この中身はサウジアラビア政府系ファンドの実需売りに、ヘッジファンド筋の空売りも上乗せされている感触です。サウジ系の売りが切れてヘッジファンドが買い戻し、そこに4月新年度入りで国内機関投資家の運用開始に伴う実需買いが入ってくれば、相場の景色が大きく変わっても不思議はありません。年央から年末に向けてのマーケットを占う上でも、ここはタイミング的に重要なポイントにさしかかっています。
確かに外部環境面は春を感じさせるような印象からは程遠く、国内では「森友学園」の国有地売却に絡む問題で安倍政権に揺らぎが生じ、海外ではトランプ米大統領の保護主義色を前面に押し出した通商スタンスが、世界的な貿易戦争を生むのではないかと不安心理を煽る状況。相場を取り巻く環境はまさに内憂外患といってよいわけですが、立場を変えて売り方の目線で見れば、なかなか腰が重く思うように崩れない相場といえるのかもしれません。
●個人の買い意欲旺盛、一方で空売り比率は過去最高
前日(27日)発表された23日申し込み現在の信用買い残高は3兆6700億円あまりで10年半ぶりの多さとなりました。個人投資家はセリングクライマックスどころか、信用取引を使って全力で買い増している状況で、そこには危険な香りも漂います。しかし一方で、前週末23日に開示された東証空売り比率が初めて50%を超え、過去最高を記録している点も見逃せないデータです。これは機関投資家が借りてきた株券を売却する取引も含まれますが、いずれにせよ売り叩かれた株価を下値で買い戻そうとする向きもかつてないほど多いことが分かります。純粋に空売りポジションの側に立つ人にとっては、いつ踏み上げ相場のスイッチが入るかも分からず戦々恐々とする局面にあるわけです。
元来、相場は2つの異なる価値観があるからこそ売買が成立する。時間軸の制約を考慮しないものとして、売りと買いがぶつかる時、極論すればその瞬間どちらかが判断を間違っている、ということになります。株価はミスプライシングの連続で、語弊を承知で言えばある意味、株式投資とはそのミスプライシングを利用していかに利ザヤを取るかというゲームともいえるのです。もし、現在の株価が上もしくは下にどのくらいバイアスがかかったものかが正確に把握できるのであれば株式投資は必勝ですが、それは人工知能(AI)を超えて既に神の領域です。
●時が経てば波はおさまる、焦る必要なし
では、今のような相場とはどう対峙すればよいか。『ガルガンチュア物語』の著者として名を馳せるラブレーの言葉が参考になります。いわく「何事も行き着くところに落ち着くものである」。凡庸なようで、これは投資にも通じる金言といえるでしょう。世の中がどんなに波乱の様相を呈しても時間がたてば、必ず波はおさまります。その時を待つのが投資家として賢明なスタンスです。中長期スタンスで資金をマーケットに投入するのは、新年度相場の風向きをしっかり確かめてからでも遅くはありません。
正直なところ、今の地合いは材料株にとっても決して有利な地合いとはいえないと思います。追い証が発生して投げが生じた株については、それはそれで仕切り直しが利きますが、そこまでいかない銘柄はジリジリと水準を切り下げ、むしろ傷を深くします。チャートの崩れていない強調銘柄につくのがセオリーですが、上値指向の強い株がいったん崩れると反動がきつい相場であることも念頭に置く必要があります。ここ最近、腹五分目投資を提唱してきたのは、地合いを鑑みてのこと。個別株で思惑を外したと感じたらそこはナンピンではなく、素早く手仕舞うことが鉄則です。
もちろん「休むも相場」で今回の当コラムは終了、というつもりはありません。乱気流相場であってもリスクコントロールさえしっかりしていれば果実をつかむことは十分可能だからです。今の地合いに見合ったテーマを探すとすれば、AI関連とセルフレジ・ICタグ関連が最有力。このほかに、内需系一本釣り狙いでダイナミズムの塊のように輝きを放つ銘柄はいくつか見受けられます。
●AIは永遠のテーマ、HEROZ上場で次のステージへ
AI関連は株式市場永遠のテーマともいえ、2年以上前から当コラムや株探トップ特集で何度も取り上げてきました。ビッグデータの普及をバックボーンとしたディープラーニング活用が起爆剤となってAI分野は凄まじい勢いで進化のプロセスをたどっています。
ディープラーニングは人間の脳を模したニューラルネットワークを駆使して、情報の「入力層」と「出力層」の間に隠れた「中間層」を厚くして多層構造とすることで、コンピューターの識別能力を人間に限りなく近づけることに成功し、これによりAI自らが学習し進化を遂げていくというコンセプトが現実のものとなり、飛躍的なステージの向上をもたらしました。AI関連の市場規模も加速的に拡大する見込みで、東京オリンピック開催年の2020年に世界ベースで24兆円、30年には87兆円の超巨大マーケットが創出されるとも試算されています。
ここにわかにAI銘柄物色の人気が強まる傾向がみられますが、これは4月20日にAIを活用したネットサービスの開発・運営を行うHEROZ <4382> [東証M]がマザーズ市場に上場予定にあることが影響しているようです。米グーグル傘下ディープマインド社の「アルファ碁」が世界トップ棋士の李世ドル氏や柯潔氏を凌駕して世界に大きな衝撃を与えましたが、同じようにHEROZは将棋の佐藤天彦名人に圧勝したAIソフト「ポナンザ」を擁することで知られ、株式市場でもいよいよAIと対峙する人間の構図が意識される段階に入ってきたような気がします。
【シグマクシスに力あり、AI穴株はクレオ】
関連銘柄は必然的に注目度を高めそうですが、特にマークしたいのはこれまで再三取り上げてきたブレインパッド <3655> のほか、シグマクシス <6088> が強いチャートで上値を感じさせます。
シグマクシスはAIを取り入れた経営コンサルを展開しており、ビジネス競争力を実現するサービス「AIDプログラム」の提案で需要を開拓しています。また、人工知能エンジン「KIBIT」を活用した情報分析事業で強みを持つFRONTEO <2158> [東証M]も押しを入れながらも中期波動ではしっかりと上値を指向しており、注目が怠れません。さらに、意外性のある銘柄としてクレオ <9698> [JQ]を要マーク。同社は法人向けに特化して開発受託とERP販売などを展開、AI搭載の業務自動化支援システムへの期待が大きく、今後の成長余地に思惑が募ります。
●セルフレジ関連は意外なる材料株相場の宝庫
もう少し我々のリアルな日常に近いところでは、セルフレジ関連やその周辺のRFID(ICタグ)関連に急動意する銘柄が相次いでいます。セルフレジ(無人レジ)は小売・流通業界の構造的な人手不足の問題とも絡んで、大幅な業務改善をもたらすものとして注目。また同時並行的に、従来のバーコードではなくRFID(無線自動識別)機能を持つICタグの普及が今後加速するとの見方が広がっています。総合スーパーに続いて、今後は全国に膨大な店舗数を誇るコンビニやドラッグストアなどで導入の動きが活発化する公算大で、関連銘柄の物色人気に反映されています。
近い将来に、セルフレジはAI技術を融合させてより利便性が高まる可能性があることもポイントです。今はまだ理想買いの領域ですが、市場拡大に弾みがつけば現実買いの舞台を意識して関連銘柄の裾野も広がると思われます。
【ICタグでは日邦産、三光産業に上値期待】
同関連で先駆したヴィンクス <3784> やカーディナル <7855> [JQG]などに続き、野崎印刷紙業 <7919> [東証2]が需給相場の様相で水準を一気に切り上げていますが、動き出したのは前日(27日)の後場2時近くなってから。その動きも鮮烈で、マーケットは常に新鮮味のある需給の枯れた銘柄を求めていることを示唆しています。そこで、新たにマークしておきたいのは日邦産業 <9913> [JQ]と三光産業 <7922> [JQ]。
日邦産業は独立系の電子デバイスを取り扱う商社で自動車やスマートフォン向けなどで強みを持っています。同社は2002年頃からRFID市場に進出、非接触ICカードリーダーやハンディタイプのリーダーライターなども取り扱い業界に先駆する存在。今後商機が膨らむ可能性があります。また、三光産業は粘着剤・粘着剤付印刷物など特殊印刷物専業で、ラベル印刷やタッチパネル関連などで高実績がありますが、ICタグなどの分野でもビジネスチャンスを開拓していくことになりそうです。2銘柄いずれもPBRが超割安で株価指標面からも見直し余地を内包しています。
【ダイナミズム溢れる内需系材料株3銘柄にも注目】
このほか個別に一本釣り対象としてマークしたいのは、まず、北の達人コーポレーション <2930> 。通販で健康食品や化粧品を販売、製造は外部委託ながら自社で企画し、顧客ニーズに沿うものしか作らないというコンセプトが、高成長を続ける業績に映し出されています。株価700円台半ばで25日移動平均線上に浮上してきた時価近辺は狙い目でしょう。
また、企業の販売促進支援とPR業務を手掛けるサニーサイドアップ <2180> [JQG]も東京五輪関連の一角として頭角を現してきました。売買高はまだ薄いものの3月に入り、株価にうねりが出てきています。
介護リハビリ関連で勢いをみせているのが鍼灸接骨院のチェーン展開を行っているアトラ <6029> です。同社のデイサービス・フランチャイズシステムは国家資格者である柔道整復師による機能訓練が特色で、中期的な業容拡大期待も十分。株価は上下に値動きが荒いとはいえ、25日移動平均線をサポートラインに着実に水準を切り上げています。
(3月28日記、隔週水曜日掲載)
株探ニュース