“燃料電池”復活の時、エネ基本計画改定控え上昇する注目 <株探トップ特集>
―究極クリーンエネルギーとして高まる評価、政府重視方針で再び光―
世界的に電気自動車(EV)へのシフトが進むなか、影が薄くなった感のある燃料電池車(FCV)だが、過去のテーマと考えるのは間違いだろう。日本政府では「究極のクリーンエネルギー」ともいわれる水素を重視する方針を強めており、今夏をメドに改定するエネルギー基本計画でも、低炭素社会実現に向けた重要手段として水素を活用する方針を明記する。トヨタ自動車 <7203> が、世界に先駆けて燃料電池車の量産に乗り出したことからも見てとれるように、水素とそれを利用した燃料電池の分野では日本企業は技術的な優位性を持っており、これを背景に水素市場でイニシアチブを握り、インフラ輸出にもつなげたいとの思惑も見える。燃料電池車だけではなく、燃料電池 は引き続き要注目のテーマといえよう。
●日本水素ステーションネットワークを設立
トヨタやJXTGホールディングス <5020> 傘下のJXTGエネルギーなど11社は3月5日、新会社「日本水素ステーションネットワーク」を共同出資で設立した。新会社には両社のほか、自動車メーカーとして日産自動車 <7201> 、ホンダ <7267> 、インフラ事業者として出光興産 <5019> 、岩谷産業 <8088> 、東京ガス <9531> 、東邦ガス <9533> 、日本エア・リキード(東京都港区)が参画。また、豊田通商 <8015> や日本政策投資銀行(東京都千代田区)が金融面をバックアップする。
水素をめぐっては、政府は昨年12月にまとめた「水素基本戦略」で2050年をメドに価格を5分の1に下げ、ガソリンや液化天然ガス(LNG)などと同程度のコストにすることを掲げている。また、普及促進のために水素ステーション(ST)の整備も盛り込まれており、商用水素STを20年度までに160ヵ所程度、25年度までに320ヵ所程度を整備することを目指している。
今回発足した新会社では、水素STの戦略的な整備とSTの効率的な運営への貢献を通して、利用者の利便性向上→FCV台数の増加→水素ST事業の自立化→さらなる水素ST整備という好循環の創出を目指す方針で、まずは21年度までの4年間で80ヵ所の水素ステーションを整備するとしている。
●街びらきした「綱島SST」に水素活用活動拠点
こうしたFCV普及に向けた動きとは別に、街全体で水素を活用する動きも出始めている。
パナソニック <6752> は3月26日、横浜市港北区の自社工場の跡地で開発を進めていたスマートシティー「Tsunashimaサスティナブル・スマートタウン」(綱島SST)を街びらきしたが、ここにはJXTGエネルギーが水素ステーションを設けているほか、水素活用拠点として、5キロワットの燃料電池による建物での利用実証を実施している。
また、綱島SSTでは、ホンダがカーシェアサービスを提供するが、今秋をメドに世界で初めて燃料電池車(FCV)をサービスに導入する予定で、前述の水素ステーションと合わせて、水素活用のモデルとするようだ。
●2030年に世界市場は約30倍へ
総合マーケティングビジネスの富士経済(東京都中央区)は昨年12月、燃料電池システムの世界市場予測を発表した。これによると、燃料電池の世界市場は16年度には1345億円だったが、30年度には約30倍の4兆1042億円に拡大する見通しだ。
20年度以降、FCVの市場が本格的に拡大するとみられているほか、京セラ <6971> や日本特殊陶業 <5334> など日系メーカー各社で高効率SOFC(固体酸化物型燃料電池)が製品化されていることから、小型業務用途で市場開拓が進むと予測されており、これらが全体の市場規模拡大を牽引する。
さらに、現在はフォークリフト向けが牽引役となっている駆動用についても、トヨタが燃料電池バスとして、国内で初めて型式認証を取得した「SORA」を3月7日に発売したことや、鉄道向けの商用化が進んでいることから、今後急速に市場が拡大すると見込んでいる。
●ブラザーなど新規参入組にも注目
市場の拡大は、燃料電池や水素の分野で強みを持つ日本企業にとって、ビジネスチャンスの拡大につながる。川崎重工業 <7012> 、千代田化工建設 <6366> 、Jパワー <9513> などプラントや輸送に関わる企業の動向には注目が必要だ。
また、今年2月に燃料電池市場への新規参入を発表したブラザー工業 <6448> や、20年度をメドに燃料電池向け部材に参入するエフ・シー・シー <7296> 、昨年12月にFCVの燃料タンクの生産機を製造していることを明らかにしたジェイテクト <6473> 、水素ガス用圧縮機を手掛ける加地テック <6391> [東証2]なども新たな関連銘柄として関心が高まろう。
株探ニュース