原油市場に訪れる転機、中国人口増加率鈍化とEV普及が示すもの <コモディティ特集>

特集
2018年4月11日 13時30分

―中国石油需要減速シナリオとサウジ・ロシアが模索する超長期の枠組み―

●今後10年で原油市場に転換期が訪れる

トランプ政権が貿易戦争を開始したことで、世界的な景気拡大観測が脅かされ、石油需要の増加見通しが曇っている。世界の石油需要の2割超を占める米国と、それに続く中国が対外収支を巡って殴り合いを始めたわけであり、報復関税・輸入制限の発表から関税の発動へとエスカレートするなら、石油需要がこれまでの楽観的な見通しに沿って拡大していくと期待するのはあまりにも楽観的である。

中国の石油需要は日量1200万バレル程度で推移しており、米中貿易戦争が実体経済に悪影響を与えなければ、今後もさらに拡大していく見通しである。中国の原油輸入量が大台の日量1000万バレル付近で定着するのは時間の問題だろう。人口増加と自動車の普及で、石油需要は拡大していきそうであり、電気自動車が爆発的に広まらない限り、このシナリオは崩れそうにない。

ただ、中国の人口増加率の鈍化はすでに始まっており、世界銀行によると2016年で前年比0.5%増にとどまっている。国連は2030年前後に中国の人口は減少に転じると想定している。一人あたりの個人消費が一段と増加しなければ、中国全体の消費は減速すると想定するのが妥当である。景気拡大の中心的な役割を担う生産年齢人口(15~64歳)は縮小に向かっていると考えられ、景気と同様に拡大する石油需要にもそろそろピークが訪れるのではないか。電気自動車の普及による石油需要の鈍化を想定に入れるなら、峠は意外に早くやってきそうだ。

中国の石油需要の見通しを踏まえると、 原油市場は今後10年程度ではっきりとした転換期を迎えるだろう。米国のシェールオイル革命は供給面で原油市場に地殻変動を巻き起こしたが、今後は中国が需要面から原油市場を次の暗黒時代へと変貌させる可能性が高い。

●サウジ・ロシア協調の意味するもの

この中国発の地盤沈下に対応しつつ、原油価格をできる限り維持しようと模索しているのがサウジアラビアを中心とした産油国である。石油輸出国機構(OPEC)やロシアなど、協調減産を行っている主要な産油国は現在の協調減産の枠組みを土台として、新たなカルテルを創設しようとしている。サウジアラビアのサルマン皇太子は原油価格を安定化させるため、10~20年にわたる超長期の枠組みを検討していると述べた。ロシアもこの構想に言及しており、サウジとロシアの産油大国間で大枠の合意に至っていると思われる。

サルマン皇太子が言及した期間からして、中国の石油需要の鈍化を産油国が立ち向かわなければならない困難として意識しているのは明白である。中国が高齢化・人口減少社会へと突入すると、コモディティ市場全体の地盤沈下は避けられそうになく、いくら影響力のある原油の価格カルテルが生まれるとしても荒波は回避できないが、無策のまま変革期の訪れを待つのは決断力・判断力がないに等しい。

OPECは10年先の未来を見据えて動き始めた。サウジやロシアの協調は超長期の原油価格を占う土台となる。人口動態を背景とした中国経済の変化は不可避であり、いくら身構えても不十分だといえる。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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