ベネズエラ経済危機の見えない終息、「原油急騰」の時限爆弾が破裂する時 <コモディティ特集>

特集
2018年5月23日 13時30分

―大統領選マドゥロ氏圧勝で続く場当たり経済政策、石油関連施設劣化は止まらず―

●マドゥロ政権によって経済危機深刻化、原油生産量は半減

週末のベネズエラ大統領選挙では、現職のマドゥロ大統領が続投を決めた。熱狂的な信者に支えられたチャベス政権を引き継いだマドゥロ政権は場当たり的な経済政策を繰り返し、経済危機は深刻化しているにも関わらず、独裁的なマドゥロ氏は圧勝した。各国は選挙が公正に行われていないとして批判を強めている。昨年、ベネズエラでは制憲議会選挙が実施され、反大統領派の野党が多数を占める既存の議会が無力化されるなど、マドゥロ政権の横暴は目に余る。

ベネズエラではあらゆる物資が不足し、飢餓が広がっている。ハイパーインフレのなかで物価上昇率は測定不能となっており、1万%を突破したとの調査もある。主要国のインフレターゲットは2%程度である。外貨を獲得するための頼みの綱である 原油の生産量は減少に歯止めがかからず、マドゥロ政権が居座ることによって石油セクターは一段と疲弊する可能性が高い。

資金難による設備投資不足を背景に、原油生産量はピークの日量300万バレル近くからほぼ半減し、同150万バレル程度となっている。一時期は中堅的な産油国だったが、今は見る影もない。石油関連施設はメンテナンス不足によってさらに消耗するだろう。マドゥロ政権が交代するまでの時間が長ければ長いほど、将来的な原油生産量の回復は遅れると思われる。

●禁輸による原油価格上昇を回避した米国

ベネズエラ大統領選後、トランプ米大統領はベネズエラ政府の債券や政府系企業の株式について、米国企業、または米国人が取引することを禁じる大統領令に署名したが、ベネズエラ産原油の禁輸は見送った。米国はベネズエラ産の原油を日量50万バレル輸入している。禁輸となればマドゥロ政権は終焉を迎える可能性が高いものの、できることなら行使したくないというのが米国の本音だと思われる。米国の禁輸は原油価格を一時的に強く押し上げることから、できることなら回避するのが妥当である。

マドゥロ政権を倒壊させることに伴う原油高が、一時的だとしても米経済にショックを与えるのは割に合わない。足元の米国の石油需要は高値を嫌気して減速しており、原油価格の急騰は米国にとって負の影響が大きい。

●ベネズエラ問題は原油市場テーマの最前線から後退

トランプ米大統領が諸刃の剣を抜かなかったことで、ベネズエラ問題はいったん棚上げされそうだ。経済危機を背景としたベネズエラの減産は原油市場の動向を左右するテーマの最前線から退き、またスポットライトが当てられるまでテーマの陳列棚に戻されるだろう。ベネズエラの減産分は米国の増産で十分に補える。

ただ、食料も医療物資もエネルギーすら不足しているベネズエラで、マドゥロ政権が安泰であるはずがない。市民蜂起か、軍事クーデターか、ベネズエラの未来には混乱しか待ち受けていない。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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