悪化するベネズエラ情勢、原油市場“危険因子”の解決されざる混沌 <コモディティ特集>

特集
2018年10月10日 13時30分

―仮想通貨「ペトロ」による資金調達や中国融資も混迷に拍車―

米国の制裁によるイランの減産見通しが中心的なテーマとなって原油価格を押し上げているが、経済危機にあるベネズエラのことは忘れてはならない。石油輸出国機構(OPEC)加盟国であるベネズエラの原油生産量は8月に日量123万5000バレルまで減少した。1997年12月には日量345万3000バレルまで生産量が拡大したことからすると、3分の1程度に落ち込んでおり、さらに縮小する見通しである。2016年にかけての原油安のほか、マドゥロ大統領の失策などを背景にベネズエラ経済は行き詰まっている。ベネズエラ国営石油会社(PDVSA)の石油関連施設は老朽化が進んでおり、設備投資は期待できない。生産の回復は見通せない。

●難民は全人口の1割近く、200万人以上

ベネズエラでは極端に物資が不足している。食料品、医薬品など基本的な生活物資はほとんどなく、インフレ率は計測不能である。物価上昇率が20万%に達するとの見通しもあり、さらに経済危機が深まっていくだろう。生活に困窮した市民は近隣のベネズエラ、コロンビア、ペルーなどへ脱出している。難民は200万人以上とみられており、全人口の1割近くが国外へすでに流出した。

●仮想通貨や中国にすがるマドゥロ大統領

今年、ベネズエラの話題で注目を集めたのは 仮想通貨「ペトロ」だったかもしれない。ベネズエラ産の原油を裏付けとした新たな仮想通貨であり、無数の暗号資産のなかでは特徴的な存在である。マドゥロ大統領はペトロの発行で33億ドルを調達したと述べている。ただ、ロイター通信の調査によると、ペトロを裏付けるベネズエラ中部アタピリレ周辺の油田が開発されるような兆候はないという。ベネズエラにこの油田を開発する資金はなく、原油が地中に眠ったままならば、資産的な裏付けのない他の暗号資産と同じである。

先月、中国はベネズエラに対して50億ドルの融資枠を設定すると発表した。マドゥロ大統領の訪中が実を結んだ。現段階で現実的ではないものの、同大統領は中国への原油輸出を日量100万バレルへ増やすとしている。ベネズエラは国債の返済や利払いをすでに停止しており、財政破綻しているが、中国にとっては重要な原油の取引先の一つである。エネルギー資源が十分ではない中国は世界で最もベネズエラを支援している。

●無駄な延命に難民はさらに増加

マドゥロ大統領はすがれるものにすがって現政権の延命を図っている。亡命先がなければ、大統領の椅子を手放すわけにはいかない。通常の資金調達手段が不可能であることから、ベネズエラが仮想通貨に活路を見出したのは自然な流れだったといえる。

ただ、仮想通貨や中国がマドゥロ政権を無駄に延命させると、ベネズエラの経済危機が深まっていくだけであり、飢餓に苦しむ市民は増える。難民がさらに増加することは間違いないが、ベネズエラは裕福な国ではなく、資金的に脱出できない市民のほうが多いのではないか。食料もなく、脱出手段もない人々にとっては絶望しかない。

●マドゥロ政権は突如終わり、その時原油相場は荒れ狂う

爆発物を搭載したドローンによってマドゥロ大統領が暗殺されるのか、軍事クーデターが発生するのか、あるいは米国が中心となって軍事的な介入を行うのか、ベネズエラの将来は見通せない。ただ、マドゥロ政権の最後の瞬間は何の前触れもなく訪れると思われる。その時、原油相場は荒れ狂うに違いない。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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