S&P500 月例レポート ― 岐路に立つマーケット (1) ―

市況
2018年12月13日 11時53分

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

THE S&P 500 MARKET: 2018年11月

●短期と長期の2つの問題

道は間違いなく選ばれた、しかも両方向に(「選ばれざる道」を書いた詩人のロバート・フロストには申し訳ないが)。少なくとも推定では、今年の感謝祭の連休中に5,430万人の米国人(世界人口の0.7%に相当し、まさにキャラバンです)が自宅から50マイル(80.5キロメートル)以上離れた場所へ旅行したとみられ、それには原油価格が10月の高値から33.6%下落し、11月末時点の米エネルギー情報局(EIA)による全等級のガソリン価格の下落(前月比9.2%、前年同月比0.7%)したことが後押ししたと思われますが、出発が遅れた人は渋滞に巻き込まれた模様です。

連休中は市場も閑散としていましたが、休み前に売っておくことは忘れなかったようです。S&P 500指数は今年に入って2度目の調整局面に入り9月20日の高値(2,930.56)から10.17%安の水準(2,673.45)まで落ち込み、2月8日からの調整局面での10.16%安(2,581.00)を0.1%ポイント上回る下落幅となりました。

つい先日まで、誰もがボラティリティは低く株価は変動しないと言及し、オプショントレーダーやデイトレーダーは不満を漏らしていたのがまるでつい昨日のことのようですが、前日比で1%以上変動したのは今年に入って54営業日(全営業日の23.4%、上昇が30日、下落が24日)となり、11月中では上昇が5日、下落が3日ありました。ちなみに2017年は8営業日(同3.2%、4日、4日)でした。こうした乱高下に経験の浅い投資家は動揺しているようですが、10年前の楽しかった2008年は53%の営業日で1%以上変動しました(上昇59日、下落75日、1932年は66%)。

感謝祭の祝日から人々が戻ると市場も落ち着きを取り戻し、S&P 500指数は連休明け初日に1.55%上昇した後、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長の発言にも支えられ、市場は中立からほど遠いと判断されたのか、S&P 500指数はさらに2.30%上昇しました。これにより市場は調整局面から一息つき、最終的には緩やかな上昇で11月を終えました(翌12月1日には、トランプ大統領と習近平国家主席による夕食会という注目イベントも控えていました)。

変動の大きかった11月も結果的には1.79%上昇(10月は6.94%下落)となり、年初来リターンも3.24%のプラスを維持し(配当込みのトータルリターンでは5.11%)、投資家は12月に期待しているようです。12月はこれまでの実績で見る限り、73.3%の確率で上昇しています(平均上昇率は1.40%)。

市場のムードは、11月中に何度も大きく変化しました。月初は慎重ムードで始まりましたが、低成長が持続するとの期待もありやや上昇しました(2.12%上昇した日もありました)。その後は成長に対する懸念(バリュエーションの見直し)から下落に転じました。ボラティリティが上昇し、1%程度の変動が続く中で売り圧力が買いを上回り、買い手の力は抑制されて安全な逃避先はありませんでした。こうして市場が下落寄りに傾いた結果、直近高値から10%下落するという正真正銘の調整局面に入りました。

ところが、26日の最終週に入って投資家が市場に戻ると、押し目買いが週明けの市場を牽引して売り圧力が弱まりました。この上昇に市場が活気づき、さらにパウエル議長の「金利は中立をわずかに下回る水準にある」との発言が追い風となりました。市場は議長の発言を、2019年の利上げ回数が減ると解釈したようです。ただし、12月18-19日の連邦公開市場委員会(FOMC)会合での0.25%ポイントの利上げは完全に織り込み済みと思われます。そこから市場は一気に上り調子となり、2011年以降で最も高い週間上昇率を記録しました。最終的に月間上昇率と年初来上昇率もプラスとなり、懸念の多くは和らぎました。

この結果、市場のパフォーマンス(イベントやツイートに左右される)には2つの大きな問題が残りました。1つ目は短期的な問題で、年末商戦による個人消費(幸先は良いようですが、実店舗より利益率の低いオンラインの方が好調)に加えて、2019年業績に関し多くの企業が続々と公表するガイダンスやアナリスト予想(年末時点の投資判断、目標株価、利益予想)が相次ぐ中、低水準の成長見通しが続くのかどうかです。

2つ目は貿易と関税に関する問題で、こちらは長期的な影響が予想されます。特に貿易に関しては、20カ国・地域(G20)首脳会議期間中の11月30日に新たなUSMCA貿易協定に署名され、「NAFTAよ、さらば」となりましたが、これから各国議会の承認を受ける必要があります。これにはいつものことながら政治が絡む可能性があり、米議会の多数派が変わったため(下院)、承認に対して何らかの見返りが求められるかもしれません。

重要問題の中国に関しては依然として決着がついておらず、これは個人レベルでは計り知ることのできない問題であり、問いに対する答えと相応の情報源を常に持ち合わせている市場では、2019年上半期に何らかの合意がまとまるとみており、公の議論が市場に短期的な影響を及ぼすと予想されています。デイトレーダーならワクワクするかもしれませんが、予算計画を立てなければならない企業のCFOにとっては実に頭が痛いことでしょう。

●「嘘には3種類ある。普通の嘘、真っ赤な嘘、そして統計だ」(マーク・トウェイン)

★株式市場は10月の大幅下落に続いて11月も大半で下落しましたが、パウエルFRB議長が流れを引き戻し、月間では上昇で終わりました。他にも、世界経済の減速(一部の国では経済成長がマイナスとなっています)、米中貿易摩擦(中国市場は大幅に下落しました)、原材料コストおよび労働コストの上昇(多くの企業が警告を発しましたが、原油価格の下落でコストや消費者への圧力はやや緩和されました)、地政学的問題(特に移民問題や国家主義的政策)といった問題が先月から持続したことが市場の重石となりました。

○2018年11月30日現在:

・米国市場は11月に1.78%上昇(10月は7.50%下落)、年初来では2.71%上昇(同0.91%上昇)

・時価総額は11月に4,730億ドル増加(同2兆2,060億ドル減少)、年初来では4,180億ドル増加(同550億ドル減少)

・米国以外の市場は11月に0.92%上昇(同8.48%下落)、年初来では12.48%下落(同13.28%下落)

・時価総額は11月に2,080億ドル増加(同2兆2,820億ドル減少)、年初来では3兆2,280億ドル減少(同3兆4,360億ドル減少)

・S&P 500指数の出来高は、取引が活発だった10月と比べると12%減、消極的だった9月比では46%増、前年同月比では16%減となりましたが、過去1年間の月間平均出来高を6%上回りました。ボラティリティは10月より低下したとはいえ、依然として高い水準が続いており、21営業日中8日で1%以上の変動となりました(上昇5日、下落3日)。10月に1%以上変動した日数は23営業日中10日(同5日、5日)で、7~9月の3カ月間はゼロでした。

○11月のS&P 500指数は2,760.17で取引を終え、10月末の2,711.74から1.79%上昇しました(配当込みのトータルリターンはプラス2.04%)。10月は6.94%の下落でした(同マイナス6.84%)。11月26日には、終値で9月20日に付けた直近の高値(2,930.75)から10.17%安の水準(2,632.56)まで落ち込み、一時的に調整局面入りしましたが、月の最終週に回復しました(4.85%上昇)。

○97%の企業が第3四半期の決算発表を終えた時点で、77%の企業で利益が予想を上回り(過去平均は67%)、60%の企業で売上高が予想を上回り、そして利益、売上高ともに過去最高を更新しました。投資家の動きは引き続き今後の成長性をめぐる懸念に左右され、減税効果は既に織り込み済みで、内部成長に焦点が当てられました。

・市場は第3四半期の営業利益が、過去最高となった第2四半期から7.4%増加して過去最高を更新するとみています(前年同期比では32.5%増)。

・2018年通年の利益は前年比26.7%増となる見通しで(大半が減税効果による)、2019年は10.3%増が予想されます。

・これまでに決算発表を終えた488社のうち、営業利益が事前予想を上回った企業は376社、予想を下回ったのは74社、予想通りだったのは38社でした。売上高では486社中293社が事前予想を上回りました。

○FOMCは過去および今後の利上げについてトランプ大統領などから批判を受けていますが、2018年12月18-19日のFOMC会合で0.25%ポイントの利上げを実施する(合わせて2019年について議論する)というのが大方の見方です。

○ほとんどの企業が第3四半期の自社株買いの結果の公表を終え、現時点で自社株買いの総額は前期比9.6%増の1,998億ドルと、過去最高を更新しました(前年同期比では55.9%増)。

○S&P 500指数構成企業の11月の配当総額は573億ドル、1株当たり配当は6.78ドルで過去最高となりました。配当総額は2018年1-11月累計で既に過去最高だった2017年通年の実績を上回っており、年間で過去最高を更新することは確実となりました。

過去の実績を見ると、11月は60.0%の確率で上昇しており、上昇した月の平均上昇率は3.93%、下落した月の平均下落率は4.25%、全体の平均騰落率は0.70%の上昇となっています。12月は73.3%の確率で上昇しており、上昇した月の平均上昇率は2.94%、下落した月の平均下落率は2.82%、全体の平均騰落率は1.40%の上昇となっています。

今後のFOMCのスケジュールは、年内は12月18日-19日、2019年は1月29日-30日、3月19日-20日、4月30日-5月1日、6月18日-19日、7月30日-31日、9月17日-18日、10月29日-30日、12月10日-11日、2020年は1月28日-29日となっています。

「岐路に立つマーケット (2) 」へ続く

株探ニュース

人気ニュースアクセスランキング 直近8時間

特集記事

株探からのお知らせ

過去のお知らせを見る
米国株へ
株探プレミアムとは
PC版を表示
【当サイトで提供する情報について】
当サイト「株探(かぶたん)」で提供する情報は投資勧誘または投資に関する助言をすることを目的としておりません。
投資の決定は、ご自身の判断でなされますようお願いいたします。
当サイトにおけるデータは、東京証券取引所、大阪取引所、名古屋証券取引所、JPX総研、ジャパンネクスト証券、China Investment Information Services、CME Group Inc. 等からの情報の提供を受けております。
日経平均株価の著作権は日本経済新聞社に帰属します。
株探に掲載される株価チャートは、その銘柄の過去の株価推移を確認する用途で掲載しているものであり、その銘柄の将来の価値の動向を示唆あるいは保証するものではなく、また、売買を推奨するものではありません。
決算を扱う記事における「サプライズ決算」とは、決算情報として注目に値するかという観点から、発表された決算のサプライズ度(当該会社の本決算か各四半期であるか、業績予想の修正か配当予想の修正であるか、及びそこで発表された決算結果ならびに当該会社が過去に公表した業績予想・配当予想との比較及び過去の決算との比較を数値化し判定)が高い銘柄であり、また「サプライズ順」はサプライズ度に基づいた順番で決算情報を掲載しているものであり、記事に掲載されている各銘柄の将来の価値の動向を示唆あるいは保証するものではなく、また、売買を推奨するものではありません。
(C) MINKABU THE INFONOID, Inc.