石油需要は鈍化へ、米雇用環境に逆風の兆し <コモディティ特集>

特集
2019年9月4日 13時30分

米国の夏の需要期が終わった。例年、9月2日のレイバーデーまでがガソリン消費が盛んな時期である。高校、大学などの新学期が始まるとともに、米国のいわゆるドライブシーズンは終了する。比較的安価な移動手段である自動車をお金のない学生たちが夏休みに乗り回すことから、ドライブシーズンの主役は学生たちであるといえる。

米エネルギー情報局(EIA)の週報によると、前年比の伸びは物足らないが8月末にかけて米国の石油製品需要は拡大した。このうちガソリン消費は約半分を占め、エネルギー消費全体を押し上げた。収入の乏しい学生たちが米国の堅調なドライブシーズンを演出したようで、親からの仕送りは世界経済の減速によって落ち込んではいないようだ。伸びが加速していないにせよ、米国の平均賃金の上昇率はそれなりの水準を維持しており、学生の収入に逆風は強まっていない。

●米中貿易戦争開始から1年経過も雇用に陰りはみられず

米国が中国からの輸入品に追加関税を課し、米中貿易戦争が始まってから1年以上が経過したものの、米国の雇用環境は相変わらず強い。製造業を中心に企業景況感は下向きであり、採用に慎重な雰囲気が広がりつつあると思われるが、米非農業部門雇用者数(NFP)の拡大トレンドに変化はみられない。今年2月や5月、NFPの伸びが急速に鈍化したとはいえ、米中貿易戦争の激化や世界経済の減速のなかでも米国の雇用は安定感を維持している。

米国では高卒労働者の就業者数が上向きトレンドを維持している。2007年から顕在化した世界金融危機の後、低学歴の労働者のうち、高卒未満の就業者数は落ち込んだまま回復しておらず、高卒労働者だけが景気拡大の恩恵を受けている理由は判然としないが、雇用環境を眺めるうえで、高卒労働者の拡大は明らかに前向きな現象である。フルタイム雇用を探しつつパートタイム労働に従事する労働者などを含めた広義のU6失業率は7.0%と18年ぶりの低水準で推移しているほか、米雇用動態調査(JOLTS)で求人件数は統計開始以来の過去最高水準を維持するなど、陰りはほとんどみられない。

●企業景況感は悪化の一途、先行きは悲観せざるを得ない

ただ、繰り返しとなるが、企業景況感は悪化し続けている。ニューヨーク連銀やフィラデルフィア連銀が公表する製造業企業景況感指数の内訳の雇用指数は今年半ばから鮮明に悪化した。米ISM製造業景気指数の雇用指数も低下しており、人員の採用に逆風が吹くのは時間の問題だろう。米ISM非製造業景気指数の雇用指数は目立って低下していないが、絶好調だった昨年と比較すると水準の変化は明らかである。

世界経済をけん引する米経済の先行きを悲観せざるを得ない。米中通商協議が急転直下で最終合意に至るようなことがなければ、企業は設備投資を縮小させ、人的投資をためらうことになるだろう。来年、米国の学生たちが自由気ままに自動車を乗り回し、ガソリンを浪費する夏は巡ってこないのではないか。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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