「クラウドゲーム関連」大相場が始まる、20兆円市場“争奪戦”の行方 <株探トップ特集>
―グーグル「スタディア」が22タイトルでサービス開始、新たなスター銘柄登場へ―
本格的な「クラウドゲーム時代」の幕が切って落とされた。大きな関心を集めてきた米アルファベット傘下のグーグルによる クラウドゲーム「スタディア」のサービスが19日、ついに始まった。5G(第5世代通信)の本格サービスが始まろうとするなか、高速大容量で低遅延サービスがクラウドゲームの普及にとっては追い風だ。オランダの調査会社のニューズーによると、世界のゲーム市場は2022年に1960億ドル(約21兆3640億円)と18年比で4割増となる。牽引役の一つが、このクラウドゲームだ。「10年後のゲーム市場で残るのはクラウドゲームだけ」と断言する市場関係者もいる。チャンスと危機が共存するゲーム業界において“20兆円市場争奪戦”は既に始まっている。
●19日にグーグルの「スタディア」が14ヵ国でサービス開始
クラウドサービスを通じて、専用機がなくても楽しめるクラウドゲームは、今後のゲーム産業の主流となる可能性がある。こうしたなか世界規模のネットワークインフラを持つIT(情報技術)大手によるゲーム市場を巡る攻防は激しさを増している。米グーグルはクラウドゲームプラットフォーム「スタディア」の有料プラン「スタディア プロ」のゲームストリーミングサービスを19日から日本を除く14ヵ国で、22タイトルのゲームをローンチした。クロスプレイやゲーム実況との連携機能がまだ実装されていないという課題が残るものの、「激しい格闘ゲームでも問題ない」、「専用コントローラーは素晴らしく動きがなめらか」、「デバイスが熱くならない」などと各海外メディアの先行レビューの評判は上々だ。これを受けて、きょうの東京株式市場において、バンダイナムコホールディングス <7832> やスクウェア・エニックス・ホールディングス <9684> 、カプコン <9697> などのゲーム関連株が軒並み堅調な値動きとなった。
ゲーム専用機を不要にしたことで、業界内では「ゲーム機器メーカーにとっては完全な逆風」と警戒する声も聞こえてくる。こうしたなか、長年のライバルである「プレイステーション」を展開するソニー <6758> と「Xbox」を持つ米マイクロソフトも戦略的提携を行い、マイクロソフトのクラウドを利用しゲームやコンテンツを配信する。両社は家庭用ゲーム機の次世代機を20年の年末商戦にそれぞれ投入する。これはグーグルなどの動きを意識したものとみられる。ソニーは14年からゲーム配信サービスを始めているが、クラウドゲームが今後急成長するとの見方があるなか、この提携を通じて需要拡大に対応するための体制強化を進める。マイクロソフトもクラウド上でゲームを開発するソフト会社を囲い込むことで、競争が激化するクラウドゲームでの陣営作りにつなげる。
このほか、米フェイスブックや中国版のGAFAと呼ばれるBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)による、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)及び5G向け各種ゲームへの投資も加速している。
●スタディアに多くの日本製ゲーム採用、ゲームメーカーの高収益ビジネスに
IT大手の相次ぐ参入は、スマホなどの高性能端末が幅広く浸透し、背後で動くクラウドビジネスが大きく発展したことが背景にある。スタディアは既に30以上のゲームタイトルの配信が決定している。そのうち、スタート当初の22タイトル中で日本企業が提供しているものには、スクエニHDの「ファイナルファンタジー XV」、「シャドウ オブ ザ トゥームレイダー ディフィニティブエディション」、「ライズ オブ ザ トゥームレイダー」、「トゥームレイダー ディフィニティブエディション」の4本、コーエーテクモホールディングス <3635> の「進撃の巨人2 -Final Battle-」、セガサミーホールディングス <6460> の「フットボールマネージャー 2020」、SNK(大阪府)の「サムライ ショーダウン」がある。日本勢の活躍が目立っている。更に、バンナムHDの「ドラゴンボール ゼノバース2」も年内の配信予定となっている。
これまでゲーム業界の成長を牽引してきたモバイルゲームにおいて、アプリの収益は3:7でプラットフォーム提供者と開発者側で分配される。ただ、開発者にとってアップデートごとの開発費はともかく、ゲームの再配信や宣伝広告などの費用負担も重い。しかしクラウドゲームでは、これまでのような高度な処理能力と容量を備えた専用ハードウェアが不要なため、開発はアップデートなどがすべてサーバー上で完結し、ひとたびヒット作を作ってしまえば数年単位で収入を得ることが可能となるのだ。
「ファミ通ゲーム白書2019」によると、18年の世界のゲームコンテンツ市場は、ゲーム市場の拡大に伴い前年比2割増の13兆1774億円と高い成長を示している。世界ゲーム市場規模における順位こそ3位にとどまる日本だが、ゲーム開発に強みがあり、コンテンツの宝庫といえる。国内のソフト会社はこれまでソニーや任天堂 <7974> など家庭用ゲーム機メーカーにソフトを供給するだけでよかったが、通信の技術革新などでゲーム業界の勢力図が変わろうとするなか、多くの日本のゲームソフト会社がクラウドゲームや対戦競技「eスポーツ」、ARにも対応する環境づくりをするなど、新たな成長を模索している。
●エクストリームやガーラはクラウド関連分野で成長性秘める
ゲームコンテンツにおいて、強いのはやはりスクエニHDだ。今回のスタディアのスタートに際して採用されたタイトルのうち、同社は「ファイナルファンタジー」など4本を供給、ひと際その存在が目立つ。同社は海外で開発スタジオを擁する「クリスタル・ダイナミックス」を傘下に収めるなど欧米と日本ゲームの融合を目指しており、加えてARとVRなど新しい配信先の基盤構築に積極的に取り組んでいる。
また、今後の展開に視野を向ければ、クラウド関連事業に基盤を持つゲーム会社は高い潜在的成長性を秘めているといえる。例えば、スマートフォンゲームの開発にクラウドサーバー、技術者派遣を手掛けるエクストリーム <6033> [東証M]が14日発表した19年4-9月期決算は、営業利益が前年同期比6.7倍の7億7500万円と急拡大。技術者派遣、受託開発とも好調で収益を押し上げており、通期営業利益に対する進捗率が74%となっている。クラウドを中心としたサーバープログラムの開発・設計を行っているが、これまで決して知名度が高いとはいえなかったゲーム「ラングリッサーモバイル」が、配信後1週間でのダウンロード数150万超えとなるなどゲーム開発業界において存在感を高めている。
ガーラ <4777> [JQ]は韓国最大規模のデジタルIT企業Megazoneの子会社とアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)導入支援事業の日本展開についての業務提携に加え、アエリア <3758> [JQ]とVR事業で提携するなど話題が豊富だ。19年3月期の売上高は前の期比4.8%増の8億5400万円、営業損益は2億5000万円の赤字と前の期から赤字幅が縮小している。
●eスポーツ関連ではカプコンやネクソンなどに高実績
海外では賞金が数十億円にも及ぶ大会があるなどeスポーツ市場は急速に拡大している。そこで圧倒的な人気を誇るのは海外のシューティングゲーム「フォートナイト」などだ。日本勢もこうした新たな波に乗り遅れないように躍起だ。「ストリートファイター」や「モンスターハンター」など人気IP(知的財産)を持つカプコンはNTTドコモ <9437> と東京ゲームショウ(9月12~15日)で、5GとARを使ったゲームの観戦体験のデモンストレーションを実施した。
コナミホールディングス <9766> も9月、eスポーツの拠点となる複合施設「コナミクリエイティブセンター銀座」の詳細を明らかにした。eスポーツの大会開催やライブ配信ができるスタジオ、ゲーム専用パソコンを販売する店舗を組み合わせる。プロ選手や大会運営者なども育成する計画で、80人ほどの生徒の募集を始めた。
日本のオンラインゲーム市場における老舗、ネクソン <3659> は韓国・ソウルで同国最大級のeスポーツ専用施設「ネクソンアリーナ」を運営している。今期モバイルゲームのラインアップ増加に伴いクラウドサービスの先行投資が重く、第2四半期まで減益決算により、株価の調整を入れているが、足もと業績のモメンタムが改善している。
●エイベックスやGameWithにも注目
更に、現在はゲーム専用機の路線を堅持している任天堂の動向にも関心が高まる。クラウドゲームが本格的に台頭すれば「マリオ」などの自社コンテンツを強い武器として、コンテンツの供給という可能性がある。17年3月に発売した「ニンテンドースイッチ」は今期が実質3年目で、成長鈍化も懸念されるが、既に9月、米国の年末商戦を意識して全世界で「ニンテンドースイッチライト」を発売しており、中国ではテンセントと手を組んでいる。スマホ向けの取り組みが迫られるなか、当面は好調な専用機に頼るしかないが、「ネットとハードの共存」という新しい形を図る方針だ。
エイベックス <7860> の子会社、エイベックス・テクノロジーズが、ゲームエンジンの開発、クラウドゲームの企画開発事業を展開するfuzzを傘下に収めることでクラウドゲームの開発など、アーティストのライブにおける視聴者とのインタラクティブなコンテンツを開発し新しいマーケット創出の促進を目指している。
GameWith <6552> はゲームの紹介や攻略記事サイト「GameWith(ゲームウィズ)」を運営している。同社は世界のゲームインフラになることを目標に、海外展開はもちろん、ゲーム開発者も交えたeスポーツなどの新領域への進出に積極的であり、今後も市場拡大の恩恵を享受するゲーム業界において成長が期待される。
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