武者陵司「令和の大相場始動シリーズ(4) 「2020年、積極的に株式に向きあう年に」<前編>

市況
2019年12月24日 10時30分

この夏悲観の中で生まれた相場が、懐疑の壁をよじ登っている。この悲観・懐疑の強さこそ、大相場の最も重要な条件である。武者リサーチは、2020年日経平均3万円をめざす大相場が始まった可能性が強いと考える。

(1)不確実性は概ね霧消、世界景気にポジティブサプライズも

●大半の暗雲は消えた

2019年初頭と1年後の現在との決定的差異は、不確実性の霧が消えたことである。米中貿易戦争は12月15日の追加関税直前に、一次合意が成立し休戦で決着した。米英を除くすべての先進国長期金利がマイナスになるという金融異常事態も、FRBの3度の利下げと世界景況感の好転で安定化した。Brexit(ブレグジット)は英国総選挙における保守党大勝により、選択肢は大きく狭まり見通し難はなくなった。ハイテク5G関連投資も現実に動き出し潜在的インパクトの大きさが見えてきた。世界景気の拡大終焉説の非現実性も今やコンセンサスになっている。

●最大懸念、米大統領選挙はトランプ勝利の公算大

最大の不確実性は政治、米国大統領選の帰趨だが、トランプ氏再選の可能性が大きいのではないか。戦後現役大統領が選挙に敗れたのは任期中に米国経済がリセッションに陥ったJ・カーターとG・ブッシュ(父)だけである。リセッションが考えにくいこと、共和党内での圧倒的支持に加えて対抗する民主党の選挙政策が大きくスウィングし安定性がないこと、などを考えると、トランプ再選の可能性はかなり高いのではないか。少なくとも年前半は視界良好という珍しい年である。

霧が晴れた市場で何が起きるか、カギを握るのは巨額の投資資金の行方であろう。年前半は絶好のリスクテイク環境、人々の想定を超える世界株高の公算が大きいと考えられる。

(2)長期好況終焉説の誤り、ミニサイクルの回復局面

現在が米国の長期好況の終わりなのか、それともミニリセッションの底入れ局面なのかが、ここ一年間の経済論争の焦点であった。多数派の意見は2009年以来10年にわたって続いた史上最長の景気拡大の終焉が間近い、というものであったが、その可能性は当面なくなり、2020年中も景気拡大が続くとする見方が大勢となっている。オランダやオーストラリアでは20年を超える景気拡大が続いた例があり、景気拡大に寿命があるわけではない。

ただ、長期景気拡大の中にもミニサイクルがあり、市場はその影響を受けている。最近では2015年春ピーク、2016年央ボトム、2018年春ピーク、2019年秋ボトムとなっている。2018年半ばからのミニ後退は、スマホや自動車の買い替えサイクルでピーク感が強まっている時に、米中貿易戦争が勃発し、不透明感から多くの投資案件が棚上げされたことによって起こった。しかし今、買い替えサイクル一巡とともに、米中貿易戦争の不透明感も解消されつつある。ミニサイクルは2019年で底入れし2020年にかけて反転する可能性が強いのではないか。

●中国需要は安定化へ

この3~4年の景気ミニサイクルは、貿易と投資によって変動しており、いずれも製造業の景気循環といえる。米国の場合、製造業の国民所得に占める割合は11%と中国29%、ドイツ22%、日本21%に比して著しく小さく、循環の波を小さくしている。製造業分野では、自動車もスマホも鉄、セメントも今や中国が世界最大の市場であり、世界の製造業景気循環は米国以上に中国が波を造っている。2018年以降の世界経済ミニ循環の落ち込みは、中国内需の悪化によって引き起こされた面が大きく、今はその底入れ反転の局面にある。

落ち込みの主因である自動車需要が底入れし、内需を抑制してきた体質改善のための金融引き締め、インフラ投資抑制策も大きく転換されている。金融緩和により不動産価格は上昇し、不動産投資も押し上げられていくだろう。加えて2018年春以降の落ち込みをけん引した貿易戦争による不確実性が、消えた。棚上げされていた投資は復活し、第三国(例えば台湾)では新規投資が起きる。

●5G関連、半導体投資飛躍の兆し

さらに 5Gなど新技術投資が始まり、最先端半導体などで競争先行のための投資が活発化し始めている。中国は5G投資実績で他を引き離す構えで、中国国内での5Gハイテク投資が急増、他国もそれに引きずられて投資競争が始まりつつある。例えばTSMC(台湾積体電路製造)の半導体製造装置発注額は7~9月は77億ドルと過去の10~20億ドルベースを大きく上回った。2019年まで休止していたデータセンター投資も5Gをにらんで活発化する様相である。

2018年以降の米中摩擦激化による中国半導体投資の一時休止が、半導体の需給の想定外の改善を引き起こす可能性があるのではないか。最も製造業景気変動に敏感な米国半導体株が最高値を更新している。

米国では技術革新・産業革命の寄与により史上最長の景気拡大が続いている。新技術の下で企業の生産性が高まり業績が好調、また人々のライフスタイルが、例えば“所有からシェアへ”などと大きく変化し、新しいサービス事業分野が生まれている。雇用は全分野で拡大しているが、教育医療、娯楽観光、専門サービスなどが特に好調である。こうした技術革新によるサービス業の景気は大きく波打つことなく着実に拡大している。

さらにFRBの3回、0.75%の利下げでイールドカーブが正常化し、金融面での逆風は消えている。金融緩和政策は世界各国で展開されており、その効果が顕在化することも見込まれる。2020年前半はリスクテイクが大きく活発化していくだろう。

日本経済も、(1)消費税増税以上の景気対策、真水で13兆円の寄与は大きい、(2)グローバル製造業、特にハイテク需要浮揚の恩恵、(3)着実に進む資産インフレ、日銀の辛抱強い金融緩和の成果が期待できる。

※<後編>へ続く

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