文在寅という不可思議(ロー・ダニエル)

経済
2020年6月4日 11時52分

去る5月10日、文在寅大統領は就任3周年を迎えた。彼にはあと2年の任期が残っている。就任3周年直前の5月8日、文大統領の支持率は71%を記録した。いわゆるレームダックに入る任期後半期としては、とてつもない支持率だ。歴代大統領の就任3年時点での職務遂行肯定率は、文在寅が尊敬する金大中の27%、盧武鉉の27%を44%上回るものだった。

この不可思議を説明できる語彙をひとつ挙げるとするなら、私は「寄生虫」をあげる。日本でも上映された映画「寄生虫」の核心メッセージは、韓国での貧困と疎外は自分の失敗に起因するものではなく、他人の不当な成功に起因するということだ。この映画の監督が招待されて大統領夫妻と食事をしたのは偶然ではない。この現象を学者の経済用語で説明するのは難しい。現在、韓国で緩やかに進んでいる革命の要諦は、社会正義を具現しなければならないという情熱であり、学門的論理ではない。

経済民主主義という言葉に代表される文在寅の国政理念の核心は、親労働主義、企業の規律、対米依存からの脱皮、そして韓半島の経済統合である。そして、全国の企業事業所が民主労総と韓国労総の二大労総に掌握され、労総は大統領が主管する「労働者・使用者・政府代表会議」に参加して政府政策を主導する。企業は週52時間労働時間規制にかかって海外企業との競争に負けるし、世界最高の水準を誇った韓国の原子力企業は解体されつつある。

左派理念を持つ教授出身や光州抗争を率いた世代が大統領の周辺で北欧式福祉国家を推進している。その中で不動産投機を防ぐという名目で社会主義国家のように「土地公概念」の導入を図っている。こういう流れで「漢江の奇跡」を導いた企業、特に「財閥」と呼ばれる大企業は企業経営や投資計画より大統領や検察など公権力との関係に最も気を使っている。

最近は、大統領の韓国版ニューディールに協力すべく、一緒に仕事した経験のない三星電子と現代自動車が「未来電気自動車」での協業を発表した。その裏には、差し迫っている李在鎔の裁判という背景がある。企業の生存と繁栄の要諦は効率性だ。だが、昨今の韓国企業を規律する原理は公正性と正義である。

ロー・ダニエル

1954年韓国ソウル市生。政治経済学者、アジア歴史研究者、作家。米国マサチューセッツ工科大学で比較政治経済論を専攻して博士号を取得。1994年に香港科学技術大学で助教授として教鞭をとった経験のほか、中国人民銀行研究生部や上海同済大学にて客員教授を歴任。日本では、一橋大学をはじめ、科学技術政策研究所、国際日本文化研究センターなど数々の研究機関をわたって研究を重ねてきた経験をもつ。 学界以外では、Towers Perrin社(米国)、未来工学研究所(日本)などで投資戦略分野におけるコンサルタントとして勤務。これらの経験を活かすかたちで、北東アジアの政治経済リスクを評価する会社、Asia Risk Monitor, Inc.を2016年にソウルで設立し、経営を担う。 日本での著作として『竹島密約』(草思社、2008年。第21回「アジア・太平洋賞」大賞受賞)、『「地政心理」で語る半島と列島』(藤原書店、2017年)。韓国語の著書に『安倍晋三の日本』(セチャン出版、2014年)ほか多数。

日本の様々な分野での意思決定者が朝鮮半島での出来事、そして朝鮮半島に影響を及ぼすアメリカ、中国、ロシアなどの動きを把握するための「Daniel Report」サイトを運営して広く情報発信をしつつ、レポートをフィスコより発売中。

《SI》

提供:フィスコ

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