国策テーマ「少子化対策」に再脚光、出生数“86万ショック”で政府に危機感 <株探トップ特集>

特集
2020年10月1日 19時30分

―止まらぬ少子化、課題克服へ菅首相意欲―

厚生労働省が9月17日に発表した人口動態統計(確定数)によると、2019年の出生数は86万5239人と前年から5万3161人減少した。1人の女性が生涯に産む子どもの数にあたる合計特殊出生率は1.36と前年の1.42から低下し、安倍前政権が掲げた希望出生率1.8という目標実現は難しい情勢だ。政府が7月に閣議決定した20年版少子化社会対策白書では「86万ショックとも呼ぶべき状況」と警鐘を鳴らしており、少子化対策は待ったなしの政策課題。菅首相が就任後の会見で、注力するテーマのひとつとして挙げていることから関連銘柄に再び注目してみたい。

●菅首相「待機児童問題に終止符を打つ」

厚労省は9月4日、希望しても保育所などに入れない待機児童 が20年4月1日時点で1万2439人だったと発表した。各自治体が受け皿となる施設の整備を進めたことで前年からは4333人の減少となったが、一方で保育の申込者数は5万8319人増の284万2208人に拡大。19年10月から幼児教育・保育の無償化が始まったことで、今後も利用希望者が増えるとみられ、厚労省は21年の見込み数を290万6363人としている。安倍前政権が目標としていた「20年度末に待機児童ゼロ」の達成は厳しく、新政権に引き継がれる重い課題。菅首相は「保育サービスを拡充し、この問題に終止符を打ちたい」と言明しており、保育園などを運営する企業のビジネス機会が拡大しそうだ。

JPホールディングス <2749> は20年6月末時点で、303施設(保育所213、学童クラブ77、児童館11、民間学童クラブ1、幼稚園1)を運営している。同社は既存施設への受け入れ児童数と人員配置を適正化することで、収益性の向上と運営効率の改善を図るとともに、システム導入や業務の見直しによる運営・間接コストの軽減に向けた取り組みを推進。また、子育て支援サービスの更なる質向上を目的に、人材育成なども強化している。

グローバルキッズCOMPANY <6189> は首都圏を中心に新規施設の開発を進めており、20年9月期第3四半期累計期間(19年10月~20年6月)には認可保育所7施設、児童発達支援事業所3施設を開設した。この結果、6月末時点では176施設(認可保育所125、認証保育所・認定こども園などの保育施設23、企業主導型保育所11、学童クラブ・児童館13、児童発達支援事業所4)を展開しており、今期末の在籍園児数は8900人に達する見通しだ。

テノ.ホールディングス <7037> [東証M]は6月末時点で283施設(認可保育所37、小規模認可保育所14、東京都認証保育所1、受託保育所144、学童保育所51、わいわい広場31、認可外保育所4、事業所内保育1)を手掛けている。同社はベビーシッターサービスや産褥(さんじょく)ケアサービス、家事サービスなどを合わせて提供することで、女性の社会進出に伴うさまざまなニーズに応えている。

このほかにも、ライク <2462> 子会社のライクキッズが4月末時点で372施設(受託保育145、認可保育園など147、学童クラブなど80)、global bridge HOLDINGS <6557> [東証M]が6月末時点で72施設(認可保育園64、小規模保育施設8)、Kids Smile Holdings <7084> [東証M]が7月1日時点で61施設(認可保育所56、プレスクール一体型保育所4、幼児教室1)を運営している。

●不妊治療の保険適用実現へ

田村厚労相は17日の会見で、菅首相から不妊治療 の保険適用を早急に実現するよう検討を求められたほか、「保険適用が実現するまでの間、助成制度を大幅に増額してほしい」との指示を受けたことを明らかにした。これは5月に閣議決定された第4次の少子化社会対策大綱に沿ったもので、このなかで経済的負担の軽減などが示されている。不妊治療のなかでも治療費が高額な体外受精と顕微授精については、治療開始時の妻の年齢が43歳未満で合計所得730万円までの夫婦を対象に1回15万円(初回は30万円)までの助成があるが、田村厚労相は「所得制限の緩和を含め幅広く検討する」としている。

こうしたことから株式市場では関連銘柄への関心が高まっており、産婦人科領域の医薬品で強みを持つあすか製薬 <4514> や富士製薬工業 <4554> のほか、子会社が不妊治療薬の原薬を製造している綿半ホールディングス <3199> 、不妊治療薬の開発を進めているJCRファーマ <4552> 、難治性不妊PRP(多血小板血漿)療法に取り組むナノキャリア <4571> [東証M]、不妊治療に用いられるPFC-FD(血液からPRPを作製し、フリーズドライ加工したもの)の加工を医療機関から受託する事業を手掛けるセルソース <4880> [東証M]などは要マーク。

また、妊娠検査薬や排卵日検査薬などを取り扱うミズホメディー <4595> [東証2]、妊活をサポートするサプリメントを手掛けるメニコン <7780>人工知能(AI)を用いた不妊治療支援用スマートフォンアプリの開発に乗り出しているエムティーアイ <9438> にも注目したい。

●結婚新生活支援事業の拡充観測が浮上

9月下旬に、ブライダル サービスを手掛けるワタベウェディング <4696> がストップ高まで買われる場面があった。きっかけは各メディアが、政府が少子化対策の一環として新婚世帯の家賃や敷金・礼金、引っ越し代など新生活にかかる費用に関して来年度から60万円を上限に補助する方針を固めたと報じたこと。これは一部の市区町村で実施されている「結婚新生活支援事業」と呼ばれるもので、現在は一定の条件(夫婦ともに婚姻日における年齢が34歳以下で、合計所得340万円未満)のもと最大30万円が補助される仕組みとなっているが、これを増額することで経済的な理由で結婚を諦めることがないよう後押しする狙いがあるもよう。

関連銘柄としては、ブライダル事業の企画運営を行うエスクリ <2196> 、結婚式場を運営するアイ・ケイ・ケイ <2198> 、ゲストハウスウェディングが主力のツカダ・グローバルホールディング <2418> 、ハウスウェディング事業を展開するブラス <2424> 、婚礼衣装メーカーのクラウディアホールディングス <3607> 、街コンに特化した情報サイトを運営するリンクバル <6046> [東証M]、婚活サイトなど各種サービスを提供するIBJ <6071> などが挙げられる。

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