S&P500 月例レポート ― 追加対策合意は遠のくも、続く回復への楽観 (1) ―

市況
2020年11月12日 10時00分

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

●THE S&P 500 MARKET:2020年10月

個人的見解:最初にお菓子、それからいたずら

10月は不思議の国の物語が続きました。9月の下落(マイナス3.92%)から反転上昇してリターンは3.04%に達し、11セクターすべてが上昇と、3月23日の安値からの回復軌道に戻っていました ―― それがハロウィンの週に入ると、もらったはずのお菓子は消え、市場はいたずらをされてしまいました。下落の第一の原因(やり玉)に上がったのは、景気対策第4弾という名のキャンディが「突然」取り上げられたことです。議会では、追加の景気刺激策に合意しないまま、議員が選挙遊説のためにワシントンを離れてしまいました。大統領選を前に両党が対立し法案が成立しなかったと非難する声もありましたが、市場が“今すぐに”キャンディを貰えると信じ切ったこと(妄信?)に問題があるというのが、筆者を含めた大方の見解です。

下落のきっかけに関しては、シェークスピアの「どっちもどっち」という言葉が的を得ていると思いますが、ウォール街が政局の不透明感に支配される中、急速な相場転換が全体的な下落につながり(1週間で5.64%下落)、10月のリターンは2.77%の下落となりました。決算発表を終えた企業の85.2%が予想(29.9%の下方修正後)を上回る中、個別銘柄は依然として決算発表の結果を基に取引されていましたが、それでも市場全体に安心感を与えることはできませんでした。恐らく、そのうちの1社か2社でもフォワードガイダンスを示していたなら…とは言うものの、分かっているなら発表したでしょうが。

一方、米国では新型コロナウイルスの感染拡大が続き、7日移動平均ベースでみた1日当たりの新規感染者数は過去最多を更新しました。さらに悪いことに、欧州では経済活動が再停止し、外出禁止や全国的なロックダウンが実施され、これが感謝祭を前に海を越え(かつての植民地へ)広がるとの観測もみられました。この段階で、アジアだけはウイルスをある程度コントロールできているようでしたが(実際、ニュージーランドは封じ込めに成功したとして注目されているようです)、それさえ懸念されていました。

2ヵ月連続での下落となった10月ですが、結局のところ年初来では1.12%の上昇と(コロナ前の2月19日の高値からは3.43%下落、9月2日の終値での高値からでは8.68%下落)、経済情勢を踏まえると、依然として良好であり、回復への楽観論を示していました。

11月に関しては、筆者を始め話を聞いた市場参加者のほぼ全員が恐らく、大統領選が終わり結果が判明する中、市場は大幅に変動するとの見方に票を投じます。ウォール街はこうしていずれ不透明感が薄れ、先行きが明らかになり(良い方向でも悪い方向でも、あるいはその両方であろうと)、人々や企業経営者は何とかそれに合わせて前進して行くことを期待しています。

S&P 500指数は3269.96で月を終え、2.77%下落しました(配当込みのトータルリターンはマイナス2.66%)。9月は3363.00で月を終え、3.93%の下落でした(同マイナス3.80%)。過去3ヵ月間では0.04%下落(同プラス0.37%)、年初来では1.21%上昇(同プラス2.77%)、過去1年間では7.65%上昇(同プラス9.71%)となりました。ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は9月末の2万7781.70ドルから4.61%下落して2万6501.60ドルで月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス4.52%)。10月は2.28%の下落(同マイナス2.18%)でした。過去3ヵ月間では0.04%下落(同プラス0.80%)、年初来では7.14%下落(同マイナス5.38%)、過去1年間では2.01%下落(同プラス0.34%)となりました。

過去の実績を見ると、10月は57.6%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.13%、下落した月の平均下落率は4.72%、全体の平均騰落率は0.43%の上昇となっています。2020年10月は2.77%の下落となりました。

11月は60.9%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.88%、下落した月の平均下落率は4.25%、全体の平均騰落率は0.74%の上昇となっています。

今後の米連邦公開市場委員会(FOMC)のスケジュールは、11月4日-5日(米大統領選は11月3日)、12月15日-16日、2021年1月26日-27日、3月16日-17日、4月27日-28日、6月15日-16日、7月27日-28日、9月21日-22日、11月2日-3日、12月14日-15日、2022年1月25日-26日となっています。

●主なポイント

○S&P500指数は10月に一時3.04%高まで上昇して9月の下落分(3.92%下落)の大半を取り戻しましたが、最終週だけで5.64%下落し、最終的に2.77%下落して月の取引を終えました。同指数は8月まで5ヵ月連続で上昇していました。議会は追加の景気刺激策について合意に至らないまま休会となり(選挙後には何らかの合意がまとまり、来年には追加合意が依然として予想されています)、新型コロナウイルスの新規感染者数は過去最多を更新しています。

⇒S&P 500指数は10月に2.77%下落しました(配当込みのトータルリターンはマイナス2.66%)。過去3ヵ月間では0.04%下落(同プラス0.37%)、年初来では1.21%上昇(同プラス2.77%)、過去1年間では7.65%上昇(同プラス9.71%)となりました。

⇒2016年11月8日の米大統領選以降の同指数の上昇率は52.83%(同プラス65.25%)、年率換算では11.26%(同プラス13.47%)となりました。

⇒強気相場入りして以降、2020年3月23日の底値から46.15%上昇しており、9月2日の終値での最高値からは8.68%安の水準で月末を迎えました。

○米国10年国債利回りは9月末の0.68%から0.88%に上昇して月を終えました(2019年末は1.92%、2018年末は2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは9月末の1.46%から1.66%に上昇して月を終えました(同2.30%、同3.02%、同3.05%)。

○英ポンドは9月末の1ポンド=1.2907ドルから1.2950ドルに上昇し(同1.3253ドル、同1.2754ドル、同1.3498ドル)、ユーロは9月末の1ユーロ=1.1727ドルから1.1646ドルに下落しました(同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は9月末の1ドル=105.47円から104.67円に上昇し(同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は9月末の1ドル=6.7908元から6.6927元に上昇しました(同6.9633元、同6.8785元、同6.5030元)。

○原油価格は9月末の1バレル=39.88ドルから35.75ドルに下落して月を終えました(同61.21ドル、同45.81ドル、同60.09ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は、9月末の1ガロン=2.259ドルから2.234ドルに下落して月末を迎えました(同2.658ドル、同2.358ドル、同2.589ドル)。

○金価格は9月末の1トロイオンス=1892.20ドルから下落して1878.40ドルで月の取引を終えました(同1520.00ドル、同1284.70ドル、同1305.00ドル)。

○VIX恐怖指数は9月末の26.35から38.02に上昇して月を終えました。月中の最高は41.16、最低は24.03でした(同13.78、同16.12、同11.05)。

○企業の決算シーズンはピークを迎え(時価総額で75%に相当する企業が決算発表を終えました)、予想が引き下げられていたおかげで多くの企業の業績が事前予想を上回る結果となりました。投資家の関心は早くも2021年に向けられ、税制改革や政府支出見直しの可能性に注目しています。

⇒2020年第3四半期の利益予想は期末時点から9.3%引き上げられ(年初来では約29.9%引き下げられています)、前期比で30.7%の増益、前年同期比では12.1%の減益となる見通しです。

⇒第4四半期の利益予想は9月末から1.5%上方修正され、前期比3.0%の増益、前年同期比では8.0%の減益が予想されています。

⇒その結果、2020年の予想EPSは25.3%の減益となり、それに基づく足元の予想株価収益率(PER)は27.1倍となっています。2021年については、企業利益は大幅に増加して過去最高を更新すると予想され、2020年比で40.1%増益(2019年比で4.7%増益)が見込まれています。そして、2021年の予想PERは19.9倍と、引き続き高水準となっています。

○エイミー・コニー・バレット氏の最高裁判所判事指名は上院で承認されました(共和党議員53名のうち1名を除く52名が賛成票を投じ、民主党議員47名は全員が反対票を投じました)。同氏はその翌日に宣誓し、最高裁判事は保守派6名とリベラル派3名(いずれも推定)という構成になりました。

○米国の新型コロナウイルス対応のための財政政策:

⇒第1弾:医療機関への財政支援やウイルス感染拡大防止に83億ドルを拠出。

⇒第1段階:2週間の疾病休暇および最長10週間の家族医療休暇の給与費用に対する税額控除。

⇒第2段階:労働者、中小企業、事業会社、病院や医療関係機関に対する直接支援、ならびに融資保証を提供する2兆2000億ドルのプログラム。

⇒第3段階:(中小企業向け)給与保証プログラム(PPP)に3100億ドルと医療機関に750億ドルを含む、総額4840億ドルの拠出。ただし、州政府および地方自治体に対する資金支援は行わない。

⇒第4段階:追加の景気刺激策をめぐる交渉を受けて市場は大きく変動し、10月末までに合意に至りませんでしたが(上院は選挙のために休会)、市場は近いうちに合意がまとまると依然としてみています。

○ビットコインは9月末の1万0721ドルから上昇して1万3495ドルで月を終えました。月中の最高は1万3838ドル、最低は1万0440ドルでした(2019年末は7194ドル、2018年末は3747ドル)。

○市場関係者のS&P 500指数の1年後の目標値はこの1ヵ月で上昇し、現在値から17.3%上昇(前月は11.5%上昇)の3835(かなり強気な予想)となっています(9月末時点の目標値は3751、8月末時点の目標値は3684)。また、ダウ平均の目標値は現在値から17.4%上昇(前月は9.7%上昇)の3万1104ドルとなっています(同3万0470ドル、同2万9845ドル)。

※「追加対策合意は遠のくも、続く回復への楽観 (2)」へ続く

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