S&P500 月例レポート ― 追加対策合意は遠のくも、続く回復への楽観 (2) ―

市況
2020年11月12日 10時00分

●トランプ大統領と政府高官(新型コロナウイルス関連のセクションも参照)

○10月2日(金曜日)未明(12:54 a.m)、トランプ大統領は自身とファーストレディーのメラニア夫人が新型コロナウイルス検査で陽性と判明し、これから自主隔離に入ることをツイッターで公表しました。このニュースに即座に反応した先物市場では下落幅が1.5%を超え、トランプ大統領と行動を共にしていたホワイトハウスのスタッフの感染状況に対する不透明感から、「質への逃避」の動きも僅かながら確認されました。大統領の陽性が明らかとなったその日に政府高官らも検査を受け、ペンス副大統領、バイデン民主党大統領候補、最高裁判事候補のバレット氏、ムニューシン財務長官は(その時点では)いずれも陰性でした。

10月2日の株式市場は(他の政府高官は陰性だったことや大統領の症状が「軽い」といった)関連ニュースが報じられたことから値を戻して1.24%の下落で始まったものの、再び1.69%下落しました。午後に入ると市場は回復に転じ、結局0.96%の下落で取引を終えました。下げ幅から市場の反応は限定的であったと思われ、9月28日から陽性反応が出た10月2日までの1週間の騰落率は、それまでの4週連続で値下がり(-5.97%)から上昇(1.52%)となりました。2日の夜に大統領はワシントン郊外のウォルター・リード米軍医療センターに入院しましたが、政府は今回の入院については念のための措置であると説明しました。大統領選挙への最初の影響は、トランプ大統領が2日のフロリダ州での集会を中止し、3日以降に予定していた集会などの選挙活動も取りやめたことです。

⇒感染判明後、市場ではトランプ大統領の健康問題(新たな材料)と大統領のツイート(以前から)を受けて、「事態がリアルタイムで急速に動き出した」展開になりました。コロナ対応のための(第4段階となる)追加経済対策に対する期待感が広がり、取引時間中の上下はあったものの(ほとんどが上向き)、市場の見方は(これに対しても)前向きで、(その前の4週連続で5.97%の下落後に)週間ベースで3.84%の大幅な上昇となりました。大統領選挙の結果にかかわらず、共和党は民主党(2021年第1四半期)よりも早い時期(恐らくは年内)の合意を目指していると見られていましたが、11月3日の大統領選挙までに合意に至ると見る向きも一部にはありました。

⇒10月2日にウォルター・リード米軍医療センターに入院したトランプ大統領は5日には退院し、ホワイトハウスに戻りました。マスクを外し、「コロナを恐れるな」、「コロナに自分の生活を支配させてはならない」とツイートしました。

○トランプ大統領は、共和党は大統領選挙後まで第4段階となる新型コロナウイルス対応の追加経済政策についての民主党との協議を停止し、バレット氏の最高裁判事任命の承認に集中すべきだと述べました。この発言を嫌気して市場は10月6日に1.40%下落しました。しかしながら、6日夜にトランプ氏は日中とは矛盾するようなコメントをツイートし(中小企業支援や航空会社に対する救済措置について言及)、これを受けて先物市場は回復に転じ、7日に株式市場は1.74%上昇しました。

⇒10月26日にバレット氏は最高裁判事として承認され、宣誓就任を行いました。

○ペンス副大統領とカマラ・ハリス上院議員(バイデン氏が指名した民主党の副大統領候補)によるテレビ討論会は、両候補の間にアクリル板が設置され、事前に用意された原稿に基づいて質問に答えることはなかったものの、大統領候補の討論会と比べるとより「礼節をわきまえた」態度で行われました。

⇒副大統領候補討論会翌日の8日、米大統領候補討論会委員会(CPD)は、トランプ大統領とバイデン氏による次回開催(10月15日)の討論会については、大統領のコロナ感染を理由にオンライン形式に変更すると発表しました(2日に陽性判定、5日に退院)。トランプ氏はこの発表に即座に反応し、オンラインでの討論会への出席を拒否しました。その後、ホワイトハウスの医師団がトランプ大統領は10日(土曜日)から公式の行事に復帰しても問題ないと発表し、大統領は同日に選挙集会を開催するためにフロリダ州に行く予定だと述べました。

○市場では大統領選挙の結果を手掛かりとした取引が増加しました。選挙は11月3日ですが、結果が判明するには12月14日までかかると予想されており(選挙人の数は538人ですが、どちらの候補も270票を獲得できなかった場合、各州1票の割り当てで2021年1月に下院が大統領を選ぶことになります)、ポジションを作る動きが見られたものの、不透明感が払拭されていないことから確信に満ちたポジションではありませんでした。また、多くの運用担当者は予想外の結果となった前回大統領選の経験から、非常に慎重になっています。市場がより活発に動くのは大統領選以降(しかしながら結果が判明する前の可能性もあります)となるでしょう。不透明感の一部が後退するからです。

○2回目で最後となった討論会では(予定は3回でした)、トランプ大統領とバイデン氏の双方共に礼儀正しく振る舞い、両者の米国に対する見方と政策の明確な違いが浮き彫りとなりました。両候補共に自らの「端的かつ印象的なキャッチフレーズ的発言」を繰り返す(そして質問に対する直接的な回答は控える)ことに終始しました。これらの討論会によって支持する候補者を変更した有権者はほとんどいなかったようです。

⇒米国の有権者2億4000万人のうち、すでに8500万人以上が投票を終えました。投票所で投票した有権者は2840万人、郵便投票を行った有権者は5370万人でした(2016年の投票率は55.5%でしたが、今回はこの数字を大幅に上回るとみられています)。

○米欧間での航空機メーカーに対する補助金を不当とする対立はいまだに続いており(事の発端は16年前に遡ります)、長引く激しい対立に鑑み、世界貿易機関(WTO)は米国のBoeing(BA)への補助金を不当としてEUが米国からの輸入品に対して40億ドルの報復関税を課すことを承認しました。

●新型コロナウイルス関連

○感染状況等:

⇒世界的に感染の急速な拡大が続いており、感染者数が増加し、ロックダウン措置を再導入する国が増えています。米国では累計感染者数が900万人(9月は720万人)を超えました(世界の感染者数は4550万人。9月は3380万人)。また、米国の死者数は23万人(9月は20万6000人。世界全体の死者数は9月が101万1000人、10月は118万7000人)となりました。米国の1日の新規感染者数(7日間平均)は7万7000人に達し、これまでの最多を記録しました。米国では感染者数が過去最多を更新する日が続いており、ついには9万0728人に達しました(7月時点での過去最多となった日の感染者数は7万7362人)。

⇒世界保健機構(WHO)は、全世界の新型コロナウイルスの1日あたりの新規感染者数は過去最多の35万人を記録したと発表しました。

○スペインは首都マドリード(ならびにその周辺地域)に対して非常事態を宣言し、一部地域のロックダウンに踏み切りました。

○新型コロナウイルスの治療法と夢の万能薬に関しては、(WHOによると)全世界で治療薬開発のために40件以上の臨床試験が実施されており、さらに150の治療薬がいずれかの試験段階にあります。

⇒米バイオRegeneron Pharmaceuticals(REGN)は治療薬「REGN-COV2(2つの抗体を組み合わせたもの)」の緊急使用許可の申請を行いました。同社によると、すでに5万人(今後さらに増える見通し)の患者に供給可能とのことです。トランプ大統領も治療の一環として投与を受けており、承認する意向を示していました。

⇒米Johnson & Johnson's(JNJ)は開発中のワクチンの臨床試験の一時中断を発表しました。試験参加者に原因不明の症状が出たことがその理由です(こうした中断は珍しいことではなく、英AstraZeneca(ANZ)も9月に同様の理由で試験を中断しています)。

⇒米Eli Lilly(LLY)も安全性への懸念を理由に、開発中の治療薬の1つに関して第3段階の臨床試験を中断すると発表しました。

⇒米食品医薬品局(FDA)は、米バイオGilead Sciences(GILD)の抗ウイルス薬「レムデシビル(Remdesivir)」を新型コロナウイルスの治療薬として承認しました。

○ニューヨーク市では経済活動の再開を後退させる動きが続いています。感染状況に応じて地域をゾーン分けし、感染者の多い地域では経済活動を制限しました(その後、感染者密集地域の近隣地域のゾーン分けと規制対象業種についてより具体的な指針が示されました)。ビリー・ジョエルのヒット曲の歌詞「seen the lights go out on Broadway(ブロードウェイの灯が消えてしまった)」が頭の中で繰り返されています。ニューヨーク市の業界団体であるブロードウェイ・リーグは、少なくとも2021年5月30日までブロードウェイの劇場の閉鎖を継続すると発表しました(近隣の飲食店にとっては痛手です。屋外に席を設けて営業する店も増えており、私もこうした店で食事をすることで応援しています)。

○WHOによると、全世界の新型コロナウイルスの1日あたりの新規感染者数が35万人に達し、過去最多を更新しました。

⇒欧州では感染拡大に歯止めがかからず、各国政府による制限措置の導入が続いています。ドイツでは1日の新規感染者数が過去最多となり、ベルリンでは新たな行動制限措置が課されることになりました。ロンドン(と英国内のその他の地域)でも行動制限が強化され、マドリードでは非常事態宣言が発令されたままとなっています。フランスでも新規感染者数が過去最多となり、公衆衛生上の非常事態が宣言され、パリ市内では外出禁止令が発令されました(市民は反発しています)。英国でも新規感染者数が過去最多となったことが報告されています。一方、ニュージーランドでは感染が抑え込まれたとみられ、ラグビーの公式国際試合が3万人の観衆を集めて開催されました。マスク着用で観戦している人の姿は見られませんでした。

⇒米国内で新型コロナウイルスに再感染した症例が初めて確認されました(1回目と2回目では異なる遺伝子を持つウイルスに感染しており、再発ではありません)。同じような症例は、ベルギー、香港、オランダでも報告されています。

●各国中央銀行の動き

○パウエルFRB議長は、政府が経済を支援しなければ、米国は「悲惨」な状況に陥る可能性があるという見方を明らかにし、「経済状況は完全な状態からはなお程遠い」と述べました。

○FOMC議事録は、財政による支援策や景気刺激策が縮小または終了した場合の経済への影響に関して、懸念を示しました。

○地区連銀経済報告(ベージュブック)によると、経済活動はすべての地区で改善していますが、一部の地区は小幅な改善にとどまっています。賃金と雇用は全体的に上向いていますが、特定の地域ではなお雇用削減がみられることも指摘されています。

※「追加対策合意は遠のくも、続く回復への楽観 (3)」へ続く

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