植草一秀の「金融変動水先案内」 ―コロナ収束と混乱持続のはざま―

市況
2021年4月10日 8時30分

第56回 コロナ収束と混乱持続のはざま

●ワクチン不均衡

コロナ感染収束の決定打として期待されているのがワクチンですが、従来のワクチンとは異なるmRNAワクチンへの警戒感は強く残存しています。mRNA(メッセンジャーRNA)はタンパク質を作るための設計図と表現できるもので、細胞の核内にあるDNAから作られます。ヒトの細胞内でも常にmRNAが作られています。mRNAワクチンは新型コロナウイルスの一部のmRNAを特殊なコーティングで包んで筋肉注射により体内に注入するものです。ヒトの細胞内に入ると新型コロナウイルスのタンパク質の一部が作られて、ヒトの免疫細胞がそのタンパク質を異物と認識して免疫ができるというものです。

世界各国でワクチン接種が始まっていますが、進捗状況に国別で大きな格差が存在します。人口100人当たりの延べ接種回数では、イスラエルが100回を突破、英米が50回超、独仏伊が20回弱になっています。これに対して日本は約1回にとどまっています。

接種が先行している英国ではコロナ死者数が急速に減少し始めています。ワクチン接種は感染を完全に防ぐものではありませんが、重症化を防ぐ効果があるとされています。問題はウイルスの変異スピードが速く、変異したウイルスのなかにワクチンが有効でないものがあると考えられていることです。英国ではコロナ死者数が減少していますが、再び増加に転じることがないかを慎重に見定める必要があります。

●日本のコロナ感染再拡大

日本のワクチン接種が進展するのは21年後半になると見られています。そのなかで、日本はいま感染第4波に直面しています。第3波を収束させるために緊急事態宣言が発出されましたが、3月21日の宣言解除の前に感染の再拡大が確認されていました。2月中旬以降、人流も再拡大に転じていましたので、宣言解除は第4波到来の引き金になるとの強い警告がありました。

しかし、菅内閣は3月25日に五輪聖火リレーを開始するために宣言解除を強行しました。宣言解除によって人流拡大に拍車がかかり、新規感染者数の急拡大が生じています。3月8日に600人にまで減少した新規陽性者数は4月8日に3447人にまで再拡大してしまいました。五輪優先の菅内閣のコロナ対応がもたらした人災であると言わざるを得ません。

日経平均株価は1月8日から4月9日までの3ヵ月間、2万7700円から3万0700円のゾーン内で乱高下を繰り返しました。NYダウ平均も乱高下しましたが、株価の推移は上昇基調です。日本はコロナ対応の失敗で株価頭打ちの傾向を強めています。

日本での感染拡大をもたらしている変異株は関西がN501Y、関東はE484Kが中心であると指摘されています。N501Yは感染力が強い特徴を持つ一方、E484Kはワクチン効果が低いことが懸念されています。大阪では医療非常事態が宣言されました。感染第4波がどこまで深刻化するのかが目先の最大の懸念事項になっています。

●米国金融政策転換への警戒感

このなかで4月25日に北海道、長野、広島で国政3選挙が実施されます。菅内閣発足後初めての国政選挙ですが、与党三敗の事態が生じると菅首相退陣論が噴出する可能性が浮上します。菅首相は4月16日に予定されている日米首脳会談を選挙対策の柱に位置づけていると見られますが、会談の成果とともに今後のコロナ情勢が選挙結果に大きな影響を与えるものと思われます。

3月16-17日のFOMCでFRBは23年末までゼロ金利政策を維持する見通しを発表しました。これを受けてNYダウは史上最高値を更新しましたが、直後から解釈の見直しが広がりました。FOMC各メンバーの見通しを精査すると、FRB内部で利上げの早期実施論が強まっていることを確認できます。FRBが21年末のインフレ率見通しを+2.4%に上方修正したことと併せて金融政策の方向転換への警戒論が強まりました。結果として、米国長期金利の急上昇が発生したのです。

米国株価にも一時的に下方圧力が発生しました。また、米国長期金利の上昇に連動してドル上昇とドル表示金価格の下落が進行しました。市場心理が大きく振れる傾向を持つことを鑑みて、その後、FRBのパウエル議長が市場心理を鎮静化させる発言を繰り返しています。

4月8日の発言では米国のインフレ率上昇が一時的現象にとどまること、世界経済の回復はワクチン不均衡を背景に不完全なものであることが強調されました。パウエル発言を受けて米国長期金利は小幅低下し、ドルが小幅下落、金価格は小幅反発の市場反応が観察されました。当面はパウエル発言の効果が残存すると思われます。

●米国対中国外交の真相を見定める

コロナ死者数は英米で減少に転じましたが、ブラジルで急拡大しています。世界全体では新規の感染者数と死者数が増加する感染第4波が観察されています。ワクチン接種の進捗に大きな国別格差が残存するとともに、ウイルス変異がワクチンの有効性を低下させるリスクが存在します。また、mRNAワクチンの安全性が十分に確認できていないことから、日本などではワクチン接種を忌避する人が多数になることも考えられます。

感染第4波の帰趨が、コロナ収束の可否を判断する重要な材料になると考えられます。この判定が可能になるまでは、問題収束と問題長期化の両にらみの構えが必要だと言えます。

東アジアのコロナ被害が軽微であることを反映して、東アジア諸国・地域のコロナ暴落後の株価反騰率が突出して高くなっています。コロナ暴落幅に対して中国、台湾、韓国の株価反騰率は200%を大きく超えました。日本の株価反騰率が185%にとどまっているのは、日本のコロナ対応の失敗を反映するものと言えます。

留意が求められるのが、上海総合指数の2月以降の停滞です。2月高値から約10%下落して、その後も反発力が鈍い状態が続いています。米国のバイデン政権の対中国外交姿勢が厳しさを強めているように見えることが影響している可能性があります。その実態を推し量る上で、4月16日の日米首脳会談での対中国政策における米国対応を注視する必要が極めて大きいと思われます。

(2021年4月9日記/次回は4月24日配信予定)

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