奮起する「地熱発電」関連株、30年度に「倍増」で高まる活躍期待感 <株探トップ特集>

特集
2022年5月9日 19時30分

―エネルギー危機で再評価機運強まる、「地熱資源大国ニッポン」本領発揮へ―

「地熱発電」への注目度が高まっている。ロシアのウクライナ侵攻に端を発したエネルギー危機は、改めて再生可能エネルギー関連株へ物色の矛先を向かわせた。ただ、地熱発電に関しては、もはや身近なものとなった風力 太陽光 に比べ、いまだ“理想買い”の域を出ないというのが実情だ。しかし、ここにきて地熱発電を取り巻く状況にも潮流の変化が見え始めている。理想買いから現実買いへと歩み始めた地熱発電関連株のいまを追った。

●世界3位の潜在能力

エネルギー資源に乏しい日本列島に試練が訪れている。ロシアへの制裁が強化されるなか、原油などのエネルギー価格が高騰、ガソリンや原材料価格の値上がりは国内の経済活動にも大きな影を落とす。9日未明には、岸田文雄首相が先進7ヵ国(G7)首脳会議で、ロシア産石油を原則禁輸すると表明するなど、制裁長期化の様相が更に強まっている。こうした状況下、国外からの供給に頼らないさまざまな再生可能エネに株式市場でも関心が集まっているが、全体的に見れば風力や太陽光発電に比べて地熱発電は発電量も少ないこともあり存在感は決して高いとは言えない。

火山大国というポテンシャルの高さに比べ地熱発電開発が進まない背景には、稼働までに長い期間を要すること、地質調査をはじめ掘削作業など莫大な費用が掛かることが挙げられる。また、熱源の多くが国立、国定公園にあることや、温泉街を有する観光地であれば湧出量減少などの可能性もあり事業者の理解も得なければならないという複雑な問題も絡む。しかし、最近では政府も規制緩和の方向にあり、国立公園などを含む地域での開発を推進する方針だ。脱炭素社会に向けて世界の動きが加速するなか、昨年4月には小泉進次郎環境相(当時)が記者会見で、「火山国として地熱のエネルギーも豊富にある」とし、全国にある60を超える地熱発電施設を2030年度に「倍増を目指す」と発言した。日本は米国、インドネシアに次ぐ世界3位の潜在能力を持つと言われるが、ここにきて「地熱資源大国ニッポン」が、いよいよ本領発揮の時を迎えようとしている。

●「地熱発電保険」スタート

地熱発電はマグマだまりを熱源とするため、気候により大きく変動する風力や太陽光発電に比べ電力が安定供給されることが大きな利点だ。欧州においては、エネルギー安保の観点から原発回帰に舵を切る動きが出ているが、その背景にはロシアのウクライナ侵攻に加え、再生可能エネに偏りすぎた政策への反省もある。昨年、欧州においては一部地域で風が弱く、風力発電の発電量が大幅に減少し大きな問題となった。ここ東京株式市場では、岸田首相が再生可能エネに加え、安全を確保した原子炉の有効活用を図る方針を示したことで原発関連に注目が集まっている。ただ、福島第一原発事故の発生という日本独自の事情もあるため、そうたやすく原発推進に大きく舵を切ることはできないという見方もある。

ここにきては、地熱発電推進に向けたさまざまな動きも活発化している。東京海上ホールディングス <8766> [東証P]グループの東京海上日動火災保険は、5月1日から「地熱発電業務賠償責任保険団体制度」(地熱発電保険)の販売を開始した。これは、日本地熱協会(東京都千代田区)の正会員(80社)向けに、地熱発電(開発)業務に関連して周辺温泉の湧出量の減少、泉質や温度の変化が発生した場合の原因調査費用と、温泉事業者への損害賠償責任を補償するもの。地熱発電の開発に関する自然公園法、温泉法、森林法などの規制緩和が進められる一方、温泉事業者などとの合意形成が長年の課題となっていたが、同保険が普及することで地熱発電の導入を後押しするという。

中堅証券アナリストに意見を聞くと「地熱発電は火山国の日本ならではというところがあるが、実際推進していくなかで温泉業者との軋轢(あつれき)もあるようだ。また、国立公園などポジショニング的に被る部分があり、調整が難しい部分もある。現在は“斜め掘り”が開発されたことで以前より融通が利くようになった。再生可能エネは政府の脱炭素戦略のなかで、原子力と並んで今後も注目されていくことになるが、そうしたなかで地熱発電の市場拡大余地も徐々に広がっている印象を受ける。最近では大手損保が地熱発電保険の販売などに動き出していることもそれを裏付けている」と話す。

●海外で存在感みせる日本勢

資源開発最大手のINPEX <1605> [東証P]は、昨年12月に地熱事業を目的とする子会社として設立したINPEX地熱開発を通じ、インドネシアにおけるムアララボ地熱発電事業に参画したと発表。先月28日には同事業の参画比率を現行の10%から30%に引き上げるとしており、同国における地熱事業の推進を加速化させる方針だ。

大手電機メーカーでも、以前から培ってきた地熱発電における最新技術を用い海外での攻勢を強めている。東芝 <6502> [東証P]が20年7月現在で累計出力約3.8ギガワットの地熱発電機器を納入しており、設備容量ベースで世界トップクラスのシェアを誇る。三菱重工業 <7011> [東証P]の地熱発電システムも世界各国で導入されているが、地熱発電技術として「二相流体輸送」と「ダブルフラッシュ方式」の組み合わせを世界で初めて適用するなど、高い技術力が評価されている。

●国内事業も加速化の動き

地熱発電開発へ向けた動きを加速しているのが九州電力 <9508> [東証P]だ。3月には大分県九重町の泉水山北部地域で地熱資源調査を実施することを発表。更に、4月には「鹿児島県霧島市で地熱発電所建設に向けた準備を開始」すると発表しており、23年6月に工事を開始し、24年度末の運転開始に向けて手続きを進めるという。また、Jパワー <9513> [東証P]、三菱マテリアル <5711> [東証P]、三菱ガス化学 <4182> [東証P]は共同出資会社を設立し、19年には山葵沢(わさびざわ)地熱発電所(秋田県湯沢市)の営業運転を開始。発電出力4万6199キロワットで、出力1万キロワットを超える大規模地熱発電所の稼働は国内においては23年ぶりのこと。これら3社は、同年8月には安比地熱発電所(岩手県八幡平市)の建設工事を開始、24年4月の運転開始を目指している。

●レノバ、じわり再浮上機運も

太陽光、風力、バイオマスなど再生可能エネの複数種類電源(マルチ電源)の開発を志向するレノバ <9519> [東証P]も北海道函館市の「函館恵山地熱プロジェクト」(開発中)や熊本県南阿蘇村「南阿蘇湯の谷地熱」(建設中)などの地熱プロジェクトを進めている。特にレノバが共同出資する谷地熱は、同社が着工する初の地熱発電事業だけに関心が高い。昨年6月には、谷地熱が金融機関との間で融資関連契約を締結し、地熱発電所の建設資金を資金使途とするプロジェクトファイナンスを組成したと発表。融資アレンジャーの新生銀行 <8303> [東証S]では、地熱発電事業へのプロジェクトファイナンスの組成は国内で初だという。運転開始は、今年12月を予定している。レノバの株価は、秋田県での洋上風力事業者に選ばれなかったことがネガティブ視され昨年末に急落以降、下値を這う展開が続くが、エネルギー危機が叫ばれるなか、じわり再浮上機運も。

●事業化にむけて取り組むアストマクス

アストマックス <7162> [東証S]にも注目しておきたい。同社は再生可能エネなど総合エネルギー事業と金融事業を2本柱に事業展開するが、地熱分野にも注力。現在は、開発済みの太陽光発電所の売電、保守・運用管理に加え、新たな太陽光発電所の開発及び「アストマックスえびの地熱」(宮崎県えびの市)などで地熱発電の事業化にむけて取り組んでいる。同社は4月28日、非開示としていた22年3月期の連結業績見込みについて、売上高127億6900万円(前の期比4.0%増)、営業利益5億2700万円(同2.0倍)、純利益1億2700万円(同5.0%増)になったようだと発表。燃料価格高騰などを背景に、電力取引関連事業が好調に推移し業績を牽引した。

●実績豊富な富士電機

地熱発電プラントで全体の設計、製作、建設を手掛ける富士電機 <6504> [東証P]にも、ビジネスチャンスが広がる。同社は1960年に日本初の実用的な地熱発電設備を納入して以来、数多くの地熱タービンを納入しており実績も豊富。地熱発電開発が加速する状況下で更なる活躍期待が高まりそうだ。同社は海外へも攻勢を掛けるが、前述したインドネシアのムアララボ地熱発電所でもプラント全体のエンジニアリングと主要機器の調達などを担当し主要機器を納入。地熱大国インドネシアで、19台の地熱発電用蒸気タービンを納入しており同国でのシェア50%を占める。2000年以降の納入実績(同社調べ)では、世界シェアでも約40%を誇ることも見逃せない。

●新日本科学、第一実、日鉄鉱、鉱研工業

前臨床試験受託で国内トップクラスの新日本科学 <2395> [東証P]は、15年から子会社であるメディポリスエナジーにおいて、地熱バイナリー発電を稼働している。同社のメディポリス事業では、鹿児島県指宿市に所有する東京ドーム77個分という壮大な敷地において、ホテル事業部(指宿ベイヒルズ HOTEL&SPA)、地熱発電事業部(メディポリスエナジー)、水産事業部(ウナギ種苗生産)、アグリカルチャー事業部を展開。5月6日取引終了後に発表した同社の22年3月期の連結経常利益は前の期比94.2%増の70億7800万円に拡大したが、23年3月期は前期比15.2%減の60億円に減る見通しとなった。株価は下値模索の展開が続くが、ウィズコロナが進むなか面白い存在とも言えそうだ。

このほかでは、小規模の地熱・温泉での発電など小型バイナリー発電システムで実績を持つ第一実業 <8059> [東証P]、地熱部門で96年から九州電力大霧発電所への蒸気供給を行う日鉄鉱業 <1515> [東証P]にも注目。また、掘削のためのボーリングマシンを手掛け、多くの地熱発電所で浚渫ボーリングを行ってきた鉱研工業 <6297> [東証S]にも目を配っておく必要がある。

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