炎立つ株高へ、「LNG関連」エネルギー新時代に翔ぶ5銘柄 <株探トップ特集>
―エネルギー安全保障は国家の最重要課題、ビジネスチャンスは危機の中に芽生える―
LNG(液化天然ガス)関連銘柄への注目度ががぜん高まってきた。これはグローバル規模の緊急テーマとしてエネルギー安全保障が取り沙汰されるなか、その延長線上にLNGの存在が強く認知されるようになったからだ。LNGに関連する領域でビジネスを手掛ける企業群の中から、株価を大変貌させる銘柄の登場がいま意識され始めた。
●ウクライナ有事で急浮上するエネルギー危機
世界的にエネルギー安全保障に関して議論が活発化している。ロシアによるウクライナ侵攻を契機に地政学リスクが浮き彫りとなったが、最も大きな余波を受けているのは欧州で、天然ガス価格高騰によるエネルギー危機に直面する格好となっている。
EUは元来ロシアへのエネルギー依存比率が高く、化石燃料の中でも天然ガスの全体使用量に占めるロシア産の割合は際立っており、2020年時点で4割を超えている。ウクライナ侵攻を続けるロシアは現在、天然ガスを欧州に供給するパイプライン「ノルドストリーム1」を無期限で停止している状況にある。西側諸国の制裁解除が事実上の条件となっているだけに再開のメドは立ちにくい。欧州はエネルギー不足に喘ぐなか、天然ガスの確保がままならずインフレの高進にも歯止めが掛からなくなっている。
このウクライナ問題がトリガーを引く形でLNGプラント建設に向けた動きが世界的に加速している。LNGはメタンを主成分とする天然ガスをマイナス162度にまで冷却化することで液化させたもので、それに伴い体積は従来比約600分の1に減少する。これによって設備の小型化が可能となり、天然ガスの大量輸送や貯蔵が容易となるわけだ。
天然ガスはいわゆる化石燃料で世界的な脱炭素の流れにはそぐわないが、石油や石炭と比較して燃焼時の二酸化炭素の排出量が少ないことでクリーンエネルギーに位置付けられており、再生可能エネルギーとの併用で旺盛な需要がある。ノルドストリームのようにガスパイプラインで天然ガスを調達することが難しい場合でも、LNGを輸送するという手段で調達が可能となるため、生産設備への引き合いが相次ぐ状況となっている。プラントの立地条件から中東のカタールや北米、オーストラリアなどが有力地域だ。
●地球規模で奏でるLNG狂騒曲
こうした環境下でLNG価格も世界的にうなぎ登りとなっている。オーストラリアの石油・ガス大手ウッドサイド・エナジー・グループが8月末に発表した1~6月期決算は最終利益が前年同期比で5倍強となった。これは天然ガス高騰による影響が大きい。一方、オーストラリア政府は国内でのガス不足懸念が高まっていることを受け、LNGの輸出規制を発動するか否かを検討する状況にあることが伝えられている。同国はLNG輸出国としては世界トップクラスであるだけに、“医者の不養生”よろしく国内でのガス不足懸念が取り沙汰されるというのはエポックメイキングな事態といってよい。
米国産の天然ガスもウクライナ問題で欧州向けLNG輸出が急増し、8月23日にはリーマン・ショック前の08年7月以来14年ぶりの高値をつけている。言うに及ばず米国ではLNG関連企業の業績が様変わりしている。米国最大のLNG事業者であるシェニエール・エナジー<LNG>の4~6月期の売上高は前年同期比で2.6倍化した。その原動力となっているのがLNGの輸出で前年比14%の高い伸びを示した。また、米新興エネルギー会社のテルリアン<TELL>は今年4月にルイジアナ州でLNG施設の建設に着手、26年初めにも生産をスタートし輸出を開始させる計画にある。
●世界にも存在感を示す日本企業の実力
日本もロシア産LNGへの依存度が高いが、現状を打破するため岸田政権では米国やカナダからの調達を増やすことを目的に日本企業の投資を支援する構えをみせている。経済産業省の23年度予算の概算要求では前年度比1割増の4316億円の確保を目指すことが報じられているが、その背景にあるのはエネルギー安全保障の強化で、LNGの海外投資戦略にも予算を充てる構えだ。これは同分野に関わる民間企業にとっても福音となる。
日本はLNG関連分野で世界的にも存在感を示すプラントエンジニアリング企業が複数存在する。代表的なのは日揮ホールディングス <1963> [東証P]で世界でも屈指の存在だ。北米の大規模なLNG案件など受注獲得が期待される有力候補をいくつも抱えている。また、千代田化工建設 <6366> [東証S]もLNG案件で実績の高いプラント会社だ。23年3月期は営業利益がほぼ倍増する見込みだが、カタールでの大型LNGプラント建設プロジェクトの本格化が収益を押し上げる。
このほか世界最大規模のLNG開発事業「イクシス」を手掛けるINPEX <1605> [東証P]や、極低温のLNGを移送するクライオジェニックポンプを製造する荏原製作所 <6361> [東証P]、LNGプラント向け断熱工事で実績の高い明星工業 <1976> [東証P]などが注目される。LNG貯蔵タンクではIHI <7013> [東証P]やトーヨーカネツ <6369> [東証P]などが高実績を誇る。更に、ロシアの「サハリン2」の権益問題でも話題となったが、米ルイジアナ州のLNG増産プロジェクトにも参画する三井物産 <8031> [東証P]や三菱商事 <8058> [東証P]など大手総合商社。LNG船建造では三菱重工業 <7011> [東証P]なども存在感を示す。
そして今回のトップ特集では、LNG関連分野に独自技術力を有しビジネスチャンスを獲得している企業の中から、今後に収益飛躍の可能性を秘める株価変貌期待十分の5銘柄を選りすぐった。
●燃え上がるLNG関連5銘柄はこれだ
◎キッツ <6498> [東証P]
国内トップの総合バルブメーカーであり、その実力は世界でも屈指。供給先は多岐にわたるが、石油化学プラントやLNG基地向けで高い実績を持つ。原料コストの高騰も価格転嫁が可能な商品競争力を有しており、足もとの業績も絶好調といってよい。LNG分野は日本規格でハイスペック商品を手掛けてきたため、グローバルでは価格面で折り合いがつきにくかったが、海外用モデルの開発により今後の活躍余地が広がっている。22年12月期は営業利益段階で前期比26%増の113億円を予想する。今上期(22年1-6月)の営業利益も前年同期比44%増益と大幅な伸びを確保した。株主還元にも前向きで今期年間配当は前期実績比11円の大幅増配で31円を計画。配当利回りは3.8%台と高水準だ。株価は8月末に年初来高値827円をつけた後はいったん調整を入れているが、800円近辺のもみ合いは中期上昇トレンドの踊り場とみて強気に対処して報われそうだ。
◎クリヤマホールディングス <3355> [東証S]
ゴムや合成樹脂製品を中心としたホースメーカーで日本、北米、欧州、南米を拠点にグローバル展開している。商業施設向け大判セラミックタイルの「スーパー・マテリアルズ」など建設資材分野でも高い競争力を誇る。そしてシェールオイル向け採掘用ホースを手掛けていることは、同社の収益機会を飛躍的に伸ばす可能性がある。「シェール革命」によってLNG生産で世界トップとなった米国だが、ウクライナ問題を背景に最近は欧州へのLNG輸出が急増しており、同社にとっても強力な追い風となる。業績は21年12月期に大幅増収増益を果たし、売上高、営業利益ともに過去最高を更新。22年12月期はその反動もあって営業利益は前期比横ばいの43億円を計画しているが、上振れる公算が大きい。PER5倍台、PBR0.5倍台と超割安圏に位置しており、それだけに株価の上昇余地は大きいといえる。昨年12月27日につけた1249円の高値奪回が当面の上値目標となろう。
◎日機装 <6376> [東証P]
化学用精密ポンプ のトップメーカーで、航空機部品やメディカル用、ナノテク分野など幅広い分野において高度な技術力で顧客企業のニーズに応えている。船舶向けのLNG用ポンプ製品などでも優位性を発揮し、収益の成長エンジンとなっている。今年4月にはアジア造船業界で高まる需要に対応して、子会社がLNG船関連製品の製造施設を韓国と中国に新設することを発表、生産能力を強化した。米国でもLNG船向け燃料供給装置が旺盛な需要を捉えている。このほか、水素ステーションでも豊富な受注実績が光る。22年12月期業績は売上高が前期比7%増の1800億円予想、営業利益は子会社譲渡益約340億円の計上により350億円(前期実績は31億2500万円)と急増の見込み。株式譲渡益計上を考慮もPERは4倍台、PBRも0.6倍台で割安感が際立つ。株価は1000円近辺でのもみ合いだが、中期スタンスで上値余地は大きくここは仕込み場とみて良さそうだ。
◎住友精密工業 <6355> [東証S]
産業用の各種熱交換器を製造するほか、航空機向け降着装置メーカーとしても有名。事業別の売り上げ構成比も産業機器が全体の30%、航空宇宙が45%を占め二本柱となっている。熱交換器部門では、同社が国内で初めて開発したLNG気化装置が注目され、先駆した技術力を存分に発揮して現在も世界トップの納入実績を誇る。今後もグローバル規模で世界のLNG基地に同社の気化装置供給が進む公算が大きく、業績拡大の成長ドライバーとなろう。海外ではドイツが国内初のLNG輸入ターミナル建設を行う計画にあり、同社の収益機会拡大につながる。23年3月期はトップラインが前期実績と比べ2割近い伸びを見込み、増収効果を反映して営業利益は前期比70%増の32億1000万円予想と急回復が鮮明。PER6倍台で、更にPBRは解散価値の半分にも満たない0.4倍台に過ぎず株価水準訂正余地が際立つ。6月9日の年初来高値3140円も早晩視界に入りそうだ。
◎三井海洋開発 <6269> [東証P]
浮体式の石油・ガス生産設備の設計製造を手掛け、売上構成の100%を海外で占めている。海洋上で天然ガスを生産・貯蔵・積出する浮体式施設「Floating LNG(浮体式液化天然ガス生産設備)」を建造する。これは海洋ガス田から産出したLNGを運搬するために体積を約600分の1に冷却し液化する設備が搭載されている。業績は赤字が続いていたが、22年12月期は最終損益が25億3000万円の黒字(前期は418億6000万円の赤字)とまだ水準自体は低いものの4期ぶりに赤字を脱却する見通し。なお、石油・ガス生産設備以外では洋上風力発電などでも注目され、世界的な取り組みが進む脱炭素のテーマでも有力関連株に位置付けられる。株価は8月中旬にマドを開けて買われたが、その後も調整を織り交ぜながらも徐々に下値を切り上げている。年初来高値近辺だが、当面は昨年10月の戻り高値2053円を目標とする上昇トレンド構築に期待が募る。
株探ニュース