2022年「ノーベル賞」発表目前、日本人受賞へ期待高まる 有望株総点検 <株探トップ特集>

特集
2022年9月27日 19時30分

―3日から発表スタート、量子コンピューターや新型コロナ関連の研究も注目―

今年もノーベル賞の発表シーズンが迫ってきた。来週10月3日から発表が始まるが、焦点となるのは日本人の受賞があるか、どうかだ。昨年は日本出身の米プリンストン大学の真鍋淑郎氏が地球温暖化の研究で物理学賞を受賞した。近年、日本人のノーベル賞受賞ラッシュとともに、株式市場で関連株が物色されるのは慣例となっている。市場の注目を集めるノーベル賞関連株の動向を探った。

●クラリベイト引用栄誉賞は3人の日本人を選出

今年のノーベル賞は、10月3日の医学生理学賞を皮切りに、4日に物理学賞、5日に化学賞、6日に文学賞、7日に平和賞、10日に経済学賞が発表される。2014年以降、17年を除けば19年まで日本人の受賞者が毎年輩出されるラッシュに沸いた。例えば19年にはリチウムイオン電池の開発で旭化成 <3407> [東証P]の吉野彰名誉フェローが受賞しリチウムイオン関連株が注目された。20年は受賞者がなく、昨年は米国籍の真鍋淑郎氏が物理学賞を受賞したが、気候変動の研究ということもあり株式市場での関連株の物色は限られた。

では、今年はどうか。米情報会社のクラリベイト・アナリティクス社から22年度の「引用栄誉賞」が21日に公表された。受賞者はノーベル賞の有力な候補者として注目されるが、そのクラリベイト引用栄誉賞に20人が選ばれ、日本人では医学・生理学分野で東京都医学総合研究所の長谷川成人脳・神経科学研究分野長、物理学分野で物質・材料研究機構の谷口尚フェローと同機構の渡辺賢司主席研究員が受賞した。

●医学生理学賞では東京都医学総研の長谷川氏など候補

3日に発表される医学生理学賞の有力候補となるのが、前出の東京都医学総合研究所の長谷川成人氏だ。同氏は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や前頭側頭葉変性症(FTLD)などの発症に関わるタンパク質「TDP-43」を発見した。ALS関連では、三菱ケミカルグループ <4188> [東証P]傘下の田辺三菱製薬やエーザイ <4523> [東証P]、クリングルファーマ <4884> [東証G]などが関連銘柄となる。

他候補では、大阪大学免疫学フロンティア研究センターの坂口志文特任教授は、免疫が暴走しないように抑える「制御性T細胞」を発見した。関連銘柄としては、制御性T細胞を研究する医学生物学研究所を子会社に持つJSR <4185> [東証P]が注目される。京都大学教授の森和俊氏は、がんや糖尿病、パーキンソン病とかかわりのある異常なたんぱく質の蓄積を防ぐ「小胞体ストレス応答(UPR)」の仕組みを解明した。アステラス製薬 <4503> [東証P]は、米国企業とUPRを調節する治療薬に関して提携契約している。

岸本忠三・大阪大学免疫学フロンティア研究センター特任教授と平野俊夫・量子科学技術研究開発機構理事長は、体の免疫で重要な役割を担う「インターロイキン6(IL-6)」を発見。その発見は関節リウマチ治療薬「トシリズマブ(アクテムラ)」の開発につながった。同薬は、中外製薬 <4519> [東証P]と大阪大学が共同開発している。東京大学名誉教授の中村祐輔氏は1990年代からがん治療の個別化に関する「オーダーメイド医療(個別化医療)」を提唱している。同氏はオンコセラピー・サイエンス <4564> [東証G]の創業者の1人でもある。

また、海外では新型コロナウイルスのワクチンとして実用化された「mRNAワクチン」を開発した独ビオンテック<BNTX>のカタリン・カリコ氏が注目されている。

●物理学賞ではカーボンナノチューブや光格子時計など期待

4日の物理学賞では、前出の物質・材料研究機構の谷口尚フェローと渡辺賢司主席研究員が候補となる。両氏は窒素とホウ素からなる「六方晶窒化ホウ素結晶(h-BN)」を高純度で作る技術を開発。量子コンピューターなどへ応用できる材料としての期待も膨らんでいる。昭和電工 <4004> [東証P]やデンカ <4061> [東証P]などがh-BNに関係している。

カーボンナノチューブを発見したNEC <6701> [東証P]の特別主席研究員で名城大学終身教授の飯島澄男氏も有力候補だ。カーボンナノチューブは炭素で構成され、その強さはダイヤモンドの2倍とも鋼鉄の数十倍ともいわれる。クラレ <3405> [東証P]や日本ゼオン <4205> [東証P]、GSIクレオス <8101> [東証P]などが関連銘柄だ。電気自動車(EV)ドローンなどに使われる「ネオジム磁石」を開発した大同特殊鋼 <5471> [東証P]の佐川眞人顧問も候補となっている。

理化学研究所の十倉好紀・創発物性科学研究センター長が開発した新材料「マルチフェロイック物質」は、将来的に省エネメモリーにつながると予想されている。この新材料の開発には日本電子 <6951> [東証P]の透過電子顕微鏡関連の「環状明視野法」という技術が用いられている。

東京大学の香取秀俊教授は「光格子時計」を開発した。光格子時計は300億年に1秒しかずれないといわれる。島津製作所 <7701> [東証P]やNTT <9432> [東証P]が共同研究機関となっている。量子コンピューターに絡んで東京大学の古澤明教授や東京工業大学の西森秀稔特任教授なども候補だ。量子コンピューター関連のフィックスターズ <3687> [東証P]やエヌエフホールディングス <6864> [東証S]などが注目されそうだ。

●化学賞では次世代太陽電池など、引き続き文学賞では村上春樹氏に期待

5日の化学賞では、東京大学卓越教授の藤田誠氏が有力視されている。同氏は化学物質が自発的につながる「自己組織化」という現象を見つけた。自己組織化ペプチドを手掛けるスリー・ディー・マトリックス <7777> [東証G]などが関連銘柄に挙げられている。

桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授は、「ペロブスカイト型」と呼ばれる結晶構造物を用いて、板に塗るだけで発電が可能という薄くて軽い低コストでの次世代太陽電池 を考案した。積水化学工業 <4204> [東証P]や第一稀元素化学工業 <4082> [東証P]や堺商事 <9967> [東証S]などが注目される。中部大学の澤本光男特任教授は化学品の分子構造を制御する技術である「精密重合」の新手法を開発した。カネカ <4118> [東証P]や大塚ホールディングス <4578> [東証P]などが関連銘柄となる。

文学賞は6日に発表される。村上春樹氏は今年も候補とされているほか、ドイツ在住の日本人女性作家、多和田葉子氏の名前も挙がっている。丸善CHIホールディングス <3159> [東証S]や文教堂グループホールディングス <9978> [東証S]、三洋堂ホールディングス <3058> [東証S]などが関連銘柄となる。7日に発表される平和賞では、ウクライナのゼレンスキー大統領を挙げる声もある。10日発表の経済学賞では米プリンストン大学教授の清滝信宏氏が候補となっている。同氏は大阪の旧・池田銀行の創業家の生まれであり、池田泉州ホールディングス <8714> [東証P]が関連銘柄となる。

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