AI半導体の進化はこれから加速する アドバンテスト 津久井幸一社長に聞く<トップインタビュー>
─世界トップの半導体テスター企業がAI革命で果たす役割とは─
高まるマーケットの期待にどう対峙していくか。いわゆるAI(人工知能)相場が加速する中で、AI関連の主力企業すべてに突き付けられた避けがたい課題だ。過去3年で株価が10倍化し、わが国を代表する半導体製造装置メーカーの地位を確立したアドバンテスト <6857> にとっても例外ではない。だが、同社を率いる津久井幸一社長は、「半導体の進化は始まったばかり」と泰然自若の姿勢を崩さない。本インタビューでは、改めて世界一の半導体テスター企業の地位を確立した同社の事業スタンスと今後の成長戦略を聞いた。(聞き手・樫原史朗)
●顧客の要求に応え続けた結果、海外比率98%のグローバル企業へ
──貴社は、いまやわが国を代表する半導体製造装置メーカーとして、AI相場の主役の1社となっています。改めてこれまでの足跡と、現状についての率直な思いをお話しください。
まず初めにお話ししたいのは、私たちは基本的に世界の半導体産業を支えている黒子的な存在だということです。もちろん、株式市場での評価が高まり、注目されるのは嬉しいことですが、私たち経営陣を含めて社員もみな、顧客企業のために「こつこつとまじめに」良い製品、良いソリューションを供給していくことが最も大切なことだと考えていますし、現在の地位を築けたのもその姿勢を続けてきた結果だと思っています。
そもそも当社は72年前の1954年に、創業者の武田郁夫が仲間とともに立ち上げた電子計測器メーカーが原点で、70年代に半導体テストシステム事業に進出しました。その後、日本の大手電機メーカーが開発する半導体向けの需要が急拡大し、テストシステム事業が主力となりましたが、創業当時から独自技術へのこだわりが強く、そのマインドは現在の当社にも受け継がれています。
いま、当社では海外の売上高比率が98%を占めるようになっています。90年代後半以降、日本の顧客のみならず、グローバルに半導体を手掛ける顧客へ顧客基盤を拡大するために必死で取り組んできた結果、台湾や韓国、米国など海外の顧客が増えていったのです。
大きな転機となったのは、ノン・メモリーの分野に進出したことです。90年代までの当社の顧客は、DRAMやNANDなどのメモリー半導体メーカーが主体でしたが、2000年代になって、CPU(中央演算処理装置)、GPU(画像処理半導体)などのロジック半導体とメモリー半導体を1枚のチップに組み込むシステム・オン・チップ(SoC)技術が確立され、そのテストニーズが高まっていきました。
そこで当社は03年、SoC半導体向けに「T2000」というテスターを開発しました。これは、独立した部品を組み合わせる「モジュール・アーキテクチャー」という設計思想を採用したものです。その後、スマートフォンの普及により、SoCがさらに複雑・高度化する中で、11年に半導体テスター大手だった米国企業、ベリジーを買収し、同社の主力製品だった「V93000」シリーズを当社の製品ラインアップに加えました。これらのSoC向けの製品が、テスター分野で世界シェア・トップとなる原動力になったのです。
●大量生産の時代から複雑性の時代へと進化した半導体産業
──貴社は2015年以降、ほぼ右肩上がりで業績が拡大していますが、現在の姿へ向けての事業転換が行われたのがこの頃だったわけですね。
そうですね。これまでの半導体の歴史を振り返ってみると、スマートフォンの普及期までは、スケールを追求した大量生産の時代でした。「ムーアの法則」で知られるとおり、半導体の微細化を進め、より安く大量の製品をつくることが、進化の方向性だと考えられていたのです。
当社もこうした半導体の大量生産の恩恵を受けたことは確かですが、当時と現在では、半導体製造の概念が様変わりしています。以前、顧客企業からよく言われていたのは「テストはコストだ」という言葉です。大量生産を開始する段階では必要だが、一度、大量生産技術が確立されてしまえばテストは不要になる。特に当社が1990年代から主力としていたメモリー半導体の分野では、そうしたサイクルから逃れられず、どうしても業績の浮き沈みが生まれていました。
翻って現在の半導体産業は、「大量生産の時代」から「複雑性の時代」を迎えています。2010年代に入り、台湾積体電路製造(TSMC)<TSM>の躍進もあって、インテル<INTC>などのIDM(垂直統合型メーカー)に代わって、ファブレス・メーカー、ファウンドリー(半導体受託製造)、OSAT(後工程請負メーカー)などの水平分業型の製造システムが定着。半導体製造のエコシステムが大きく変わったのです。
最近改めて考えたのですが、複数ある半導体製造装置メーカーと当社では大きく異なることが一つあります。それは、取引している顧客の数です。例えば半導体の前工程に製品を提供している日本の大手半導体製造装置メーカーの顧客数は、おそらく2桁前半ほどではないでしょうか。
──確かに実際に半導体を製造している主要企業は世界でも限られていますよね。
ところが当社の顧客企業は、数百社にのぼります。ファブレスやファウンドリー、OSATはもちろん、設計・評価向け用途やウェハーからパッケージ品の試験工程など、細かい工程を含めて半導体製造において、要所要所で品質保証に関わる多くの企業が、当社のテスターを利用しています。
AIの開発競争が進む現在では、エヌビディア<NVDA>やTSMCのような超大手企業だけではなく、半導体の様々な工程で数限りないスタートアップ企業が次々に現れています。かつての大量生産の時代とは異なり、データセンターや自動運転、宇宙開発など半導体の用途が広がり続けているからです。
その点、「V93000」シリーズは、次々に現れるニーズに応じて活用できる設計になっていて、テストシステム内のモジュールを入れ替えることで、様々な用途向けにカスタマイズが可能となっています。これまで2度のプラットフォームとしての世代交代を経て、1万台を超える累計出荷台数となっていますが、AI時代を迎えて複雑化する半導体製造のエコシステムに必要不可欠な装置として、今後もますます需要が増えていくと考えています。
●株式マーケットの期待には「気合を入れて」応えたい
──SoCテスターがAI関連の半導体の需要拡大にマッチしたことが近年の貴社の急成長を支えているということですね。では次に現在の事業の進捗について。2027年3月期を最終年度とした第3期中期経営計画の経営指標は、前倒しで大幅に上振れて達成する見込みである一方、今期のガイダンス(業績予想)が保守的だと株式市場からは厳しい評価も出ています。
当社は19年3月期に初めて、10年間の中長期経営方針「グランドデザイン」を策定しました。その最終プロセスとして、3年ごとの中期経営計画を準備していたのですが、当初のプランは明らかに私たちの"読み"が外れました(笑)。
当初、掲げていたのは、28年3月期に4000億円の売上高を目指す、というものでした。18年3月期の2000億円程度だった売上高を10年で倍にしようという計画です。ところがコロナ禍を経て現在のAIブームまで、社会の変化が私たちの想像をはるかに超えていた。
株式市場での評価については、期待していただくことは嬉しいですし、私たち経営陣としては、一層「気合を入れなければならない」と感じていることは事実です。とは言え、本来の企業価値というのは、目先の株価で測れるような単純なものではないはずです。ですから私たちとしては、目先の株価を追うこと以上に、長期的にどうやったら当社の価値を最大化できるかというところに焦点を当てて、緊張感を持って経営していきたいと考えています。
強調したいのは、AI革命はまだ始まったばかりだということです。半導体も歴史が始まってまだ70年、AI関連の半導体の本格的な進化はこれからです。実際、これまで70年かけて進化してきた半導体が、生成AIが誕生して以降の数年間で、同じぐらいの劇的な進化を遂げつつあります。
背景にあるのは、半導体の潜在的な市場規模の変化です。これまではパソコンやスマートフォンなど端末の利用者数に応じてアップサイド(伸びしろ)が決まっていました。ところがAIの時代になり、人間が介在しなくてもAI同士が膨大なデータをやり取りするようになった。人間の数とは比例せず、半導体の需要が拡大し続ける時代に突入したのです。
●光半導体への準備は万全、独自IPでさらなるシェア拡大目指す
──今後の投資計画についてはいかがでしょう。次世代技術、光半導体への対応も進めているとのことですが。
光技術の開発に関しては当社の取り組みは早く、1980年代から開始し、半導体に応用する技術の研究も2000年代から20年ほど続けてきています。いつか訪れるだろう光技術を使ったイノベーションの大波に、いつでも対応できるよう準備を進めていたのです。
半導体業界では、かつても何度か、光技術がクローズアップされたことがありましたが、これまではコストの問題がネックとなって本格的な普及には至りませんでした。ところが現在は、「AI社会を実現するためにはエネルギー不足がボトルネックで、それを解決するには光技術を活用するしかない」ということを誰もが認めるようになっています。
そんな中、先日、AIデータセンターに採用が期待されるシリコンフォトニクス向けで、大規模量産用途としての半導体テスター初受注を獲得しました。これまで準備してきた当社の光技術のノウハウが、ようやく発揮できる局面が訪れたのではないかと感じています。
投資計画については、今年度のSoCテスターの生産能力を前年比で60~70%増強することを発表していますが、他の製造装置メーカーのような、新たな工場を建設するといったフィジカルな投資ではありません。外部への組み立て委託などを含めたサプライチェーン全体で、テスターの生産能力増強や当社が提供するテストソリューションを強化していくための投資を行うという位置づけです。
直近では、26年中に米国にイノベーション拠点を設置するのに加え、アプライド・マテリアルズ<AMAT>と業界横断的な協働の取り組みとして戦略的パートナーシップも発表しました。また、27年には埼玉県の大宮で、新たな研究開発拠点となる「Omiya Tech Hub(大宮テックハブ)」の開設も計画しています。
──ところで、貴社にとっての唯一のライバル、業界2位のテラダイン<TER>の存在はどのように意識していますか。
競合企業については、当社からコメントする立場にはないのですが、当社はこの2年間で世界のテスター市場におけるシェアを伸ばすことができました。23年の58%から直近25年で65%までシェアを拡大させることができたと推測しています。この数字自体はすでに過去のものですが、シェアは顧客企業からの信頼を示す重要な指標ですから、今後も意識して取り組みたいと考えています。
他社に対する優位性という点では、分かりやすい一例として、当社ではテスターの新製品開発において、テスターに採用する半導体を自社開発していることが挙げられます。いま、特定用途向けの半導体、ASICが注目されるようになっていますが、当社の半導体は、言ってみればテストに特化して開発されたASICなのです。これは当社だけのIP(知的財産)で、他社では容易には真似ができません。
加えて先ほど話したとおり、私たちはほぼすべての半導体製造に関わる企業にアクセスすることができる立場にあります。これまでに築いてきた信用をもとに、今後も顧客企業の要望に応える努力を続けていけば、市場全体が伸び続ける中で、さらにシェア拡大を目指していけると考えています。
●AI時代のテスターは新たな価値を生み出すために不可欠な存在に
──貴社の海外売り上げ構成比を見ると、台湾が圧倒的なトップで、韓国と中国が続いています。いま、"中国リスク"が市場で意識されていますが、それに対する津久井社長の率直な見解をお願いします。
はっきり言えるのは、中国は今後も間違いなく重要な市場だということです。現在は全社の売り上げに対する比率が20%前後で推移していますが、中国国内にはメモリー半導体やSoCメーカーなどが数多くあって、ものすごい勢いで成長しています。短期的には地政学的リスクも考慮しなければなりませんが、確かなことは、中国には当社の技術を求めている企業が数多く存在するということです。
これは何も中国に限った話ではなく、日本を含めたアジアの国々や、世界中の国々にも言えることです。当社の決算では地域別の売り上げを発表していますが、実際には事業を行うに当たって、特に国や地域は意識していません。我々の技術や製品を求める企業があるところが市場であり、私たちの務めは、そうした企業の期待に応える努力を続けていくことですから。
──最後に今後の事業の展望について。中長期的な視点で、現段階で思い描くAIイノベーションの将来像と、その中での貴社の方向性についてお話しください。
かつての「テストはコスト」と言われた状況は一変し、「テストは新たな価値を生み出すために必要不可欠なもの」という認識が広がってきています。そんな中で当社の方向性は、単に装置を販売するのではなく、テスト結果を踏まえたデータ解析など、より良い半導体を生み出すためのトータルなソリューションとしてのサービスを強化していくことだと考えています。
AIの時代になって、これまでメモリーとSoCで分かれていた顧客企業の垣根がなくなっています。当社が長年培ってきた両分野の技術を融合させれば、新たな価値を提供できるでしょうし、さらにここに光技術も加わってくる。必然的に当社の担うべき役割も拡大していくはずです。
いずれにせよ、AIイノベーションはまだ始まったばかりで、半導体の進化もこれからさらに加速していきます。当社としてはこれまで70年強の歴史で培った技術力とソリューション力をもとに、そうした時代の変化に対応し、これまで以上に社会に貢献するよう努力し続けたいと考えています。
◇津久井幸一(つくい・こういち)
株式会社アドバンテスト 代表取締役社長・Group COO(最高執行責任者)。1964年生まれ。87年、群馬大学卒業後、アドバンテストに入社。電子計測および半導体試験装置の設計・研究開発に従事後、98年、ドイツ子会社出向を経て、2014年、執行役員に就任。23年1月に代表取締役副社長に就任、24年4月より現職となり、代表取締役Group CEO(最高経営責任者)のダグラス・ラフィーバ氏とともにツートップ体制で、同社の躍進をけん引している。
株探ニュース