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武者陵司「米の熱い高市支援、ドル円レートの天井が見えた」

市況
2026年8月4日 10時30分

―骨太方針批判も霧消する―

◇協調介入は過去、為替トレンドを転換させてきた。今回の日米協調介入も成功し、ドル円レートは1ドル=160円のシーリング(上限)が形成される可能性が強い。

◇ただし、今回の介入は非合理的投機に対してなされたもので、日米とも為替トレンドの転換を望んではいない。米国はドル高で米国への資金流入が続き、長期金利が抑制され続けることが必要である。日本は円安維持により、競争力強化・投資拡大・健全なインフレの持続が必要である。

◇円安が止まれば、利上げの必要性も消え、日本の長期金利も3%弱で安定するだろう。「骨太ショック説(=骨太の方針が円安と金利上昇という国難を引き起こしているとの批判)」は成り立たなくなる。食料品の消費税1%への引き下げなど、高市政権の積極的経済政策は、格段にやりやすくなるだろう。米国の協調介入は、高市政権への大いなる支援となるだろう。

●意外性ある円安阻止の日米協調介入

先週央に1ドル=163.9円まで急伸していたドル円レートは、7月30日[木]22時過ぎから急落し、NY市場の週末値(日本時間8月1日[土]6時)には157.61円となった。日本政府・日銀のドル売り・円買い介入に合わせ、米国当局もユーロ売り・円買いの介入に踏み切った模様である。7月30日の介入規模は6~7兆円と見られている。4月末~5月末の介入実績は11.7兆円、合計18兆円に達し、過去最高の24年の15.3兆円を上回る。

●米国の熱い高市政権支援

三村淳財務官は7月31日に「米当局からは単なる精神的支援を超える支援を得ている」と記者団に語った。異例なことに、米財務省は介入を事前通知し、ベッセント財務長官の介入指示メモを拡散し、米国の本気度を伝えた。

しかし、より重要なのは「8月1日未明に財務省が日本政府が持つ米国債を担保に米通貨当局からドル資金を調達する手段があるとX(旧ツイッター)に投稿した」(8月2日付日本経済新聞)ことである。日本経済新聞は「円買い・ドル売り介入の原資に限りがあるとの市場の見方を否定し、介入効果の持続力を高めることを狙った」と論評している。これを脅しと捉える見方である。しかし、脅しが効くかどうかは、実際に実弾投入の覚悟があるかどうかにかかっている。外国政府の為替介入資金を米国当局が供給する、つまり米国の金融政策の割当先として日本の為替政策を対象に含め得ると米国側が約束したとすれば、これは大変な決意である。

それが事実だとすれば、米国側は日本の為替介入に対して絶大な支援をしていると解釈できる。三村財務官の「米当局からは単なる精神的支援を超える支援を得ている」との発言は、深遠な意味を持っていると言える。それは単に為替にとどまらず、高市政権に対する熱い連帯感に支えられているのだろう。日本経済新聞の河浪武史ワシントン支局長は「大規模減税策で金利急騰を引き起こした『トラス・ショック』。米当局は高市政権の積極財政路線にも不安を抱える」(8月2日付日本経済新聞)と論評するが、それは拡大解釈であろう。

●ドル円相場の天井圏が明示された

このように日米政府の堅い決意が明確になった以上、ドル円レートのシーリングが形成されつつある、と考えられる。過去、協調介入は長期トレンドの転換点であった。過去にG7の協調介入は6回あった。すなわち、1)1985年9月プラザ合意(ドル高修正)、2)1987年2月のルーブル合意(過度のドル安是正)、3)1995年4月の円高阻止、4)1998年6月の円安是正、5)2000年9月のユーロ安阻止、6)2011年3月の大震災直後の円高阻止の協調介入である。6)を除き、いずれも協調介入は為替の長期トレンドの転換点となった。今回もそうなる可能性が強い。(「※注」を参照)

なぜ、これまで協調介入がピンポイントでトレンド転換を果たしたのか。それはいずれの局面でも投機の進行が、各国国益とファンダメンタルズ・経済合理性に相反していたからであり、その都度、投機筋は敗退した。今回も、(A)円が購買力平価に対して著しく安い、(B)日米金利差が顕著に縮小している、(C)日本経済・企業収益・株価は上昇トレンドにある、(D)日本には1.2兆ドルの米国国債保有をはじめ潤沢な介入資金がある、など介入はファンダメンタルズと経済合理性に合致している。円売り投機は急速にしぼんでいくだろう。その過程で高市政権の成長戦略が円安と金利上昇を引き起こしたという「骨太ショック」説が成り立たなくなり、政策批判は衰えていく。

●ドル高円安基調の維持が日米両国の国益であることに変わりはない

ただし、長期ドル高トレンドは崩れていない。米国の国益は依然強いドルにある。今回の介入はドル円の水準押し下げを狙ったものではなく、シーリング以上の円安を抑えるためになされた。一定程度、例えば1ドル=145円を超える円高ドル安は、日米の国益を削ぐ。日本については対外競争力を弱め、ようやく立ち上がり始めた国内投資を抑制し、デフレ圧力を復活させる。米国については輸入物価を押し上げ、米国金利を上昇させ、景気を減速させる。この観点から円高圧力を強め過ぎない金融財政政策が望ましい。利上げを抑制し、消費税減税で傷んだ家計を手当てする高市政権の高圧経済政策は、米国からの支援により進めやすくなったと言えるだろう。

(※注)2011年3月18日の協調介入のみ、円安トレンドを転換させることができなかった。天災とそれによるリパトリ(海外資産の国内還流)という困難があったにせよ、最大の責任は日銀にある。当時、総裁の任にあった白川方明氏はいろいろ言い訳しているが、十分な金融緩和姿勢により円を減価させるという強いメッセージを打ち出せず、円高投機筋を撃退できなかった。この2年間の円高継続で日本は珠玉の産業・企業を多く失った。

当時の事情は以下のレポートを参照されたい。

投資ストラテジーの焦点292号(2011年3月22日)「G7協調介入の意義、長期円高の終着点」

ストラテジーブレティン76号(2012年8月2日)「量的緩和で為替主権を主張せよ」

ストラテジーブレティン77号(2012年9月3日)「半導体の壊滅から日本は何を学ぶか~日銀、政府は産業の慟哭が聞こえるか~」

(2026年8月3日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン405号」を転載)

株探ニュース

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