問題アリ企業の立ち直りに勝機、東証改革の狙いどころ
トランプ、トレンド、TOPIX~3つの「T」の行方を読む~TOPIX改革編
森下千鶴 ニッセイ基礎研究所 研究員に聞く~最終回
三菱食品<7451>など |
・前回記事「プライム上場でも安泰でない、新TOPIXのボーダーライン銘柄は?」を読む
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この記事を読む3つのポイント |
1. TOPIX改革と並行して進める東証改革の概要 |
2. 東証改革全般を見据えた投資戦略 |
3. TOB、MBOが起こりやすい企業の共通点 |
ニッセイ基礎研究所の森下千鶴さんは、前回の記事で、2026年秋から稼働する新TOPIXのインパクトをこう分析した。
新TOPIXの採用においては、時価総額や売買代金といった形式的な基準に適合することは必須だ。ただし、そこには企業価値の向上に本気で取り組む姿勢が問われており、むしろ形式よりも実質、数字よりも姿勢を重視するのが新TOPIXの本質といえる。
このTOPIX改革を含め、東証は2022年4月に実施した「市場区分の再編」を契機に、さまざまな改革に取り組んでいる。
最終回は、東証改革の進捗状況や、一連の改革の内容を投資に生かすポイントなどを、森下さんに聞いた。
(聞き手は真弓重孝/株探編集部、福島由恵/ライター)

ニッセイ基礎研究所 金融研究部研究員。資産運用会社でトレーダー経験を積んだ後、2015年に現研究所に入社。20年より現職。コーポレートガバナンス・コードの導入や取引所の市場構造の見直し等、株式市場を中心とする制度変更が市場や企業経営に与える影響について調査・分析し、情報発信を行う。
注視したい「資本コスト等を意識した経営」
――前回の新TOPIXの導入など、東証は22年4月に実施した「市場区分の再編」からさまざまな改革を実施してきています。これらの改革は途上ですが、市場からは評価されていると見ていますか。
森下千鶴さん(以下、森下): 上場企業に、これまでよりも企業価値の向上を促す機会を設けてきているという面では、一定の評価は得られているのではないでしょうか。
TOPIXを含む東証の改革を整理すると、以下の図のように2つなります。1つは市場区分の見直しという、いわば形式的な部分と、もう1つは、企業価値の向上という実質的な部分です。
どちらも相互に関係し、市場区分やTOPIXの見直しにも流動性の向上などを通じて企業価値の向上につながり、企業価値向上策の取り組みが強化されることで形式的な基準をより上回っていく好循環が期待できます。
■東証改革の全体的な流れ
注:東証資料等を基に『株探プレミアム』編集部作成
進捗状況を毎年開示
――「企業価値の向上」という実質の追求では、東証が23年春に要請した「資本コスト等を意識した経営」は、その大きな柱になります。おさらいですが、これらはどのような取り組みになるのですか?
森下: 東証は、プライム市場とスタンダード市場の2つの区分の上場企業に対しては、
①現状分析
②計画策定・開示
③取り組みの実行
――の3つについて、進捗状況を分析し、開示内容を毎年アップデートすることを求めています。
■「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請内容
項目 | 具体的内容 |
①現状分析 | 資本コストや収益性を把握 |
上記の内容や市場評価を分析・評価 | |
②計画策定・開示 | 改善への目標・計画等を検討・策定 |
現状評価と合わせて投資家に開示 | |
③取り組みの実行 | 計画に基づいた経営を推進 |
投資家との積極的な対話を実施 |
お手本企業とイマイチ企業の事例を公表
――こうした定性的な内容の優劣を判断するのは、難しい面があります。
森下: 東証は当初、開示企業の数を増やすことに注力していた印象があります。それが最近は、企業の取り組みの中身や本気度を重視し始め、「量から質へ」の評価に軸足が移るステージに入ってきたと思います。
その象徴として、24年2月にお手本となる取り組みをする企業を実名入りで公表し、その好事例も紹介しています。わかりやすい一例として、
「経営陣・取締役会が主体的かつ積極的に関与する」という項目では、
「株主・投資者の属性に応じたアプローチを行う」では、
SHIFT<3697>が紹介されています。
24年11月には、逆に改善が不十分な企業についても、実名を伏せて公表しています。
■投資家の求める企業価値向上に向け、お手本として紹介された例
銘柄名 <コード> | 評価のポイント | 取り組み例 |
三菱食品 <7451> | 投資家視点から資本コスト抑制 | 投資家の期待リターンを把握し、目標を設定 |
ヒビノ <2469> | 資本コスト低減の意識を持つ | IRなど非財務の取り組みを通じ株主資本コスト抑制 |
旭化成 <3407> | 中長期的に目指す取り組みを説明 | PBR改善策など経営者とのQ&A形式で説明 |
三菱商事 <8058> | 投資家との対話に 経営陣等が主体的に関与 | 株主・投資家との対話強化に向け責任者を設置 |
部門横断的な社内体制を構築 | ||
SHIFT <3697> | 株主・投資家の属性に 応じたアプローチ | スモールミーティングを積極的に開催 |
優良な長期保有投資家を中心に対話を実施 |
お手本企業の株価は良好
――東証の要請に応えて開示をした企業の株価の反応は?
森下: 東証によれば、お手本企業のパフォーマンスは、未開示や検討中より良好です。
プライム市場においては、3~3.5倍、
スタンダード市場においては、5~8倍と、
――となっています。具体的には以下のようになります(小数点第1位を四捨五入)。計測期間は、23年3月末~24年9月末です。
プライム市場では、
1. お手本 +50%
2. 開示済 +28%
3. 検討中 +14%
4. 未開示 +14%
スタンダード市場では、
1. お手本 +82%
2. 開示済 +21%
3. 検討中 +16%
4. 未開示 +10%
これらの結果は、企業価値向上への取り組みを公表している企業の株価は評価されやすく、反対の企業はその逆となっていることを示しています。
東証の公表内容を生かす方策
――こうした結果を踏まえて、投資家に投資チャンスがあるとしたら、どのような場面でしょうか。
※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。
株探ニュース