大相場の足音――「パワー半導体関連」仕込み場のワケ <株探トップ特集>
―EV新時代とその先にある成長市場、“望外の安値”はここに―
米国株市場を震源地とする世界株波乱も目先的には落ち着きを取り戻し、業績面から売られ過ぎた銘柄やテーマ物色の枠から転げ落ちた銘柄に仕切り直しの買いが入り始めた。まだ予断は許さない状況にはあるが、リスクオフの大波に浚われる形で値を下げた銘柄は、望外の安値で拾える状況が提供されている。
●“米国主導”の半導体セクター大出直り相場に
米国では直近、アプライドマテリアルズやインテル、エヌビディアなど半導体関連株が急速に切り返し歩調にあり、半導体銘柄で構成されるフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)も底入れ反転の動きが鮮明だ。日本では外国為替市場で進むドル安・円高が輸出セクターに重荷となっているが、今週に入って東京エレクトロン <8035> を筆頭にアドバンテスト <6857> 、SCREENホールディングス <7735> といった半導体製造装置 メーカーや、信越化学工業 <4063> 、SUMCO <3436> など半導体材料メーカーに投資資金の再流入が観測されている。
2月前半の波乱相場で大きく売り込まれた半導体関連株は、「リスク・パリティ」などボラティリティ低下を主眼に置いたファンドのリスク量調整の機械的な売りが想定外の下げにつながった側面も否定できない。その売りも足もとは出尽くした感があり、リスクオフの巻き戻し局面では株価に浮揚力が働く可能性を念頭に置きたい。為替市場を横にらみの展開ながら、今の株式市場では総じて輸出株は円高抵抗力を発揮している。ここから1ドル=105円台を大きく下回るようなドル売りの動きは考えにくく、半導体関連は追撃買いで対処して報われそうだ。
●パワー半導体の成長に勢い、市場は3兆円超えへ
半導体関連として代表的なのはメモリー市場だが、それ以外では近年急速に成長過程にある「パワー半導体 」市場が注目されている。パワー半導体とは、交流を直流に変えたり電圧を下げるといった、電気エネルギーの変換や制御に使われる半導体のことで、高電圧や強力な電流を扱うことが可能。また電力ロスの少ない形で変換できるのが強みで、鉄道車両などの産業用途からエアコンなどの家電レベルまでその用途は非常に幅広い。
また今後は、環境規制の高まりから世界的に普及加速の兆しにある電気自動車(EV)向けで需要が急速に伸びてくる公算が大きい。EV向け以外でも、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギー分野で需要があり、市場規模は早晩3兆円を超えてくると試算されている。そうしたなか、株式市場でも徐々にテーマ物色の流れが強まってきた。
パワー半導体を形成する材料で主流となっているのはシリコンウエハー を使用したものだ。しかし、シリコンウエハーの薄化を進める過程において電圧の負荷で壊れてしまうなどの開発面での限界も見えてきた。近年はシリコンよりも耐圧、高速・高温動作などで優位性を持つ炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を使用した次世代パワー半導体の実用化が進められている。特に、鉄道車両用インバーター装置向けなどをはじめ耐圧1キロボルトを上回る高耐圧用途ではSiC製品の需要が喚起される可能性が高く、現状も国内外の大手メーカーによるSiCパワー半導体の量産に取り組む動きが目立っている。
●富士電機、三菱電を中軸に動き活発化
国内メーカーで世界的にも上位の実力を持つのが富士電機 <6504> や三菱電機 <6503> など重電大手だ。
富士電機は18年3月期営業利益について期初予想から2度にわたる上方修正を行い、前期比18.5%増の530億円見通しと好調だが、これは産業分野向けパワー半導体の売り上げ拡大も反映されている。産業機械以外にも家電や車載など幅広い分野でパワー半導体の需要は増勢一途にあり、同社では今・来年度合わせて総額500億円近くを投下して半導体分野の生産能力を増強、2023年度にはパワー半導体の売り上げを前期実績比5割増の1500億円規模にする計画にある。
また、三菱電機はSiCパワー半導体のモジュールを開発して既に産業用や家電用に供給している。同社は1月末にSiCパワー半導体で出力密度が世界最大の素子を開発したことを発表して業界の耳目を集めた。今後は成長マーケットであるEV向けを強化して同分野を収益の柱のひとつに育成していく構えだ。
●トヨタグループのEV戦略も需要を喚起
EVといえばトヨタグループの存在は大きい。トヨタ自動車 <7203> は30年までにEVなどゼロ・エミッション・カーを100万台以上販売する計画のもと、それに使う車載電池の開発や生産におよそ1兆5000億円という巨額の資金を投入、その前段階として25年頃までにエンジン車のみの車種をゼロにすることを発表している。
これに歩調を合わせるのが同グループのデンソー <6902> だ。同社はEVなどに搭載する次世代パワー半導体の素材に使用する「コランダム構造酸化ガリウム」を共同開発する目的で、京大発ベンチャー企業に投資するなど積極的。次世代パワー半導体分野を深耕してEV用インバーターの小型軽量化に向けた布石を打っている。
●ディスコなど半導体製造装置メーカーも虎視眈々
一方、半導体製造装置メーカーではディスコ <6146> がパワー半導体ウエハーの製造効率を従来比1.5倍に高めたレーザー加工装置(カプラ・プロセス)を開発している。SiCの結晶をレーザーでスライスする独自技術を駆使したもので、20年までに50億円の売り上げを目指す方針が伝わっている。
また、半導体製造装置業界トップの東京エレクトロンはSiC基板向け成膜装置を展開している。ドイツのインフィニオン社を筆頭に世界のパワー半導体メーカーに納入しており、今後の業績への寄与が期待されている。
●ここから要注目の5銘柄は?
パワー半導体分野はEVの普及と合わせ市場が急拡大していく可能性を秘める。そしてメモリー市場とは違って、日本企業が世界においても技術やシェアで先行する、いわば自分たちの土俵といってもいい分野だ。株価的にもあまり織り込まれていない評価不足の関連銘柄が多く、要注目となる。
【三社電機はパナソニックと連携で活躍余地大】
そのなか、パワー半導体技術と電源機器技術の融合で業界のニーズを捉えているのが三社電機製作所 <6882> [東証2]だ。パワー半導体の活況を受けウエハーチップなども伸びており、18年3月期は営業利益段階で前期比5.4倍の12億円を見込む。同社の筆頭株主は、米テスラやトヨタと連携するパナソニック <6752> ということもあり、EV用で中期的にビジネスチャンスを捉えていく公算が大きい。
【芝浦メカはニューフレアとの連合で株価変貌も】
芝浦メカトロニクス <6590> もここから大きく株価の居どころを変える可能性がありマークしたい。親会社の東芝 <6502> [東証2]が芝浦メカ株式を信越系企業およびニューフレアテクノロジー <6256> [JQ]に売却、保有株を10%に低めることが最終的に決まっており、既に株式需給面での懸念が解消されていることは大きい。ニューフレアとはパワー半導体向け成膜装置などの分野でも協業していくことが見込まれ、芝浦メカの半導体前工程での実力と融合してビジネスチャンスが開拓されていく可能性が高い。18年3月期営業利益は前期比47%増の22億円を見込む。
【独自技術で開発に傾注するオリジン電も仕込み場】
オリジン電気 <6513> も株価的に調整後の出直り一服場面にあり、狙い目となる。電源機器メーカー大手で合成樹脂塗料も手掛ける。また、車載向けタッチパネル貼合装置などで新展開を図っている。独自の高技術力を背景に、半導体デバイス関連では高速・高耐圧・低損失・複合化を技術目標とするパワー半導体の開発に傾注することを標榜している。
【パワー半導体屈指のサンケンは評価不足歴然】
屈指のパワー半導体メーカーであるサンケン電気 <6707> も評価不足といえる。電機業界や自動車業界向け中心に高い実績を持ち、次世代パワー半導体では1990年代からSiCやGaNの開発に着手、5年前からSiC製品の量産に動くなど業界を先駆している。18年3月期は営業利益段階で前期比7割増の100億円を見込んでいる。
【世界初の酸化Ga型開発のタムラ製は安値買い】
さらに、直近大きく水準を切り下げたタムラ製作所 <6768> も安値買いのチャンスとなっている。同社は半導体開発のベンチャー企業と共同で、世界で初めて酸化ガリウム製のトランジスタ開発に成功している。シリコン製の半導体素子と比較して消費電力を最大1000分の1に削減できるという画期的なものだ。22年にもトランジスタの量産開始を目標に置いており、近い将来、同社の成長期待が一気に膨らんでくる可能性がある。
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