中村潤一の相場スクランブル 「AI・ブロックチェーン関連株 次の狙い筋」

市況
2018年4月25日 19時00分

minkabu PRESS編集部 株式情報担当編集長 中村潤一

投資家にとって株価が10倍化するような銘柄を発掘する、いわゆるテンバガー銘柄を掌中に収めることはひとつの夢ともいえます。しかし、株式公開するや否やわずか3日でテンバガーを実現するというのは、ただ驚くよりほかありません。

前週末20日、マザーズに鳴り物入りで登場した人工知能(AI)ベンチャーのHEROZ <4382> [東証M]は、2営業日にわたり値がつかないまま水準を切り上げ、上場3日目となる前日(24日)に公開価格4500円の約11倍となる4万9000円で初値を形成するという離れ業を成し遂げました。生まれた時点でテンバガー超えというのは過去には例のなかったことで、かつてITバブル時の1999年に人気が過熱したエムティーアイ <9438> ですら初値は公開価格比約9倍止まりでした。

●満つれば則ち覆る、勢いが強いほど反動も大きい

しかしながら株の世界では、満つれば則ち覆る、というのが摂理。行き過ぎた振り子はその勢いが強ければ強いほど、反動も大きくなります。踵(きびす)を返して反落に転じた株価がどのタイミングでリバウンドして、どういった水準に収斂(しゅうれん)していくのか、ここからの一連の流れを外側から冷静に見ておくことも、株式投資の需給を学ぶうえで良い教材になると思います。

仮に初値が大天井だったとしてもHEROZに瑕疵はありません。株価形成はマーケットに委ねられたもので、それだけ投資家の琴線に触れる魅力があったということの証左には違いないのです。

同社が手掛ける「将棋ウォーズ」は日本将棋連盟公認のドル箱アプリで、ダウンロード数380万以上という圧倒的な支持を集め、そこでは初心者クラスからプロレベル(純粋にプロ棋士も含む)にわたる幅広い層が日々対戦を楽しんでいる状況です。かくいう私も利用経験があるのですが、この将棋ウォーズのアイテム課金である「Kishin(棋神)」がAIの化身のような存在であり、利用者は“棋神”に指し手を代行してもらい勝利に導いてもらうというシステムが特徴的。そして、この“棋神”こそが同社に組み込まれたDNAをそのまま反映しているようなところがあります。

●ディープマインド「アルファ碁」の残像

HEROZが本当にAI関連のシンボルストックのような位置づけが妥当かどうかは置くとして、少なくとも昨年行われた「第2期 電王戦」で佐藤天彦名人を凌駕した将棋ソフト「Ponanza(ポナンザ)」の強さは、世間に大きな衝撃を与えたことは確かです。実際のところ、佐藤名人との対戦が実現する以前の段階で、既に人類はポナンザに勝てないという認識が関係者には浸透していたと思われますが、電王戦ではそのポナンザの勝ち方もある意味圧巻といってよいものでした。初手から人間の常識を完全否定するような指し手を示し、佐藤名人でなくとも天を仰いでしまうような異質の強さで、その内容に驚かされたのです。

グーグル傘下のディープマインドが開発した「アルファ碁」が今から2年前に世界屈指の棋士であった李世ドル(イ・セドル)氏との5番勝負で大勝、これが世界的なAI関連株人気の起点となりました。マーケットにはこの時の記憶が深く刻まれており、HEROZの出足の爆発的人気は、ディープマインドと重ね合わせたイメージがもたらした産物ともいえるでしょう。

こうしている間にも、AIが人類の英知の総和を超えるというシンギュラリティに向けて時計の針は確実に進んでいます。株式市場でもAIをテーマとした物色人気が波状的に続いていますが、理想買いから現実買いステージへの渡り廊下は思った以上に短いと考えています。

●決算発表佳境入りで相場の方向性確認へ

米国企業の後を追う形で国内企業の決算発表がいよいよ本格化してきます。今週末4月27日に300社前後が予定されており、ゴールデンウイーク(GW)突入を前に最初のヤマ場が訪れます。そしてGW明け後の5月7日~11日の週に集中的に開示され、特に11日は800社以上に達する見込み。この決算発表ラッシュは翌週14、15日まで続き15日に400社近くが発表して、ほぼ出そろう感じとなります。

東京エレクトロン <8035> やアドバンテスト <6857> といった半導体関連や、村田製作所 <6981> 、富士通 <6702> といった主力電機株の決算は今週GW前に発表、そして製造業の盟主トヨタ自動車 <7203> はGW明け後の5月9日に予定。この時点で為替の影響がどの程度、企業の19年3月期業績のガイダンスリスクに反映されるかが見極められる格好となります。為替は当初1ドル=107円前後をキープできれば全体で増益は確保できるという見方だったものが、現状では105円程度でも5~7%程度の増益が試算されるとの見方が支配的となっており、意外に日本企業の円高に対する耐性は強いというコンセンサスが出来上がりつつあります。

株価の位置によりけりとは思いますが、全体観としては仮に当該企業が控えめな予想数字を開示しても、株価面では実勢の為替と想定為替レートを見比べて狼狽的な売りが回避されるケースも考えられます。最近の空気の変化をマーケットはポジティブに織り込んで“大人の対応”を見せる可能性は十分にあると思います。

●日米金利差を背景とした円安進行は追い風材料

今週末4月27日は決算発表が集中するだけではなく、日銀の金融政策決定会合の結果と黒田総裁の会見、さらに南北首脳会談が重なるスペシャルデー。ここで歯車が順回転して首尾よくリスクオンムードが形成されるのか否か固唾を呑んで見守る場面。GWを挟んで相場の中期トレンドにも方向性を与えるひとつの分岐点となりそうです。

今の相場を取り巻く環境として最大の注目ポイントに挙げられているのが、米長期金利の動向です。米10年債利回りはついに3%台に乗せ、4年3ヵ月ぶりの水準まで上昇、米株市場を不安定にさせるだけでなく、世界的な金利上昇圧力も指摘されています。とはいえ、日本では日銀が金融緩和姿勢の継続に改めてその重要性を説いており、イールドカーブ・コントロールで長期金利のゼロ%近傍の水準が担保されていることから、日米金利差を背景としたドル円・相場の円安進行を中期シナリオとして描ける局面にあります。

●GW明け後の株式市場は上値慕いの展開を予想

中間選挙を控えたトランプ政権の政治的な思惑が、為替相場の一筋縄ではいかない環境を作り出していることは以前に述べた通りですが、フシ目の3%超えのインパクトは大きく、今は米金利上昇→円安の図式が再び意識される流れにあるようです。企業の19年3月期業績へのプラスの思惑がGW明け後の相場に反映される形で、東京市場も上値を慕う動きを徐々に強めていくのではないかと個人的には考えています。

ただし、米10年債利回りの動向については注意深くウォッチしていく必要があります。現在の金利上昇は賃金インフレではなく原油市況高による部分が大きく、3%前後であれば好調な米国経済のBGMとして許容される感がありますが、さらに上昇傾向を強めるようだと、それは無視できないものとなるでしょう。市場関係者の声を聞いても「3.2%台が日本におけるゴルディロックス(適温)相場の分水嶺」という意見が多く、そこを明確に上回ってくるようだと、日銀の金融政策においても米トランプ政権の顔色を気にせざるを得なくなる恐れがあります。

今春の日銀リフレ人事が日本株市場にとってはポジティブ材料であっただけに、ここからの米金利高は招かざる客、最大の注目点に掲げる市場関係者が多いのもうなずけるところです。

●投げ売り回避だが仕切り直しの旨味もなし

さて、個別銘柄に視点を移しましょう。ひと頃と比較して中小型材料株の銘柄選別が難しくなってきていることは事実です。追証発生に伴う投げは回避されているものの、それが逆に荷もたれ感につながっている。これまで投資スタンスとして半身の構えを推奨してきたのも、投げ売りが発生した時に機動的にキャッシュポジションを高め、仕切り直し相場で大きなチャンスを捉える、という選択肢を残しておきたかったからです。しかし、これまでの経緯は新興市場を中心に材料株が値を崩しても、投げ売りが出る直前で立ち直ってくるパターンが繰り返されており、これが上値を重くしている背景にあります。

決算発表通過後は業績数字に振り回される要素が減り、風向きも順風に変わると思われます。それまでは今しばらく短期スタンスを前提とした投資手法が有効でしょう。

テーマとして、今の東京市場で光が当たっているのは前述したAI関連ともうひとつ、ブロックチェーン に経営資源を注ぐ銘柄に投資家の視線が熱いようです。材料株に逆風の強い地合いにあっても、最近ブロックチェーン絡みで取り上げたアイエックス・ナレッジ <9753> [JQ]やクロスキャット <2307> [JQ]の反応の良さはそれを裏づけるものといえそうです。

●ブロックチェーンでネクストウェア、アイルに期待

そこでマークしたいのは、ネクストウェア <4814> [JQ]。ネットワークの運用やシステム構築を手掛けていますが、ブロックチェーン技術分野にも注力姿勢をみせ、同技術を活用したセキュリティーシステムを開発中です。昨年、ブロックチェーン開発で先駆するシビラ社(大阪市)と資本・業務提携をしており、今後の展開に期待が持てます。

また、独立系のシステムソリューション会社で人材派遣サイトも手掛けるアイル <3854> [JQG]にも穴株的魅力があります。同社も昨年8月に、シビラ社が開発する独自ブロックチェーン「Broof」の運用を開始しており、同分野での展開から目が離せません。

●AI関連では博展が復活へ、ソーバルも再注目

AI関連では、博展 <2173> [JQG]に再浮上の機運が感じられます。企業などを主体にイベントの展示や販促支援などを手掛け、大型案件の増加で業績は好調です。子会社のアイアクトはAIソリューションを展開、またロボット会社のタケロボもM&Aで子会社化しています。タケロボはエイチ・アイ・エス <9603> が運営する「変なホテル」の客室ロボット提供元としても知られ、今後のAIビジネスの足場ともなりそうです。

また、組み込みソフトの受託開発や技術者派遣事業などを手掛けるソーバル <2186> [JQ]も改めて注目しておきたい。AIや自動運転、IoT分野などに積極的に踏み込んでおり、販売先として主力大手電機メーカーの需要開拓が進んでいます。18年2月期は営業19%増益、19年2月期も7%増益を見込むなど利益成長トレンドが続く見通しです。

●ラ・アトレ、パーク24も“AI・IoT”絡み

ラ・アトレ <8885> [JQG]は時流に乗る不動産流動化関連の好業績・割安株ですが、中古マンションのリノベーションを主力とする一方、不動産販売にAIやIoTを活用したソリューションを構築しており、AI関連の切り口でも評価できる銘柄です。インバウンド需要の取り込みに余念がなく、京都に多言語対応の長期滞在型ホテルをオープンしています。

また、パーク24 <4666> は駐車場ビジネス大手で時間貸し駐車場「タイムズ」を展開しており、そのスペースを活用したカーシェアリング事業も収益の第2の柱として多大な業容拡大効果につながっています。タイムズで培ったIoTの運用実績は同社にとって財産で、将来的な成長期待が今の年初来高値圏での強調展開に反映されています。見逃せないのは信用倍率が0.37倍と大幅に売り長である点。需給関係の良さにも着目すべきでしょう。

EV関連では安永が羽ばたくタイミングに

AIやブロックチェーン関連のテーマ以外では、既に市場が急拡大途上で現実買いの段階にあるEV関連に照準。タイミング的には18年3月期の利益予想大幅増額を受け4月19日に急騰を演じた安永 <7271> を再度マークしたいところ。GW明け後に発表される19年3月期の業績見通しにつては発射台が高くなったぶんだけ不利で、その点は事前に理解しておく必要がありますが、リチウムイオン電池分野で電池寿命を大幅に向上させる新技術を内包している、ということは忘れてはならないポイントです。

(4月25日記、隔週水曜日掲載)

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