“セルインメイ”が現実化する「3つの理由」 <東条麻衣子の株式注意情報>
―2018年はアノマリー現実化の年、セルインメイ後は上昇復帰へ―
長く株式投資で利益を上げ続けるには、いち早く相場の方向を察知し、リスク管理を徹底することが大事だと考えている。
筆者が運営に携わる「株式注意情報.jp」では、全体相場が大きく変化する予兆を捉えた際に機敏にアラートの発信を行っている。一例を挙げると、2月世界株安の足音に気づかぬまま市場に楽観が広がる中、1月23日から2月1日にかけて数回にわたって注意警報を発信し続けた。1月30日には「下落の動きが2週間程度続く可能性がある」と警告。2月2日から始まる釣瓶落としの急落はほぼ想定通りの日柄で調整が一巡した。直近では3月23日に「相場が反転する可能性」について注意を喚起。翌26日に日経平均株価は底打ちし、切り返しの動きを見せている。
こうした市場変調のタイミングは、マクロ経済やテクニカル、長年にわたり独自に蓄積してきたデータロガーなどをもとに全体相場の流れをつかみ、その小さな兆しを読み取ることで浮かび上がる。
さて、この時期、投資家の中で気になる話題といえば、「今年はSell in May(セル・イン・メイ=5月に株は売れ)はあるのか」ではないだろうか。
あくまで現状のマクロ動向やデータなどから判断すると「ある」と筆者は考えている。その理由を以下に挙げる。
(1)5月12日に米国がイラン核合意の離脱を判断する期限を迎える
12日に向けて米国が対イラン制裁に踏み切るか否かが注目されるが、地政学リスクの高まりはWTI原油先物の上昇を後押しする要因となる。このため、原油価格の上昇が企業業績を圧迫するようなセクターへの投資は注意が必要と考える。紙・パルプ、化学、ゴム、陸運、空運、海運、電力ガスなどが該当する。
(2)「MSCI浮動株ルール変更」に伴う5800億円の資金流出観測
モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)が日本株の浮動株算出ルールを変更することで、これまで生命保険会社の保有分について発行済み株式の5%を超える分が固定株とされていたのに対し、2%を超える分が固定株として扱われることになる。これにより浮動株比率が低下した銘柄についてはパッシブ系資金の売り需要が5800億円発生するとされている。需給発生日は5月31日。主要銘柄で売り需要の影響が懸念されるのはトヨタ自動車 <7203> 、三菱商事 <8058> 、キヤノン <7751> 、デンソー <6902> など。
日銀のETF買い予算は年間で6兆円であり、月平均にすると約5000億円。日銀の1カ月分のETF買い予算を上回る規模の売り需要だ。5月31日限りの動きとなればよいが、その前には買いが控えられる可能性もあろう。前後の動きに要注意。
(3)安倍後継を睨む思惑
小泉元首相は「今国会が終了する6月20日頃が安倍首相の引き際ではないか。9月の総裁選で安倍首相が3選することはないだろう」と発言している。
決算が一巡し手掛かり材料が乏しくなると、小泉元首相が挙げた「6月20日」に向けて安倍首相の支持率や後継候補について注目が集まりやすくなるだろう。安倍政権の弱体化に関する報道が勢いを増すほど、買いの手控えにつながるのと同時に、海外勢の動向(売り仕掛けなど)が要注意となる。
●オリンピックを見据えた成長は既に“終わりの始まり”
足元5月のみならず中期で注意を払うべき要因として、オリンピック特需のピークアウトと米中貿易摩擦の二点についても触れておこう。
まず、オリンピック特需について。企業の設備投資は伸びているが、オリンピック需要による収益押し上げは全体的にそろそろ織り込まれたと見るべきではないかと考えている。
独自ルートでの調査によると、建築の主に足場などの仮設工事や解体工事はピークアウトし始めているようだ。
ただし、これからオリンピック需要が業績に寄与してくる銘柄群も存在する。一例を挙げると、オリンピックに向けた大きな箱は作り終えたが、次に必要になる仕上げ工事やテナント工事を手掛ける企業である。
仕上げ工事の段階になると、厨房機器・オフィス家具・パソコンなど備品の発注が出てくるであろうし、LAN工事やセキュリティー関連などへの需要も発生するだろう。また、人材確保に向けた求人や派遣業者への発注も今後増えてこよう。
●米中貿易摩擦が激化の懸念
いったんは落ち着きを見せている米中貿易問題だが、米国によるアルミ・鉄鋼に対する課税措置は取り除かれたわけではない。
トランプ政権は、対中国での貿易赤字について大統領選挙中から問題視してきた。今後、11月の中間選挙に向けて中国を標的に通商問題で圧力をかける動きが活発化することだろう。
米中間における貿易摩擦問題では、対中国で輸出や売上比率の高い国内企業への影響が懸念される。貿易摩擦が激化し対米輸出が減少すれば、中国は日本からの輸入を減らさざるを得なくなる。
また、中国政府は自動車・ロボット産業への支援を強化しており、一部基幹部品の国産化率を向上させている。こうした動きは今後も加速してくる可能性が高く、中期的に工作機械、 ロボット、建設機械関連など日本メーカーへの影響が懸念される。
●2018年に入りアノマリーが効いている
2月の世界株安は米国時間の2月2日に起こり、日経平均株価を見ると3月26日から反転の動きを見せている。概ねアマノマリー通り「節分天井」「彼岸底」を形成したと言ってよいだろう。
このことから5月に入り、やはり同じアノマリーである「Sell in May(株は5月に売れ)」を意識した動きが出やすいのではないか。ただし、本格的なリセッションにつながるような株価の下落は現状ではないと考えている。
市場関係者の中には、イールドカーブ(利回り曲線)の動きを懸念している人も多いようだが、逆イールドカーブ(長短金利差が逆転する現象)が起こってから実際にリセッションにつながるまで半年から一年かかると言われている。
また、逆イールドカーブを形成する前に、長短金利差が縮小し、その後に順イールドの形を保ったまま再びスティープ化(長短金利差が拡大していく)する動きを見せる時が、最も株価が上昇しやすいとの見方もある。
筆者はイールドカーブは現在、スティープ化の手前の段階にあると見ており、「Sell in May」のアノマリー通りに日経平均が売られることがあっても、上昇過程における調整程度にすぎないと考えている。
ただし、去年のようなどんな銘柄でも待っていれば上昇するという相場はないだろう。業種ごとにしっかりと銘柄選別を徹底することの重要性を改めて強調しておきたい。
【訂正】記事中の文章に編集部の手違いにより文意が通らぬ箇所がございましたので訂正させていただきます。謹んでお詫びいたします。(編集部)
(誤)「本格的なリセッションにつながるような株価の下落は現状で考えている。」
(正)「本格的なリセッションにつながるような株価の下落は現状ではないと考えている。」
◆東条麻衣子
株式注意情報.jpを主宰。投資家に対し、株式投資に関する注意すべき情報や懸念材料を発信します。
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