中村潤一の相場スクランブル 「突き上げるAI&ブロックチェーン新波動株」
minkabu PRESS編集部 株式情報担当編集長 中村潤一
全体相場はメジャーSQを控え警戒感の強い週。しかし株価は上値指向となっています。6月相場は株価水準を切り上げるとみていましたが、第1週のこのタイミングで強く切り返しに転じてきたことに、違和感を覚える市場関係者も少なくないのではないでしょうか。
今月中旬にかけて重要スケジュールが相次ぎます。あす(7日)に日米首脳会談がワシントンで行われ、翌8日から9日にかけカナダでG7サミットが開催されます。来週12日に予定される米朝首脳会談を前にトランプ米大統領との会談をねじ込むことができたのは、拉致問題を抱える日本にとってはポジティブ。安倍首相も八面六臂の忙しさとなりますが、この日米首脳会談、G7サミットいずれについても株式市場の風景をガラリと変えるような成果は期待しにくい状況です。トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」路線を一直線、文字通り我が道を行くがごとしで、絡みつくものすべてを吹き飛ばすような勢いです。
もっとも北朝鮮に対しては、持ち前の北風オンリー政策が功を奏した形となっています。電撃的に中止を表明し軍事オプションをちらつかせ、相手側が折れるのを確認してから、「やっぱり(会談を)やる」というのは破天荒キャラのトランプ氏だからできること。結果的に米国と北朝鮮の関係が友好的になることは、パワーバランスの崩れを考慮した場合、日本にとって不安もありますが、もし北朝鮮の非核化が実現するのであれば、地政学リスクの後退を素直に好材料と受け止めてよいと思います。
●米中貿易摩擦も早晩着地点が見えてくる
いうまでもなく米国が最も意識しているのは中国の存在。前週末2日から今週4日まで行われた米中貿易協議は共同声明を出すに至らず、交渉が首尾よく進まなかったことを印象づけます。米国は知的財産権侵害への制裁措置として、来週15日までに中国製品の追加関税対象リストを開示する予定にあります。
トランプ大統領は中国に対米貿易黒字2000億ドルの削減を突きつけ、加えて同国ハイテク産業への補助金廃止も要求しており、これは難航しないわけがないと思うのですが、問題はこの落としどころがどうなるかです。米ウォール・ストリート・ジャーナルの電子版によると中国側が米国の農産品など700億ドル分の購入を提案したとのこと。これだけではおそらく折り合いがつかないものの、早晩着地点は視界に入りそうです。
米国は12日の米朝首脳会談をまたぐ形で対象リストの公表を保留しているようにも見え、北朝鮮問題を手の内のカードとしてとっておきたい中国の政治的思惑と、米国のそれが水面下で錯綜している感を受けます。
●FOMC、ECB理事会は波乱要素に乏しい
貿易摩擦問題や地政学リスク以上に、株式市場に影響を及ぼすのは欧米の金融政策であり、来週12~13日開催のFOMCや14日のECB理事会も要注目となります。今回のFOMCでの利上げはほぼ確実視されていますが、ポイントは年内あと何回の利上げが見込まれるかという点。あと1回(年内3回)かあと2回(同4回)のどちらかになるかをマーケットが読み込んでいく相場となりそうです。米国株市場はナスダック指数が過去最高値を更新するなど好調ですが、これは企業の好業績がベースとなっています。経済実勢から市場では年4回の利上げが妥当という声は多いものの、現時点では織り込み切れていないのも事実。これはパウエルFRB議長も十分承知しているはずで、今回のFOMCは無風通過となりそうです。
一方、14日にはECB理事会があります。ECBはテーパリング(量的緩和縮小)を行っている段階にあり、10月からは量的緩和停止の可能性も囁かれているようです。しかし、欧州は足もと警戒感が後退したとはいえイタリアやスペインなどの政局不安がくすぶっており、金融政策でハードランディングの印象を与えることは是が非でも回避したいはず。こちらも理事会終了後のドラギ総裁の会見が波乱につながるようなことにはならないと予想しています。
●ドル円相場は外国人売買とリンクする
欧米の金融政策スタンスは為替動向に如実に反映され、日本株市場のセンチメントも大きく左右します。特に日経平均株価はドル円相場との連動性が高く、今年に入ってからは特にその傾向が強いようです。これは言い換えるなら、外国人売買との連動性の高さといってよいかもしれません。ドル高円安局面では海外ファンドが先物に買いを入れ、ドル安円高局面では売りを出すというパターンが続いており、現物株がこれに追随するという格好です。今後もこの構図は続くことが予想されます。
11月の米中間選挙という政治スケジュールがドル円の上値を重くしていますが、ファンダメンタルズ面でみれば米国を中心とする世界経済の強さや日米金利差の思惑から1ドル=110円ラインを超えてくることに違和感はなく、その場合は日経平均2万3000台乗せとセットで考えてよいと思われます。
●シンギュラリティは人間にとって危険な情景
さて、株式市場に目を向けてみれば、人工知能(AI)関連が引き続き相場の底流を流れる強力なテーマとして意識されるところ。AIはIoT 社会の必須ツールというより、むしろAIがIoT社会へといざなっているような錯覚すら受けます。
株式市場のテーマとしては仮想通貨 やブロックチェーン関連 が今最も熱いエリアですが、将来の可能性についてはやはりAIとの融合が暗黙の前提としてあります。AIはあくまで手段に過ぎず、人間と対決するような構図はSFの世界に過ぎないというのは今の段階だから言えることかもしれません。現在の日常でもAIにお伺いを立てるシーンは断片として切り取ればそれこそ無尽蔵に出てきます。とすれば、人間の英知の総和をAIが超えるシンギュラリティの概念は、実質的な主客転倒の時代を意味する可能性があります。シンギュラリティがいつ訪れるかは分かりません。しかし、よく言われる「2045年」のメルクマールを意識するほどの歳月はおそらく必要としないでしょう。
その時の社会は想像がつきませんが、それが近未来であること、そして人間にとってそれなりに危険な情景である可能性は高いと考えます。
●加速するAI社会で高まる「感性」の価値
一方、人間にとっては今よりもっと「感性」の価値が高まる時代になっていくと思います。よく、我々が使う「感性」とはその定義に曖昧なところもありますが、人間の持つ可能性を示唆した言葉です。人体のなかでも脳というのは未だ解明しきれない神秘的なゾーン。例えば、本人も意識できないスピードで思考が走る時があります。人間の感性とは、当人の意識の枠から外れた頭脳の超高速回転でスピンアウトされた産物にほかならないと言った人がいます。その時はなるほどと思いましたが、なぜ“なるほど”なのかを説明するのも難しい。
しばらくして、説明なくして納得できてしまうのも人間の感性であることに気づきました。推論をどれほど積み重ねてもなかなかたどり着くことができない領域というものがあり、ここに直観の一撃をもって鮮やかに到達することができるのが人間の強さです。音楽や芸術の世界はその典型ですが、AIの演算能力をもってしても人間の直観は凌駕できない最後の聖域のようにも思えます。AIは今後おそらく暴走的に進化する。人間がこれと良いかたちで共生するためには感性の進化がカギを握ると考えています。
●再びブロックチェーンとAIで攻める相場に
今から1ヵ月半前の4月25日に配信した当コラム「AI・ブロックチェーン関連株 次の狙い筋」ではブロックチェーン関連としてネクストウェア <4814> [JQ]とアイル <3854> [JQG]に注目。いずれも荒い値動きではありますが、うねりのある上昇相場に発展しました。AI関連で挙げた博展 <2173> [JQG]とソーバル <2186> [JQ]は今一つの動きですが、それなりに見せ場はあったように思います。
今回はその第2弾として、改めて今のタイミングで注目されそうな関連銘柄を取り上げます。
<ブロックチェーンでいま注目したい3銘柄>
まず、ブロックチェーン関連株ではスリープログループ <2375> [東証2]の上値余地が大きそうです。同社はエンジニア派遣やコールセンターコンサルティング事業などが好調で収益を急拡大させています。ブロックチェーン技術によって登録エージェントと企業を直接つなぐプラットフォーム構築の実証実験を行うなど同分野を深耕しており、1ヵ月前の5月9日にブロックチェーン推進協会へも加入しています。フィンテック革命を支える人材育成などで今後存在感を高めてくる可能性は高いでしょう。
また、eコマース支援ビジネスを手掛けるEストアー <4304> [JQ]もブロックチェーン推進協会の会員企業で注目したい銘柄です。ASPやレンタルサーバーを提供し、情報セキュリティー分野への経営資源投入にも注力。テックビューロが提供するトークン支援サービス「Zaica」に対応するなど仮想通貨関連の一角としてもテーマ性を内包しています。
ULSグループ <3798> [JQ]も押し目買い対象として面白い。同社は流通や製造業向けに業務系システムの設計・構築を手掛けています。同社と子会社のウルシステムズが、仮想通貨取引所「QUOINEX」グループが発行する独自仮想通貨の開発に携わっており、仮想通貨・ブロックチェーン分野へのシステム開発で実績を重ねています。
<AI関連ではこの3銘柄が投資のタイミングか>
一方、AI関連では何度か取り上げてきたFRONTEO <2158> [東証M]の1100円近辺のもみ合いは仕込み場にみえます。訴訟支援事業を展開していますが、AI技術を活用したデータ分析事業で先駆し、多方面で人工知能エンジン「KIBIT」を活用したビジネス案件を獲得していることは周知のとおりです。5月22日には、ヘルスケア産業向けに開発した人工知能「Concept Encoder」の基礎技術について、子会社を通じ日本で特許査定を取得したことを発表、同テーマのシンボルストックとしての位置づけを一段と強固なものにしています。
また、システム構築や障害回避ソフトなどを展開するサイオス <3744> [東証2]も4ケタ大台を地相場とする実力を持つ銘柄。AIを用いてビッグデータ解析をする「SIOS iQ(サイオスアイキュー)」は大手情報セキュリティー企業などに採用されています。また、エピゲノムの情報解析やソフトウエア開発を手掛けるレリクサ(東京都・千代田区)と資本業務提携し、エピゲノムのクラウドプラットフォーム構築を進めている点もポイント。足もとの業績も18年12月期第1四半期は営業利益段階で前年同期比84%増の2億2300万円と急拡大、対通期進捗率は7割近くに達しており、増額修正の可能性があります。
AI関連として最後にテクノスジャパン <3666> を挙げておきます。ITコンサルティング企業で、世界屈指のソフトウエア企業である独SAP製のERPソフト導入支援などを行っています。統計アルゴリズムを活用したAI製品「scorobo」で知られる子会社テクノスデータサイエンス・エンジニアリングは持ち分法適用会社に移行したものの、AIやビッグデータ活用したシステム構築に積極的に取り組み、特に今期以降は展開力を強める構えをみせています。1000円大台絡みにある時価はボックスゾーン上限突破のチャンスで注目です。
(6月6日記、隔週水曜日掲載)
株探ニュース