国策相場再び――「キャッシュレス決済」大化け期待“関連5銘柄”<株探トップ特集>

特集
2018年10月31日 19時30分

―動き出したテーマ買い、にじみ出る政府の本気と恩恵の向かう先―

●振り子の向きが変わった相場

先鋭化する米中貿易摩擦の問題は日本にとって対岸の火事ではなく、最近のトランプ米大統領は中間選挙を意識してか、日本もそのターゲットに置いた発言をしている。トランプ氏が農業団体の集会で、「日本が市場開放を行わない場合、日本車に20%の関税をかける」と改めて言及するなど、自動車株をはじめ輸出セクターにとっては向かい風が意識される相場環境にある。本格化する企業の決算発表についても、全体的に期待感がやや剥落していることは否めない。10月の急落相場の余韻で目先は不安心理の方が先に立つ。市場コンセンサスとの兼ね合いもあって、好決算を発表した銘柄が必ずしも買われる地合いではない。

しかし、投資家が肝に銘じておくべきことがひとつある。相場はいわば振り子のようなもの。概して売りも買いも行き過ぎるが、そのまま同じ方向を進み続けることはない。必ず反対方向に振れ直す、これが摂理だ。個人投資家の追い証の投げ売りが加速するとみられた前日(30日)の相場もそうだった。朝方はリスクオフのムードが蔓延していたが、ふたを開けてみれば下げたのは寄り付きからわずか15分程度で、あっという間にプラス転換し、その後は自然と水かさが増すように下値を切り上げた。そしてきょう(31日)もその流れを引き継いで大幅続伸、戻り相場の色をにわかに強めている。理屈は振り子の後を勝手に追いかけてくる、その繰り返しだ。

●そしてキャッシュレス関連株が全面蜂起へ

日経平均株価の年内の上値余地を考えた場合、市場筋の間では「戻しても限定的」という斜め目線の見方が支配的だが、それは言い換えれば主力株の戻り余地だ。東京市場には東証1部・2部、新興市場合わせ3600以上の銘柄が上場している。主力株の戻りが一服したとしても、内需のテーマ株の一角には消去法的な意味合いも含め資金が流れ込みやすくなる。いかなる地合いでも、全体指数とは軌道を異にして上値を追う銘柄が常に散在している。投資家はその時の地合いに対応する柔軟性を身に着けることで、勝利の方程式をいくつもストックしておくことが可能である。

そして、今の地合いで最も注目すべきテーマは国策が重戦車のように動き出した「キャッシュレス決済」に関連する銘柄群である。

日本は世界に冠たる技術立国だが、ITに関連する分野ではクラウドビッグデータIoTなどの成長領域をはじめ相対的にインフラ対応が遅れている。消費・流通分野でも電子決済という世界の流れに乗り遅れているのが現状だ。アジアだけでみてもそれは顕著であり、決済に占めるキャッシュレス比率が9割に達する韓国や、約6割の中国などに比べ、日本は2割にも満たない“キャッシュレス後進国”といってよい。

日本では現金決済主義が伝統的に根付いており、高齢化社会が急速に進むなかでこの保守的な現金信仰の枠組みを打破するのは容易ではないように見える。しかし、実際は国が掛け声だけでなく政策としてフォローすればガラリと風景は変わるものだ。電子決済で最先端を行く韓国でも、2000年代に入る前は日本同様の現金信仰の背景が言われていたが、政府が国策の一環としてクレジットカードの普及推進を図ったことが奏功し、今のキャッシュレス9割社会の構築につながった。

●政府サイドからにじみ出る本気

株式市場でにわかにキャッシュレス決済が投資テーマとしてクローズアップされたのは、日本でも国策が動き出したという認識が広がったからだ。その背景には来年の消費税引き上げがある。安倍政権では来年10月の8%から10%への消費税率引き上げを予定通り実施する意向を表明している。その際、軽減税率の手段のひとつに掲げられているのがキャッシュレス決済に対する優遇措置だ。中小小売店で商品購入時にキャッシュレス決済を行った場合、消費者に2%分をポイント還元するという施策が検討されている。

当然ながら、これには越えなければならないハードルも多い。まず「中小小売店」の線引きが曖昧であるということが挙げられる。また、フランチャイズ加盟店でも直営店とそうではない個人経営的な店舗とに分かれており、その区分けをどうするかという課題もある。クレジットカード会社も店舗によって異なる2%還元に、システム的に対応するのは相応のコストが伴う。しかし、こうした諸々の問題点はもちろん踏まえたうえでの政策発動で、課題解決に向けた取り組みが今後本格化していく。試行錯誤はつきものだが、既に広くアナウンスされ“賽(サイ)は投げられた状態”にしていることに、政府の本気がにじみ出ている。

●旗艦となる「キャッシュレス推進協議会」

これに先立って、経済産業省は今年7月の時点で産官学による「キャッシュレス推進協議会」を設立している。これは三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> などメガバンク3社や有力地方銀行、NTT <9432> など通信メガキャリア、イオン <8267> など小売大手、楽天 <4755> をはじめとするネット関連企業、さらに地方自治体を合わせ総勢250を超える企業・団体が参画する極めて大規模なものだ。事業者ごとに異なる QRコードの規格統一のための指針を今年度末までにまとめる方針などが既に打ち出されている。

また、厚生労働省では企業などが給与を従業員に支払う場合、デジタルマネーで支給することができるように規制緩和する構えをみせている。1947年に制定された労働基準法では、労働者への給与支払いについて、全額を通貨で直接払うことを規定し、その後に銀行振り込みが認められた経緯があるが、現金を原則としているのは当初から変わっていない。しかし、ここにメスを入れ「脱・現金決済」の流れを作ることでキャッシュレス化を側面支援する狙いがある。来年にも、銀行口座を通さずにカードやスマートフォンの資金決済アプリなどへの送金をできるようにする計画が伝えられており、これによってキャッシュレス化の普及スピードが速まる可能性は高い。

さらに、このキャッシュレス化への取り組みは、訪日外国人観光客のプロモートの意味合いも強いといえる。最近は訪日客数も伸び悩んでいるが、引き続き日本の景気を支える最大の“お得意様”であることに変わりはない。そして、その延長線上にあるのは2020年に開催される東京五輪で、キャシュレス社会への挑戦もここがひとつのメルクマールとなっている。ポスト東京五輪も見据え、訪日プロモートにおけるキャッシュレス化は、「観光立国」を目指す安倍政権にとってまさに国策レベルの“日本復興シナリオ”にほかならない。

●23年開始のインボイスもキャッシュレス化後押し

キャッシュレス化推進の必要性はもう一つ大きな制度変更も関係している。23年に導入されるインボイス(適格請求書等保存方式)がそれだ。現在は消費税の課税事業者が、消費税の計算(仕入税額控除)を行う際に、取引先から受け取った請求書や領収書を保存した上で、会計帳簿に必要な事項を記載しておくことが必須(請求書等保存方式)となっている。しかし、軽減税率が導入され複数税率となると、取引明細ごとの適用税率・税額を確認できなければ、正確な仕入税額控除が困難となってしまう。インボイスは取引明細ごとの消費税を明確にして、不正のない正しい消費税計算が行われるための制度だ。

この際に、キャッシュレス化が浸透していれば、帳簿管理をするうえで間違いのない明朗な会計を行うことができる。国の立場として、インボイス制度導入を前にキャッシュレス社会を確立させたいという思惑も、同テーマが国策として動き出した背景のひとつにある。

●超買い場キャッシュレス関連“変身前夜”5銘柄

キャッシュレス関連株としては、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ <8316> 、みずほフィナンシャルグループ <8411> のメガバンク3社のほか、クレディセゾン <8253> 、ジャックス <8584> 、オリエントコーポレーション <8585> などのカード会社。さらに、セブン&アイ・ホールディングス <3382> 、ローソン <2651> などのコンビニエンスストア、イオン、高島屋 <8233> などの総合スーパーや百貨店、楽天、ヤフー <4689> などのネット通販関連。しかし、現在の株式市場で注目度が高いのは、キャッシュレスに絡むシステム開発や決済支援ビジネスを展開している企業群である。

以下は、ここから株価変貌の可能性を内包する5銘柄を抜粋した。

●高見サイは最新型ICチャージ機で成長突入

高見沢サイバネティックス <6424> [JQ]が、急騰後の“往って来い相場”を経て再び上空を目指しそうな足取りとなってきた。キャッシュレス関連の穴株として大きく株価の居どころを変える可能性に満ちている。もとより、足の速さは抜群だが、1000円から1600円のゾーンを往来する程度のスケールで終わる銘柄ではなさそうだ。

同社は自動券売機や出改札機器のほか紙幣・コイン処理装置などのメカトロ機器分野で高い実績を持つ。 ICカードやICリストバンドによる入退場管理システムなどの製品技術も注目だが、何といっても同社が東京メトロ向けに納入した「7ヵ国語対応の新型ICチャージ機」に期待が大きい。これは、「カードを財布や定期入れに入れた状態のままでキャッシュをチャージできる」(会社側)という優れモノで、言語機能も7ヵ国に対応している。現時点の普及はまだ初動の段階であり今後の切り替え・導入余地は大きく、国内券売機の商品シェアをオムロンや日本信号と3社で分け合う業界にあって、同社の将来的な収益成長余地は大きい。また、会社側では「駐輪場向けICカードシステムにも展開している。この分野では先駆しており、今後に期待している」という。

●強力な上昇波動で崩れ知らずのオプトエレ

オプトエレクトロニクス <6664> [JQ]は9月25日にマドを開けて上放れて以降、漸次水準を切り上げ10月23日には1509円の高値に買われた。これは07年5月以来約11年半ぶりの高値圏で、中長期的にも強力な上昇ウエーブが訪れていることを意味する。レーザー式によるバーコード読み取り装置を手掛けており、QRコードでも決済向けを軸に市場開拓を図っていく構えで、19年11月期の業績に反映されそうだ。キャッシュレス時代にビジネスチャンスを広げていく可能性が高く、株価は全体波乱相場にも崩れず、25日移動平均線をサポートラインとする強靭なトレンドを維持している。出来高流動性にも富んでおり、キャッシュレス決済関連としては本命格に位置している。

●メディアシークもQRコード展開で見直し人気へ

法人向けシステム開発のほか、スマートフォン用ソフトを手掛けるメディアシーク <4824> [東証M]も同テーマでは目が離せない銘柄だ。人件費や開発投資負担などが利益の足かせとなっているが、スマホ向けアプリのダウンロード数は着実な伸びをみせており、19年7月期のトップラインは25%増収を見込んでいる。同社は一般消費者向けQRコード読み取りアプリなどを展開している。QRコードはキャッシュレス決済普及のカギを握るとみられているだけに、同社にも商機が巡りそうだ。直近10月29日には、スマホ向け無料バーコード読み取りアプリ「バーコードリーダー/アイコニット」の最新バージョンをリリースしている。業績は目先低迷しているとはいえ、株価の瞬発力の高さは折り紙付き。短期資金の食指を動かしやすい銘柄で意外高に進む公算がある。

●プリメックスはKIOSKソリューションに期待

出来高は薄いが、静かに上値思惑を漂わせているのが日本プリメックス <2795> [JQ]だ。同社はATMの領収書発行を主力とする産業用ミニプリンターを製造販売、セルフサービス情報端末「KIOSK」向けプリントソリューションで圧倒的シェアを有していることがポイントとなる。セルフレジ関連としての色が強いが、電子マネーの導入などKIOSKを活用した新しいサービスに期待が大きい。株価は今年3月から4月にかけて急速人気化、4月23日には1420円の高値に買われた。直近も10月23日に上ヒゲで1114円の高値をつけたが、その後調整。上値にシコリ玉はなく信用買い残も枯れ切った状態。好需給を背景に波状的な上昇波が訪れる可能性がある。

●クロスキャットはカード会社システム改修で思惑

クロスキャット <2307> [東証2]は、クレジット向けシステムや金融機関向けに強みを持つソフト受託開発会社で、キャッシュレス決済関連としても“真打”的な存在感を持つ。人工知能(AI)ビッグデータ解析、ブロックチェーンなど先端分野で優位性を持っており、企業のIT投資需要が活発化するなか収益環境は中期的にも追い風が強い。仮にキャッシュレス決済に伴うポイント還元が実施される方向となれば、クレジットカード会社は加盟会社を大企業や中小企業という企業規模の範疇で分類していないため、システム改修需要が広く発生する。その場合、同社に収益機会が生まれることは必至となる。株価は17年5月を境に“変身モード”となり、同年10月に1449円まで買われ、今年も5月に急動意、このときはわずか2週間弱で1000円トビ台から1740円の高値まで駆け上がった経緯がある。

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