金は米利下げ観測を追い風に堅調、鍵握る米中会談 <コモディティ特集>

特集
2019年6月12日 13時30分

金の現物相場は貿易摩擦に対する懸念が高まるなか、米連邦準備理事会(FRB)の利下げ観測を受けて急伸し、今月7日に2018年4月以来の高値1347.92ドルをつけた。

米政府が中国の通信機器大手である華為技術(ファーウェイ)に対する規制をかけると、中国がレアアース(希土類)の対米輸出規制を「真剣に検討」していると明らかにし、米中の対立が長期化するとの見方が強まった。

米国が5月10日に2000億ドル相当の中国製品に対する関税を10%から25%に引き上げたことに対し、中国は報復措置を6月1日に発動し、約600億ドル相当の米国製品に課している追加関税を最大25%に引き上げた。

国際通貨基金(IMF)は、米中の報復関税合戦が2020年に世界の経済生産を0.5%下押しする可能性があるとの見方を示しており、貿易摩擦に対する懸念が強い。また、トランプ米大統領が、メキシコが米国への不法移民流入を止めるまで米国はメキシコからの輸入品に関税を課すと表明したことも貿易摩擦に対する懸念を高める要因になった。

米国とメキシコの移民問題を巡る協議は合意に達し、関税発動は停止されたが、米国は今後、欧州や日本との通商協議を控えており、貿易摩擦に対する懸念が残る。

米大統領は、中国と通商合意に達しなかった場合、中国製品への追加関税を今月の20ヵ国・地域(G20)首脳会議後に発動する用意があると述べており、月末の米中首脳会談で合意できるかどうかが当面の焦点である。

一方、米国の長期金利が低下するなか、金融当局者が米FRBの利下げの可能性を示すと、利下げ観測が高まってドル安に振れ、金の支援要因になった。米10年債利回りは2.06%まで低下し、2017年9月以来の低水準となっており、貿易摩擦を解消できなければ年末にかけて利下げが続く可能性がある。

●米中の通商協議に進展見られず

米政府のファーウェイ規制に対し、中国の国営メディアである人民日報が「米国の一部政治家がテクノロジー冷戦を仕掛けている」と論説で示すなど、米国への批判が強まった。その後に米中の通商協議に進展は見られず、行き詰っている。

中国国際経済交流センターの張燕生首席研究員は、交渉行き詰まりは「米国が中国に貿易収支と構造改革、法改正の面で直ちに大改革を要求したためだ」と指摘した。また、「これら3つの点で、短期間に実現できることはない」とし、米国が求める執行システムは中国自身の能力を超えており、要求された法改正は「技術的ハードルが高過ぎた」とした。

これが中国側の態度を変えた原因だとすれば、米中首脳会談では交渉継続で合意するにとどまり、貿易摩擦が続く可能性がありそうだ。トランプ米大統領は11日、中国との通商協議について、中国側が4、5項目の「主要な点」で再び合意しない限り、協議を先に進めない姿勢を示しており、強硬姿勢に変わりはない。

●米経済指標悪化で利下げ観測が高まる

1~3月期の米実質国内総生産(GDP)改定値は前期比3.1%増と、速報値の3.2%増から小幅下方改定された。また、FRBが物価の目安として注目するコア個人消費支出(PCE)価格指数は、前年比1.0%上昇と速報の1.3%上昇から鈍化した。

一方、5月の米雇用統計によると、非農業部門雇用者数の伸びが大幅に鈍化したほか、賃金上昇率も予想を下回った。非農業部門雇用者数は7万5000人増加と事前予想の18万5000人増を下回った。3月と4月を合わせた雇用者数は従来から7万5000人分が下方改定された。時間当たり平均賃金は前月比0.2%増と事前予想0.3%増を下回った。

米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨で、多くの参加者が最近のインフレ減速は「一過性の公算が大きい」とみていると指摘された。しかし、貿易摩擦に対する懸念が高まると、米セントルイス地区連銀のブラード総裁が、世界的な貿易を巡る緊張の高まりによる世界経済に対するリスク、および低調な米インフレを踏まえると、米利下げは「近く正当化」される可能性があるとの考えを示した。

また、パウエル米FRB議長は、FRBは世界的な貿易戦争などに起因するリスクに「適切に」対応すると述べ、利下げ観測が高まった。CMEのフェドウォッチによると、12月のフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標水準の確率は1.50~1.75%が31.6%(前月3.3%)、1.75~2.00%が35.8%(同17.7%)となり、今後2~3回の利下げが見込まれている。一方、2.25~2.50%への据え置きの確率は2.9%(同36.5%)に急低下した。

●英国では合意なきEU離脱に対する懸念高まる

英国ではメイ首相が7日に保守党党首を辞任し、後継者選びに入った。11人が次期党首に名乗りを挙げている。保守党議員による数段階の投票が13日から実施され、候補者が2人に絞られるまで続く。6月22日に候補者の演説会を開き、7月22日の週に保守党党員による投票にかけられ、勝者が党首になる。

欧州議会選挙で、英国でブレグジット党が最多議席を獲得しており、次期首相はより強硬な離脱方針を約束せざるを得ない。ただ、欧州連合(EU)諸国からより有利な条件を引き出せる公算はゼロに近い。EU執行機関である欧州委員会のユンケル委員長は11日、新たな英首相が誕生しても、メイ首相と合意したEU離脱協定案が変更されることはないと述べた。

メイ氏の有力な後任候補と目されているボリス・ジョンソン前外相は、英国は条件などで合意がないままEUから離脱する用意を整えておく必要があるとの考えを表明した。

●金ETF残高が急増

金の内部要因では、金ETF(上場投信)残高が急増し、貿易摩擦に対する懸念やFRBの利下げ観測を受けて逃避買いが入った。世界最大の金ETFであるSPDRゴールドの現物保有高は6月10日時点で756.42トンとなり、ここ1ヵ月で23.19トン増加した。英ETFSでも同20.16トン増の197.99トンとなっており、金ETFに投資資金が流入している。

一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、ニューヨーク金先物市場でファンド筋の買い越しは6月に入り、急速に拡大した。6月4日時点は15万6115枚(前週8万6688枚)となった。新規買いが4万6014枚、買い戻しが2万3413枚入った。ただ、買い越しは2018年4月以来の高水準となっており、買われ過ぎ感が出ると、利食い売り主導の調整局面も警戒される。

(minkabu PRESS CXアナリス 東海林 勇行)

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