原油安のなぜ?ホルムズ海峡緊迫化の先に待つもの <コモディティ特集>

特集
2019年6月19日 13時30分

先月、イランは核開発を制限する合意の履行を一部停止すると発表した。この合意の参加国である英独仏中露が、米国の制裁からイランの石油・銀行セクターを守る約束を7月7日までに果たさなければ、3.67%と定められたウラン濃縮の濃度を無制限に引き上げる。

今週には、低濃縮ウランの貯蔵量が今月末に合意で定められた上限を越えると発表した。来週のG20首脳会議を控えて、イランは核合意違反となる見通し。イラン最高指導者のハメネイ師は核兵器の保有や使用を否定しているものの、濃縮ウランは核兵器の原料となる。

●ホルムズ海峡緊迫化で原油高へ誘導画策か

先月、今月とホルムズ海峡付近でタンカーが攻撃された。いずれもイランの仕業であると強く疑われている。今月攻撃されたタンカーのうち1隻が日本企業の船舶だったことから、日本国内でも緊迫する中東情勢がようやく伝えられるようになった。

イランが国家的にタンカーを攻撃したことが明らかになっているわけではないが、米国の経済制裁によってイランはかなり追い詰められており、米国に対する腹いせとして、石油輸送の要であるホルムズ海峡の緊迫感を高めようとしているという連想は成り立つ。ホルムズ海峡は日量2000万バレル近くの石油が日々通過する。世界の石油需要は日量1万バレル程度であり、安全な運航が出来なくなった場合の影響は甚大である。イラン革命防衛隊の高官がホルムズ海峡の航行を脅かすような発言をしていたことも、タンカー攻撃がイランと結び付けられる背景である。

2015年のイラン核合意から一方的に離脱し、対イランの経済制裁を再開した米国に対して、イランは追い詰められつつもホルムズ海峡の緊迫化による原油高で対抗しようとしている可能性はある。核開発は緊張感を高めるための道具となる。トランプ米大統領が石油輸出国機構(OPEC)に石油価格を抑制するよう繰り返し要求してきたように、米国は行き過ぎた原油高を嫌っている。原油高は米国に対抗する武器になりうる。

●得るものの無い軍事行動の選択肢

イランと米国の対立はどこへ向かっているのだろうか。ハメネイ師の発言からすると、協議開始はなさそうだ。一方的に核合意を撤回し、イランに対する経済制裁を開始したうえ、核や弾道ミサイル開発の中止といった要求を突きつける米国に対して、イランが下手に出るとは思えない。両国の協議が始まり順調に進んだとしても、米国がまた合意を破棄しないとは限らない。米国が経済制裁を一時的にでも中止するなら対話開始が見えなくもないが、来年の米大統領選を控えてイランに対する締め付けは緩まないだろう。

米国、イランともに場合によっては軍事行動をいとわないとしている。イスラエルと関係の深い米国にとって、イランの核開発強化は見過ごせない。米国の軍事的な行動が始まるなら7月7日前後か。ただ、中国やロシアがイランを支援する可能性が高く、軍事大国同士の衝突は非現実的である。各国とも戦費以上に得るものがあるとは思えない。血が流れるだけ無駄である。

●高止まりする緊迫感、値動きは抑制へ

ホルムズ海峡の緊迫化による原油高を米国は避けたい。何よりも原油相場や核を通じて米国を脅迫している国が存在するということ自体が我慢ならないと思われる。イランは米国の経済制裁に痛めつけられたままではジリ貧である。この苦境から早急に抜け出さなくてはならない。

ただ、米国は経済制裁によってイランを協議の場に引きずり出せそうにない。イランが原油価格を吊り上げようとすれば米国に対する嫌がらせにはなるものの、経済の撹乱にしかならない。経済制裁もホルムズ海峡の緊迫化も両国が望む結果にはつながらないだろう。待っているのは対立の行き詰まりと、高止まりする緊迫感である。

金融市場では、連想が立ち往生すると値動きは抑制される傾向にある。消化しにくい材料と化すともいえる。最近数ヵ月間、国際的な指標原油であるウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)やブレント原油が下落基調にあっても違和感はない。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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