武者陵司「令和の大相場始動シリーズ(1) 産業革命の力が貿易戦争を凌駕する」<後編>
※武者陵司「令和の大相場始動シリーズ(1) 産業革命の力が貿易戦争を凌駕する」<前編>から続く
(3)世界製造業景気サイクルは底入れへ、日本株の恩恵大
2018年以降の世界経済ミニ循環の落ち込みは、ひとえに中国製造業景気の悪化によって引き起こされたが、今その底入れ局面に入りつつある。第一に上述の 半導体サイクルが底入れした。第二に中国の内需も自動車需要が底入れし、また体質改善とインフラ投資抑制に軸を置いた政策も転換されている。金融緩和により不動産価格は上昇し、不動産投資も押し上げられていくだろう。第三に2018年春以降の落ち込みを牽引した貿易戦争による不確実性も消えつつある。棚上げされていた投資は復活へ、または第三国(例えば台湾、ベトナム)で新規投資が起きるだろう。
●人権侵害を対中制裁の中枢に、中国は震え上がる
米中通商協議は、米国の対中批判が、人権侵害にシフトしたことで大きく進展するだろう。米国は、新疆ウィグル自治区における人権侵害を根拠に、ファーウェイ制裁に続き、ハイクビジョンなど8社に対し、米企業との取引禁止を軸とする制裁を発表した。また、議会では香港人権法が可決され、大統領の署名待ちの段階である。昨日(10月24日)のペンス副大統領のスピーチは中国人権侵害批判に焦点を当てた。この人権侵害へのシフトの中国に対する威圧は大きい。企業制裁に人権や安全保障を絡めるとなると、米国は自由に特定の中国企業を標的として大打撃を与え得る可能性が出てくる。中国側に譲歩に対する切迫感があることは明らかではないか。中国外務省の楽玉成次官による、「米国に挑戦したい、もしくは米国に取って代わりたいと中国が思ったことはなく、覇権争いに興味はない」との発言(10月24日)は、中国の狼狽ぶりを示している。
世界製造業景気のミニサイクルの落ち込みで最もダメージを受けたのが日本株式であった。日本経済は先進国では最も製造業依存が大きいうえに、東証上場株式時価総額のほぼ50%が製造業であり、グローバル景気に左右されやすい。また、ミニサイクル下落局面でのリスクオフから円高になったこともそれに拍車をかけた。しかし、世界景気回復となれば、リスクオンの円安も加わり株高がサポートされる。
(4)日本のオンリーワン技術分野に支えられたビジネスモデルの開花
米中のハイテク企業の新世代投資のピックアップ、台湾企業TSMCの設備投資姿勢の変化の恩恵を日本企業はいち早く享受している。それは半導体装置分野、半導体素材分野などハイテクサプライの枢要部分を日本企業が抑えているからに、他ならない。
韓国、中国、台湾に華々しいハイテクビジネスの中枢(半導体、液晶、パソコン、 スマホ、TVなど)を奪われた。また、ハイテクサイバー空間、インターネットのプラットフォームはアメリカと中国企業が支配している。一見、日本は負け組に見えるが、日本企業はハイテク周辺・基盤のサプライ分野に他の国が作れないオンリーワンの領域を多く作り、独占的なビジネスをしている。今はハイテクの中枢部は大変な激戦区であり、米中貿易戦争を交えて熾烈な競争が展開されているが、周辺・基盤分野での競争は少ない。したがって、日本は有利なポジションにいるのである。
平成の表面的には困難な時代、日本の将来を保証する国際分業上の優位性が育まれた。日本企業は技術・品質で無数のオンリーワン領域を確保した。国際分業が進展し各国が相互依存を強めていくとき、大切なものは希少性である。希少だから高く売れて儲かり、国民生活と経済、投資が報われる。今の日本企業業績は、この希少性に支えられている、と言える。
●IoT時代、日本圧倒的に有利に
今、ハイテクをめぐって、韓国-中国、台湾-中国、ドイツ-中国の競合関係が強まっている。また、インターネットのプラットフォームでは、米国企業に対し中国のアリハバ、ティンセントが挑戦状を叩きつけている。しかし、日本は米国とも中国ともあまり競合はなく、むしろ補完関係になっている。例えば中国がハイテク化しようとすると、日本の設備や部品や材料が必須である。この希少性は 5G、 IoT時代の製品開発でますます威力を発揮する。日本の国際分業上の優位性が、顕著になっていくだろう。ダイヤモンド誌(9月21日)に掲載された世界を牛耳る日本の素材113品目リストをみると、日本企業のオンリーワン戦略の開花が鮮明である。
日本のハイテクアナリスト第一人者、IHSマークイットの南川明氏が、近著「IoT最強国家ニツポン」(講談社+α新書)の中でIoT時代に入り日本企業が圧倒的に優位に立つことを述べている。「IoT産業は(日本が価格競争で負けた)パソコンやスマホなどのエレクトロニクス産業とは全く別物で、個人が所有するものではなく、他者とシェアしたり、自分のニーズに合わせて使ったり自分の好みにカスタマイズして使うもの…だからこそ、カスタマイズを得意とする日本にとってIoTはチャンス到来といえる。加えてIoTを構成する四つの要素、レガシー半導体、電子部品、モーター、電子素材のすべてを生産できるのは日本だけである」。
5G、IoT時代到来の先駆けとしての半導体需要旋風は、日本製造業本格復活の鏑矢となるのではないだろうか。
(2019年10月25日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン236号」を転載)
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