宮嶋貴之(ソニーフィナンシャルグループ)が斬る ―どうなる?半年後の株価と為替―
2026年上半期の日米株式相場の上昇を引っ張ってきた半導体関連株。特にメモリー需要の高まりにより、日本のキオクシアホールディングス <285A> [東証P]や米国のマイクロン・テクノロジー<MU>などの株価急騰が話題を呼んだ。AI(人工知能)の普及により、関連需要の伸びは続いており、中期的な株価に期待する声も多い。もっとも、足元の株価は利益確定売りや大手テック企業の財務悪化や投資継続への懸念などを受けて急落する場面も少なくない。多くの投資家が注目する半導体関連株の行方はどうなるのか。第51回は特別編として、ソニーフィナンシャルグループで半導体分野を担当する宮嶋貴之・金融市場調査部シニアエコノミストに話を聞いた。
●宮嶋 貴之(みやじま たかゆき)

2009年に慶応義塾大学大学院修了後、みずほ総合研究所(当時)に入社。内閣府出向などを経て2021年より現職。専門は日本・アジア経済、セクターでは半導体、不動産、観光。景気循環学会理事。主にJ-WAVE、日経CNBC、ストックボイスに出演中、週刊エコノミスト連載中。主な著書(全て共著)は、『TPP-日台加盟の影響と展望』(国立台湾大学出版中心)、『図解ASEANを読み解く』(東洋経済新報社)など。
| 宮嶋貴之氏の予測 5つのポイント | |
| (1) | 半年後のSOX指数は1万3000~1万9000ポイント程度 |
| (2) | AIの開発競争により、AI向け半導体のシリコンサイクルが延長 |
| (3) | 足元の半導体関連株の下落は一時的、2027年までAI投資は高水準続く |
| (4) | 株高継続のカギはハイパースケーラーのAI投資が続くかどうか |
| (5) | リスクはAI投資計画の下方修正、AI規制の強化、データセンター建設の反対運動など |
―― 日米株高をけん引してきた半導体関連株が乱高下しています。主要な半導体関連銘柄で構成するフィラデルフィア半導体株指数(SOX)の半年後(12月末)の水準をどう見ますか。
宮嶋:私は半年後のSOX指数を1万3000~1万9000ポイント程度だと予測しています。
―― 足元では不安定な動きをしているものの、年末にかけては上昇していくという見方かと思います。予測の背景を教えて下さい。
宮嶋:主要な半導体メーカーで構成する世界半導体統計(WSTS)による半導体出荷額の2026年の世界市場は、25年比90%増の1兆5112億ドル(約240兆円)と、初めて1兆ドルを突破する見通しです。WSTSはやや保守的な見通しを発表する傾向があり、実績値は上振れする可能性もあります。出荷額の予想値と半導体関連企業のEPS(1株当たり利益)はパラレルとまでは言えませんが、おおむね近い動きをします。実需の動きを考えれば、中期的な半導体関連銘柄の株価の下値は堅いとみています。
図1 フィラデルフィア半導体株指数(SOX)の推移

出所:Macrobondより宮嶋貴之氏作成グラフを引用
―― 好不況を繰り返す従来の「シリコンサイクル」を考えれば、すでに半導体業界は不況期に入ってもおかしくありません。一部の市場関係者の間では、半導体の市況が好不況の波を越えた「スーパーサイクル(需要の急拡大期)」に入ったとの見方が出てきました。
宮嶋:確かにシリコンサイクルは約50カ月ごとに山谷があります。通常のサイクル通りなら、世界の半導体出荷額は2025年後半から下げに転じ、今年後半には底に向かっていくはずでした。しかし、今回はどこが山なのかいまだに明らかになっておらず、ピークアウトの兆しが見えません。
その背景にはAIの普及と開発競争があり、それがシリコンサイクルの期間を延ばしています。半導体需要をAI向けとスマートフォンやパソコンなど非AI向けに分ければ、非AIは通常のサイクルに近いと推察していますが、AI向けの需要がいまだに右肩上がりで伸びているというのが現状です。
―― 需要の急増に伴い、半導体関連製品の価格も高騰しています。
宮嶋:特にAI駆動に使う短期記憶用の「DRAM」を積層した広帯域メモリー「HBM」など、AI向けのメモリー半導体の需要が超過、需給がひっ迫して価格が急騰しました。スポット価格を見る限りでは、前年の数倍に上昇しています。このため、キオクシアや米マイクロン・テクノロジー、韓国のSKハイニックス<SKHY>などメモリー関連企業は市場予想を大幅に上回る収益を上げています。
一方、AI向けメモリーの生産を増やすために非AI向けの生産が抑制されたことで、非AI向けの価格も上昇しています。スポット価格を見る限りでは、前年の数倍に上昇しています。アップル<AAPL>が6月にタブレット端末「iPad」とパソコン「Mac」を2~3割値上げしたのはこのためと推察されます。
メモリーだけでなく、その製造装置や画像処理半導体(GPU)、データセンターで使われる半導体や電線などの価格も上昇しています。前述した広帯域メモリー「HBM」も同様です。
―― 半導体はスーパーサイクルに入っている可能性があると言われていますが、このサイクルが続くためのポイントは何だと思いますか。
宮嶋:「GAFAM(グーグルの親会社アルファベット<GOOG>、アップル、メタ・プラットフォームズ<META>、アマゾン・ドット・コム<AMZN>、マイクロソフト<MSFT>)」など、ハイパースケーラーのAI関連投資が続くかどうかがポイントです。1~3月期の好調な決算などを受けて、27年のAIを含む設備投資の市場予想は上振れしました。AIが学習したデータから答えを導く「推論」分野などの需要も増えており、大量のデータを高速で読み書きするための「NAND型フラッシュメモリー」など幅広い半導体が必要になっています。こうした状況を受けて、高水準のAI関連投資が半導体需要を押し上げる構図は今後も続くと考えられます。
一方、何らかの理由でハイパースケーラーが投資計画を相次ぎ下方修正するようなことがあれば、半導体セクターの株価に強い調整圧力がかかるでしょう。ただ、こうしたリスクシナリオが顕在化するような兆しは今のところはありません。
―― サムスン電子、SKハイニックスなど韓国の半導体関連株の急落が、日米の株式市場にも影響を及ぼしています。一部の投資家からは「AIバブルの崩壊ではないか」といった懸念する声も出てきました。足元の半導体関連株の下落は一時的なものなのでしょうか。
宮嶋:私は一時的な調整だと考えています。韓国市場については、個人が証券会社から借り入れる信用取引融資の残高が急増していたことが、株安の連鎖を招いたという特殊事情がありました。状況の違う日米の株式市場への影響が長く続くとは考えていません。
SOX指数は今年3月以降、米国・イスラエルのイラン攻撃を受けて、S&P500株価指数と比べた割高感が抑制され、買われてきました。足元では半導体関連株の高値警戒感が再び浮上し、いったん短期の調整に入っていますが、実需面での好況が続いていることに変わりはありません。株価は今秋には回復軌道に乗るのではないかと考えています。
―― 米紙ニューヨーク・タイムズは、米オープンAIが計画中の新規株式公開(IPO)を27年に延期することを検討していると報じました。
宮嶋:私は足元で投資家の警戒感が高まっている理由の1つが、オープンAIの上場延期の報道だと思います。もともと市場関係者の間で、巨額のAI投資に見合う収益を上げられるのかという懸念があった中での報道だったためです。上場を延期すれば、資金調達とともに、オープンAIに関わるデータセンター投資も遅れるとの懸念があるように見えます。
―― 足元の半導体関連株の下落は一時的な調整とのことでしたが、反転上昇するためのポイントは何でしょうか。
宮嶋:半導体関連銘柄の株価水準はすでに高いため、さらなる上昇には新しい好材料が必要です。例えば、多くの市場関係者は、27年までのハイパースケーラーのAI関連投資は活発だと考えていますが、28年以降の投資については確信を持っていません。今後のハイパースケーラーの決算発表で、28年以降も高水準の設備投資が続くことが明確になれば、半導体関連株は再び上昇していくでしょう。
市場関係者は、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策の行方にも目を凝らしています。米国のインフレ率が安定し、利上げ観測が後退したり、利下げ期待が浮上したりすれば、株高のきっかけになると考えられます。
―― 米国では電気料金の高騰を招くなどとして、データセンター建設に反対する動きが広がっています。こうした反対運動が悪影響を及ぼす可能性は。
宮嶋:長い目でみれば、こうした反対運動は、ハイパースケーラーなどの設備投資のリスク要因になり得ると思います。今のところ目立って電力価格が上がっているわけではありませんが、今後は各地で反対運動が起こるリスクがあります。このほか、米国をはじめとした政府によるAIへの規制が強化されれば、関連投資を妨げ、株価の急落を招く恐れがあります。米国では規制強化の動きが出始めており、AI脅威論が浮上する中、予断を許さない面があります。
(※聞き手は日高広太郎)

株探ニュース