バイデン氏当確、米民主党政権に吹く株高の風 くすぶる不透明感も <株探トップ特集>
―新閣僚の人事と政策を注視、トランプ氏の法廷闘争で最終決着はつかず―
市場の関心を集めた米大統領選は民主党候補のバイデン前副大統領の当選が確実となった。この米大統領選を通過した後は世界株高の色彩が濃くなり、NYダウや日経平均株価は一気に上昇基調となった。これまで様子見だった投資家は足もとで買い姿勢を強めた格好だ。ただ、民主党政権下では規制強化などへの懸念は残る。共和党候補のトランプ大統領は法廷闘争の姿勢を崩しておらず、不透明感はくすぶる状況にある。
●米大統領選のビッグイベント通過で市場は買い姿勢強める
3日の米大統領選を経て世界の株式市場は上昇基調を強めている。NYダウは10月末から9日までの間に10%強上昇。米ファイザーが9日、新型コロナワクチンの治験で9割の有効性を確認したと発表したことも追い風となり、NYダウは一時初の3万ドルに接近する場面もあった。東京市場も日経平均株価は11月に入ってからこの日まで6連騰。一時は1991年11月以来の2万5000円台に乗せるなど、29年ぶりの高値水準に上昇している。「米大統領選を通過したことで売りヘッジしていた投資家が買い戻しを入れたほか、新規買いの姿勢も強めた」(市場関係者)ことが株高の要因ともいわれる。
●トランプ氏の法廷闘争が長引けば上値抑えの要因に
米大統領選では投開票の当日の3日はトランプ大統領が一時優勢に傾いたものの、その後、郵便投票の開票もありバイデン氏が盛り返し当選を確実にした。とはいえ、トランプ氏は敗北宣言を出しておらず、最終的な決着はついていない。市場には「もし12月に入っても最終的な白黒がつかないようなら市場は混乱を意識し、株価の上値を抑える要因になりかねない」(アナリスト)と警戒する声も出ている。とはいえ「バイデン氏の民主党は政権移行の既成事実を積み上げており、結局はトランプ氏も引き下がらざるを得ないだろう」(市場関係者)との見方は多い。
株式市場は、民主党の勝利を前向きに受け止めて株高基調を強めている。ただ、トランプ氏の法廷闘争を含め幾つかの不透明要因を抱えながらの上昇であることには注意が必要だ。
●財務長官に「ドル安論者」ブレイナード氏就任の公算も
来年のバイデン政権の誕生を当然の前提とするとしても、これから12月にかけて閣僚人事が明らかになり、それとともに新政権の方向性も見定められることになる。なかでも注目度が高いのは、経済政策を担当する財務長官と外交を担当する国務長官だ。
市場関係者は、財務長官に米連邦準備制度理事会(FRB)のブレイナード理事が候補に挙がっていることに注目している。同氏は、財務省国際担当次官だった時に、ドル高牽制を行ったことでも知られる。「ドル安論者のブレイナード氏が財務長官となった場合、為替は円高基調を強めることが警戒される」(FXアナリスト)との声がある。トヨタ自動車 <7203> など輸出株には逆風となることも予想される。
また、緊張感が高まる米中関係を見定めるうえでも、国務長官の重要性は高まっているが、同ポストの候補にはスーザン・ライス元大統領補佐官の名前が挙がっている。「米国の対中政策は民主党政権になっても基本的な姿勢は変わらない」(アナリスト)とみられるものの、親中派とも呼ばれる同氏が国務長官となった場合、米国と中国の関係はやや緊張緩和の方向に動くことも予想される。アジアの防衛問題など難題の行方が気になるものの、目先的にはコマツ <6301> や商船三井 <9104> 、それに村田製作所 <6981> など電子部品・半導体関連株にはプラスとなる可能性もある。
●民主党左派の発言力増大には警戒感、ソーラーパネル設置やEV普及に本腰
また、民主党左派と呼ばれるエリザベス・ウォーレン上院議員は司法長官、バーニー・サンダース上院議員が労働長官の候補にそれぞれ名前が挙がっている。例えば、ウォーレン氏は巨大IT(情報技術)企業の解体を訴えていた経緯もあり閣僚となった場合、株式市場には逆風だ。しかし、「民主党も左派色はできるだけ薄めたいだろう」(アナリスト)との声が多く、増税政策と同様に規制色は弱まるとみられている。
そんななか、期待が高いのは再生可能エネルギーなど環境分野を中心とする積極的な投資だ。バイデン氏が「環境・インフラに4年で2兆ドルを投じる」と公約に掲げており、温暖化防止の国際枠組み「パリ協定」に来年1月にも復帰する姿勢を示している。同氏は具体的には5年間で5億枚のソーラーパネルの設置やEV(電気自動車)製造への補助金、新燃費車への買い替えに対する補助金などを掲げる。これら政策は日本ではレノバ <9519> やウエストホールディングス <1407> [JQ]など環境銘柄、あるいはEVに絡む日本電産 <6594> などの上昇要因となる。
●新型コロナワクチンに対する見方には強弱感対立
来年1月の新大統領就任に向けた期待は高まっている。とはいえ、足もとの株式市場の上昇は急ピッチだ。第一生命経済研究所の嶌峰義清・首席エコノミストは「いったんはスピード調整が必要ではないか」とみている。ただ「年末から新年にかけては、NYダウなら3万ドル台、日経平均なら2万6000円を意識する値動きは期待できると思う」と予想する。
もっとも、いちよしアセットマネジメントの秋野充成取締役は「ファイザーの新型コロナワクチンが有効性を示し、経済が正常化に向かった場合、超緩和状態にある金融政策の終了を意識することになりかねない。このことは株式市場にはマイナス要因に働くかもしれない」と警戒する。「米長期金利が1%を超えてくると市場は動揺する可能性もある」と同氏はいう。ただ、一方で前出の嶌峰氏は「ファイザーのワクチンは有効性や安全性を確かめる必要があり、効果が確認されたとしても本当に出回るのにはまだ時間がかかる。緩和縮小(テーパリング)を警戒するのは時期尚早だと思う」とも指摘する。むしろ「株価の一段の上昇にはワクチンが本格的に普及していくことが必要なのではないか」とみている。
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