【和島英樹のマーケット・フォーキャスト】 ─世界で稼ぐ企業が優位に、注意要するIPOラッシュ
「世界で稼ぐ企業が優位に、注意要するIPOラッシュ」
◆新型コロナ変異株、財政健全化路線への警戒感が重荷となるか
12月中旬までの東京株式市場は、基本的にはもみ合いの展開が予想される。
発表が出揃った第2四半期の企業業績が想定通り順調に進捗したことに加え、岸田内閣の経済対策効果、コロナ禍からの経済再開期待が後押し要因となる。ただ、経済対策は景気を刺激するには不足感があり、影響は限定的となる可能性が大きい。
企業業績は電機、精密機器、 自動車といった製造業が、世界的な経済再開や需要の回復を背景に牽引役となっている。また、資源高や需給の改善もあり、非鉄、鉱業、 商社、海運などが想定以上の伸びとなっている。外食やレジャーなど内需関連の低迷を埋めて、純利益は2022年3月期通期で前期比48%増益となる見通しと伝わっている。3社に1社が上方修正に進んだもようだ。特に通信量の増大を受けて、高性能化が進む半導体やその関連企業の業績が好調である。日経平均株価の1株利益は2085円(24日時点)で、PERは14倍程度。この面からは上値の余地が大きくなっている。
ただ、南アフリカで新型コロナウイルスの新しい変異株が見つかったことが新たな懸念要因として浮上している。このほか、岸田内閣が決定した経済対策は55兆7000億円規模と報じられている。「分配」が軸に据えられているが、経済に対して一定の効果が期待される。一方、自民党の宮沢洋一・税制調査会会長は与党税制改正大綱で金融所得課税についての「来年度以降の考え」を記載することで調整する考えを示したと報じられているほか、住宅ローン減税の縮小にも言及している。また、Go Toトラベルは前回に比べて事業規模が縮小される見込み。岸田内閣は成長の前に財政健全化の道に進むとの懸念が高まり、株式市場では上値を抑える方向に作用する可能性がある。
12月中旬までの日経平均は2万8000円~3万円前後での値動きが想定される。
◆市場の関心は半導体、資源、経済再開関連などに
物色面では世界で稼ぐ企業が引き続き優位となりそうだ。このところ、時価総額が大きくて流動性の高いTOPIXコア30がTOPIX(東証株価指数)をアウトパフォームする動きが鮮明になっている。世界で稼ぐトヨタ自動車 <7203> 、ソニーグループ <6758> 、東京エレクトロン <8035> 、ダイキン工業 <6367> 、リクルートホールディングス <6098> などの押し目は注目しておきたい。
また、来年4月の市場区分見直し(プライム、スタンダード、グロースへ再編)を前に、時価総額が大きい国際優良株の優位性が出始めているとの指摘もある。仮にプライム市場に残ったとしても、流通時価総額100億円未満の企業は、来年秋以降はTOPIXにおけるウエイトが段階的に低下する。その分は流動性の高い銘柄へ資金配分されることになる。
好業績の半導体関連株が11月に続いて物色されそうだ。依然として東京エレクトロン <8035> 、レーザーテック <6920> が中心だが、封止材の住友ベークライト <4203> 、半導体製造装置向けフッ素樹脂製品「ピラフロン」を展開する日本ピラー工業 <6490> 、位置決めに使われる直動案内機器の日本トムソン <6480> 、特殊ガスのジャパンマテリアル <6055> など周辺銘柄にも人気が波及する可能性がある。
資源価格の上昇基調も継続する可能性があり、三菱商事 <8058> 、三井物産 <8031> の資源商社のほか、INPEX <1605> 、石油資源開発 <1662> なども注目しておきたい。さらに経済再開をにらみ共立メンテナンス <9616> 、コロワイド <7616> 、藤田観光 <9722> 、テンポイノベーション <3484> などにも関心を払いたい。
IPO(株式新規公開)ラッシュには注意が必要だ。12月は実に32社(11月22日現在)が新規に株式を公開する。特に中旬以降に集中し、24日は1日で7社が上場する。例年12月は東証1部市場で手掛かり材料が乏しくなり、マザーズ市場などが個別に注目されやすい。今年も同様の流れになる可能性もあるが、IPO銘柄購入のための換金売りに押される場面もありそうだ。
ちなみに、年間では120社を超え、昨年比で3割増。2006年(188社)以来の高水準。100社を超えるのは07年以来14年ぶりという。市場では「来年4月の市場区分変更を前にした駆け込み上場もある」(IPO担当者)との指摘もある。
(2021年11月26日 記/次回は2022年1月2日配信予定)
■和島英樹(Hideki Wajima)
株式ジャーナリスト
日本勧業角丸証券(現みずほ証券)入社。株式新聞社(現モーニングスター)記者を経て、2000年にラジオNIKKEIに入社。東証・記者クラブキャップ、解説委員などを歴任。現在、レギュラー出演している番組に、ラジオNIKKEI「マーケットプレス」、日経CNBC「デイリーフォーカス」毎週水曜日がある。日本テクニカルアナリスト協会評議委員。国際認定テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト(CFTe)。
株探ニュース